76 新しい名前(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「で、治療してしまったと。
髪も顔を見せちゃって、挨拶もしちゃって……」
エドガーにがっくりされる。
「ごめん……。みんなにあんなに配慮してもらったのに……」
ザイマさんとメグミ様が慌てて言ってくれる。
「突発的な事故で!!
夕方でしたし、治療魔法ができる人も少なく、仕方なく!」
「そうよ、怪我をしている人がたくさんで、治療しないなんてわけには……」
「それは……、仕方ない。
で、シドの怪我をミコトが?」
ライカンが聞いてくれ、私は頷く。
「うん、イサクさんを庇ってくれたんだって。
肩の傷がけっこう深手で、それに……、シーザー王国って聖魔法はあるけど、あんまり使用されてないよね。
だからか、なんか入っていかないというか、効果が出るのが遅いっていうか……。
シドさんって……。
なにか……、手を握られた時に変な感じがして……。
あ、悪い人って感じじゃなく、なんか、精神的に幼いというか……、うーん」
「手を握られた?」
エドガーの目が三角になってる。
「え、あ、治療のために最初は私から手を取って。
終ったから離したんだけど、そしたら、向こうから握ってきて。
その時、その……、下心っていうそういうんじゃなく、なんかお母さんを思い出しているような、子どもみたいな感じがした……」
シアが心配そうに言った。
「イサクも、そのシドも魔法塔の騎士団の方で泊まっているのでしょう?」
今はあの事故のあった次の日の朝だ。
ライカンとエドガーに連絡を入れ、シアが一緒にメグミ様の家まで来てくれた。
ザイマさんも来てくれてる。
ユミエラとホークはいない。
ディーが来ているとかで、今日は三人で狩りに行ったそう。
でも、なんでディーが?
そう聞いたら、ライカンがシアと結婚することになったと手紙を書いたんだって。それで、お祝いを言いに来てくれたのかな?
ディーもライカンと同じで、過去ごとユミエラを受け入れてくれたらいいのに。
まあ、それは私が言うことじゃないけど、ね。
でも、ホークがなんだかんだとユミエラのそばを離れないのは……、あのふたりは姉と弟みたいだよね。仲が良いんだか悪いんだかわかんないように見えるけど、友達ってよりは、身内みたいな感じ。
「で、ミコトとエドガーが結婚するって?」
シアに言われて、自分の現実に引き戻された。
そうなんだよなー、結婚しようって自分から言っちゃったんだよねー。
「まだ早いんじゃなかったの?」
心配そうに聞いてくれるシア。
「うん、早いと思うけど、シアは新しい名前にして、その、新しい本当の名前を手に入れたから、叔父さん達のこと、もう怖くないでしょ?」
「……ええ」
「エドガーもね、そうしたらいいんじゃないかって。
そうしたら、私とエドガーで結婚するのが、一番手っ取り早いんじゃないかって」
ライカンとシアが顔を見合せて、苦笑した。
エドガーが少し機嫌悪そうな顔をする。
「その説明だと……、本当は結婚したくないのにって感じだぞ」
「うーん、さすがに早いんじゃない?」
私も苦笑しながら言った。
「私もユミエラも……、ミコトが良ければ、いいと思うわ」
シアの言葉にほっとした。
「ありがとう。じゃあ、エドガー……」
「ミコト!
俺からも言わせてくれ!
結婚して欲しい!」
「はい」
なんかゆーるい間が……。
「まあ、いいか。
とりあえず結婚ができれば」
エドガーがぼそりと呟いた。
「とりあえずって……」
「だってエリオットやカイラムがまだミコトのこと狙ってるからな、きっと」
「じゃあ、ミコトの結婚の仕度、私にもさせてね!」
メグミ様が微笑んで話に参戦してきた。
善は急げ! ってなことで、いや、結婚って善なのか!?
明後日、結婚の届けを出して、魔法塔で新しい名前を登録してもらうことになる。
新しい名前をエドガーと考えるように言われて、エドガーと私は私が使わせてもらっている部屋に行った。
「新しい名前か。
ミコトの姓はあるんだよね」
「うん、お……」
「まだ言わないで。
俺もミコトの姓を名乗っていい?
で、二人で考えた名をつけないか」
「えーと、ミコト・ふたりで考えた名前・私の姓ってこと?
うーん、二人で考えた名前と姓を秘密にすればいいか。
あ、でもそうすると、私とエドガーはお互いの名前知っちゃうよ」
「……それはいいんじゃない?」
「まあ、大丈夫か……」
ふたりで名前を考える。
好きな花の名前とか、歴史上の人物の名前とか、いろいろ上げてみたけど、なんかうーんって感じで。
「俺……、ミコトに初めて会った時に……『雪の子』だと思ったんだよ」
すごく懐かしそうにエドガーが言った。
「髪も黒くて、瞳も黒くて……、なのに『白』ってイメージがすごくした。
子どもの頃、読んだ物語の、雪の子って思った」
あー、確かに私は色が白い、かも。
髪も目も黒黒効果でよけいにそう感じるかもね。
ビアンカか。
なんか前の世界だと、ちょっと強そうな女の子の名前っぽいけど。
「女の子の名前っぽいけど、それでもいいなら。
『ビアンカ』にする?」
えーと、ミコト・ビアンカ・オオシロになるのか!?
エドガーは、エドガー・ビアンカ・オオシロ……。
なんかかわいすぎない!?
「ミコトは俺に初めて会った時、何か感じなかった?」
聞かれましても……。
「大きいのにシアが『男の子』って言ったのに驚いた。
えっ、男の人じゃないのって!?」
「あー、あの時、俺もまだ16ぐらいだっけ?
シアにしてみれば、ガキだったよな」
「でも、それで、クルト……、エドガーのこと、そんなに怖くないと思えたのかも」
「……そうか、そういうこともあったのかもな」
「うん。
お兄ちゃんよりかは大きいから、別なんだけど……。ちょっとそんな気もしたし」
「兄がいたんだよな。
兄の名前は?」
「えー、一成だよ。
でもね、お友達には『イッセイ』って呼ばれてた」
「イッセイ……、いいかもね。
エドガー・イッセイ……、どう?」
「お兄ちゃんの名前というかあだ名!?」
「うん、ミコトの家族のことも感じられるし」
「うーん、まあ、普段は呼ばない名前だから、いいかもね」
イメージ的にふたりで同じ第2の姓をつけるのかと思ってたから、一瞬、あれ? ってなったけど、ああ、それぞれにセカンドネームって話だったのね!?
まあいいかも。
エドガーが声を潜めた。
「で、ミコトの姓が……」
「オオシロ、です。
意味は『大きなお城』……。
ぷっ!」
私は気が付いて笑っちゃった。
エドガーも苦笑している。
「なんだ、よっぽどミコトの方が王家みたいな名前じゃないか!」
「そうだね!
普通の平民なんだけど」
抱きしめられた。
「ミコトの兄の名前を貰うのはうれしいよ」
「うん、じゃあ、そうしよう。
私にかわいい名前を付けてくれてありがとう」
「うん、出会えた時の……、大切な思い出を共有できてうれしい」
軽くキスをしてから、ディーのことを聞いた。
「ディーはホークの所に泊まってるの?
どこか宿?」
「いや、家に来てる」
「へー、ホークが悔しがりそう」
私は笑った後、ん? と思った。
「どこに……、寝てるの?」
「……俺のベッドを貸してやってる」
ん?
じゃあ、エドガーは……。
私の視線にエドガーは少し目を逸らし気味に答えた。
「……ミコトのベッドで寝た」
私がうひょーという顔をしたのを見て、エドガーが慌てたように言った。
「俺ならいいって!」
「あー、はい。言いました。
まさか、本当になるとは……」
「だめだった?」
「いや、大丈夫。
でも、足元に壁と天井が迫ってるというか、寝にくいんじゃない?」
「いや、ミコトのいい匂いがして……」
私はぶわっと赤くなった。
読んで下さり、ありがとうございます。




