89 我慢していたこと(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「シアがこの先も仕事として取り組める……」
ライカンが呟き、トワさんを見て私を見た。
「シアがこれから、子どもができたり……、そうなってもこの仕事できるよね!」
私の言葉にトワさんが笑った。
「そうですね。私も子を持つ母親ですわ。
若い頃は冒険者をしていたこともありますが……」
ライカンが頷いてくれた。
「シアに相談してみよう。
シアが商会長を引き受けてくれたら……、なんという名の商会にする?」
「ユニコーン商会でいいんじゃない?
アイスクリームの商標? マークもユニコーンにしようよ!」
「あら素敵ですね!」
トワさんが賛成してくれる。
「では、この話はユニコーン商会が設立されてからの契約ということで。
アイスクリームのことはギルドがそれまで責任を持って守って下さるということでよろしいですね」
トワさんの言葉にクラーク様が返事をする。
「はい、ギルドで責任を持ちましょう。
すでに商標のアイデアやレシピの権利などは仮ですが私が報告を受けて了承したということに、もし、この氷菓を真似たようなものが提案された場合は差し止めとして審議することにします。
早めに書類を提出して下さい」
ロバートさんが「はい!」と答えてホークに「さっそく書類を作成しましょう!」と言った。
ロバートさん、トワさん、そしてホークとディーと、ケリーさんとキリコさんも一緒にシアのいる家に行くって話になってさ!?
まあ、ライカンが帰れないからねー。
ユミエラも今日は家にいるというので、なんか楽しそうだな。
しかーし!
私達はシドさんと話をするんだもん。ライカンにはいてもらわないと困る。
商会の話はロバートさんとホークとディーにお任せすることにして私達は見送った。
ははは……、シアとユミエラ、驚くだろうな!?
でも、冒険者と違って、妻となり、母となっても続けられて、これからの子どものためにもなる仕事だと思う。
どっちにしろ、仕事をしないと生きていけないのだし。
クラーク様もギルドに帰った。
私とエドガーとライカンとザイマさんとメグミ様は食堂で昼食を食べながら作戦会議。
シドさんとどう話を進めるかってことね。
シドさん、私以外の治療魔法があまり効かないみたいで。それで回復が予想通りに行かず、まだ騎士団の部屋で静養している。
あんなに受け入れるように言ってるのに!!
それに、二人はシーザー王国から長期の視察に来ている。
自由に動き回ることを認められているようなものだから、エレノア王女とアサニヤ王国王族との婚姻話が進んでいることを知らないかもしれない。
そこも伝えて、どう考えているか聞き出したいところ。
私の話は比較的素直に聞いている感じがあるので、私からシドさんへ話をしてみることになる。
いざ!!
騎士団のふたりの部屋へ!!
ドアをノックするとイサクさんが開けてくれた。
「ミコトさん!
治療に来て下さったのですか!」
私は苦笑して言った。
「他の魔法使いの治療をあまり受けてけていないようだと……」
部屋に入るとシドさんはソファに座っていた。
もうベッドで寝ているほど辛さはないんだな。ほっとする。
私に引き続き、ライカンとエドガー、そしてザイマさんとメグミ様が入ってきたので、二人は少し驚いていた。
シドさんの隣にイサクさんが座り、私はイサクさんと反対側の隣に座る。
向かい合わせのソファにライカンとエドガーが座り、ひとり掛けのソファにメグミ様が座った。ザイマさんはメグミ様の後ろに立つ。
「こんにちは。
だいぶ良くなっているようで安心しました」
そして肩に手をやり、動かしてもらって可動域を確認し、痛みがないか気にしてもらう。
大丈夫とのこと。
うん、手で触れてるから何か違和感があればわかるはず。
シドさん、我慢したりはしてない。
治療魔法を掛ける。
掛けながら話をする。
「シドさんは、どんなお子さんだったんですか?」
「子どもの時……?」
「はい。
こうやって手を握って治療していると……、シドさんがまるで小さな子どものように感じるんです。
何か……、子どもの時に、我慢したままになっている強い思いとか、心残りとかあるのかなって」
シドさんは「子どもの時……」ともう一度呟いた。
私は自分のことを話してみることにした。
「私は9歳でこちらの世界に転移してしまいました。
友達と遊んでから、家に帰るために歩き出したら、見知らぬ森の中の道にひとりでいて……、怖くて泣いてしまいました……」
「それは! 怖い思いを……」
「はい。
その時、エドガー、その時はクルトでしたけど、今でも一緒にいてくれてるシア、ユミエラ、エドガーに助けてもらって。
その時のことは怖い思い出だけど、もう引きずってはいません。
シドさんは……、何か引きずっていることがあるのでは?」
「俺は……。
母を人質に取られていた。
だから、父の……、大臣のために、動ける人材になることを求められて。
辛く大変な修行を……。
したくない、嫌なこともしなくてはいけなかった」
「大臣?」
イサクさんが教えてくれた。
「王妃様の兄にあたる大臣じゃないかな?
あの方が、シドの父親だったのか!?」
シドさんは暗い目をして答える。
「父と言ってもそこに親子の情愛はなく。
大臣にしてみれば、俺は……、裏切らないであろう、駒だ」
「お母様を人質にされていた?」
私の言葉に私を真っ直ぐに見るシドさん。
「ああ、そうだ。
だから、イサクとイサクの母親のライザのことが気に掛かる」
「シドさんのお母様は?」
「……もう亡くなったよ。
3年前だ。風邪をこじらせてあっけなく」
「それは……、残念なことでしたね」
「ああ、あっけなく。
俺の人質はいなくなったのに。
俺はしなくてもいいのに。
惰性というか、父の、大臣の……、そして王妃の命令に従って動いている……」
「だから……、母を思う子どもの頃の気持ちが強く残っていたのですね」
「思っていたのかな?
惰性というのが当てはまるような気がする。
これ以外の生き方を知らないというか……。
母が生きている時だって、母が不自由なく過ごしてると言われるがままに、ほとんど訪ねることもせず……」
「いえ、怖かったのでしょう。
自分が何かを要求することで、母に何かが起きるのではと。
お母様を思う気持ちは、大切に思う気持ちは伝わってきます。
それに、もっとお母様と一緒にいたかったし、甘えたかったと……」
シドさんの表情が歪んだ。
「やめてくれ……。
俺はもう、自分でやめることができるのに。
母はもういない。だから、やりたくなければ、父から離れることができるのに……。
なんだろう、生活を変えることが怖い……のか?
それとも、もうあきらめているのに、何かしら血の繋がりに期待してる!?
いや、やっぱり惰性だな……」
「血の繋がり……。
大臣の子ということは、王妃にとっては甥で、エレノア王女とエリオット王子とは従兄弟ということですか?」
イサクさんが呟いた。
シドさんがぱっと顔を上げた。
「エレノア王女とエリオット王子は知らない。
俺がなんとなく、そう感じているだけだ」
「……エレノア王女に、アサニヤ王国の王族との婚姻の話が進んでいることは知っている?」
私の言葉にシドさんよりイサクさんの方が強く反応して、ちょっとびっくりした。
読んで下さり、ありがとうございます。




