73 私と結婚して(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「エドガーが行くなら、私も一緒に行く!
魔法塔の魔法使いとして正式にシーザー王国に入国すれば……、王国も表立っては何もできないよね?」
私の言葉にメグミ様とザイマさんが渋い顔をする。
私のことを心配してくれているのはわかるけど、ここは引き下がれない!
ザイマさんが考えながら言った。
「ミコトさんが行くのは……、どうでしょう?
エリオット第2王子のこともありますし……。
それにシーザー王国だけではありません……。
シーザー王国内ではアサニヤ王国の活動も……。
マイルズ共和国より活発に動く可能性があります」
「アサニヤ王国はマイルズ共和国内での活動が難しいけど、シーザー王国内だと活発……。
シーザー王国だけでなく、アサニヤ王国の影の動きにも注意しなければってことですね……。
アサニヤ王国に私の動きが、シーザー王国に入国したことがバレなければいいのでは?」
「それは難しいでしょう……。
ミコトはカイラム王弟に狙われているのですよ。
しかも、コタンでなんと言われました?」
「……『殺す気持ちがわかった』とかだっけ」
「そうです。
ミコトを聖女として迎えたい気持ちと、思い通りにならないのなら殺してしまおうという執着した歪んだ感情です」
うう、でもさ。
「でも、私は、エドガーと一緒に行きたい……」
ライカンが言った。
「パーティで行くか?
みんなでミコトを守れば……」
私は首を振る。
「でも、ユミエラもシアも行きたくないんじゃない?
あ……、それにシアはリンデウム伯爵家から捜索依頼が出てたよ」
私の言葉にライカンの目がすっと細められた。
「捜索依頼? リンデウム伯爵家から?」
メグミ様が立ち上がり紙ばさみを取って来て机に向かうとそこで広げて、一枚だけ紙を持って来てライカンに渡した。
ライカンは渡された紙を見て苦笑した。
「これは……、本気ではありませんね。
ポーズだな。
捜す気はないが周囲の目を慮って、届けを出したという事実を作りたかったのだろう」
私は驚いた。
「捜す気のない捜索願い!?」
「ああ、本気で捜して欲しいのなら、髪色、瞳の色、年齢、身長、身体つき……、そういった捜索に必要な情報を出さないと。
これじゃ捜しようがない。
本人が名乗って出てこない限り。
そして、この時、シアは……、売られていたんだろう。
叔父である新リンデウム伯爵によって、娼館に……」
ライカンの声が低くなった。
エドガーも手渡された紙を見て頷く。
「ああ、シアの話から考えられるのは、シアを娼館に売ったのを隠して、男と駆け落ちしたと周囲に思わせ、伯爵家としては心配しているというポーズだな。
……でも、この最近の日付の追加は?」
「そうだよね!
それ! 変だよね!
伯爵家で何かあったのかな?
シアがまだ『エスタ』にいると思って、問い合わせがあったのかも!?
そしたら、もういないってなって……」
そう、シアは年季としては後2年くらいあったんだもの。
まだ、いると思ってたんじゃないだろうか。
ライカンが顔を上げて言った。
「一度、シーザー王国で確認してきた方がいいかもしれん」
「行くとしたら、俺とライカンで?」
エドガーの言葉に私はムッとして言った。
「私も行く!」
エドガーが苦笑して、私を見た。すごく困ったような顔だ。
「ミコトが行くって言ったら……、シアもユミエラも行くって言うな、きっと」
それは……、そうだろうけど……。
うん、無理はさせたくない……。
「みんなで、話してみるしかないな」
ライカンがそう話をまとめてくれた。
確かにここで話していても結果は出ない。
話を聞いていたザイマさんが言った。
「イサクはエドガーをクルトとして連れて行きたいのだろう?」
「でも、俺はもう、そういうことを越えたというか……、エドガーという魔法使いとして生きてる」
エドガーの言葉に頷くザイマさん。
「イサクと護衛のシドにはクルトは見つからなかったとして帰ってもらうのが一番ではないですか?
それで、シアやエドワード王子のことは魔法塔とギルドで確認してもらって……」
シアはどうだろう。
人に任せたいと思うだろうか?
私がそう思った時、ライカンが言った。
「シアはもしかしたら、一度帰って、全てをはっきりさせたいと思うかもしれない」
みんながライカンを見る。
「そう、シアは自分で片を付けたいと思うかも。
それに、私と結婚して、私の妻という身分と新しい名を持った。
捜索されてるパトリシア・リンデウム元伯爵令嬢ではない」
「……本当の名前で縛られないってこと?」
私は思わず聞いていた。
「ああ、そういう意味もあるな。
リンデウム伯爵家の叔父家族は、もうシアには手出しできない」
私はエドガーを見た。
「エドガー!!
私と結婚して、名を新しくしよう!!
エドガーの名前……、王子としての本当の名前は、王家に握られてるよね!?
だから、変えちゃおう!」
エドガーは驚いた表情をしたけど、うれしそうに微笑んだ。
「いいの!?
結婚してくれる?
俺としてはうれしいけど……」
エドガーは少し困ったような、でも、うれしそうに言った。
う……。
でも、結婚=その初夜とかじゃないよね!?
その、契約としての結婚とかもありなんじゃない!?
でも、今はもうそんな話している場合じゃなくて、エドガーを守るためなら16歳になってからとか悠長なことは言ってられない。
少しでもエドガーの自衛のためになることなら……。
「なら、シアにも相談して、話しを進めよう。
ユミエラは……、ユミエラを売った父親もまだ健在なのだろう?」
ライカンがエドガーを見る。
ザイマさんが「調べましょうか?」と言ってくれる。
エドガーが頷いて、ユミエラの父親の名前やいる街、仕事など紙に書いて渡した。
「王都の外れの……、問屋業ですか……」
「ああ、母親はもういなかったはずだ。
ユミエラが長女、下に長男の弟、次女の妹がいたと思う。
父親が仕事の手を広げ過ぎて、負債を抱え、それを返すためと聞いた。
ユミエラは15歳だった。
年齢の割に背が高くて、体格もしっかりしていて。
家の方でも父親を助けて働いていたそうだが……、一度に金を手に入れる方法として、娘を……。
で、シアが冒険者を副業でやらないかと声を掛けた」
「……ユミエラは納得して? 家族のために自分を売ることを……」
メグミ様が苦しそうに言った。
「さあ……、売られてくる子はそんなことは自分では言いませんからね。
大抵、親か、親戚か……、目上の大人に連れて来られて、自分の名と年齢を言うのが精一杯で、売られて置いていかれる。
『エスタ』は比較的良心的な店だったけど、慈善事業ではないから……。
女主人に聞いたことがある。
シアは薬で眠らされて、連れて来られ、置いていかれたそうだ。
前の主人の時で……。マダムもさすがにこれは非道だと思ったと……。
『エスタ』でさえそうだったんだから……。
他の店の女の子はどんな扱いを受けているのか……」
私はマダムを思い出した。
マダムは……、自分がそうやって売られた時のことを覚えているから、厳しいながらも娼婦に理解もあったし、騙すようなこともせずに、副業を認めてくれたりしたのだろうか。
読んで下さり、ありがとうございます。




