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71 母の身代(シド視点)

どうぞよろしくお願いします。

『クルト』という黒髪で青目の冒険者、本当はエドガー王子を探しながら、ゆっくりと俺達は視察の旅を続けていた。

 最初はその名のそれらしき男を見たという者がちらほらいたんだが、マイネに入るとぱったりいなくなった。

 こちらに来ていないのか?

 すると、南へ進まず、首都のジュノーへと向かったのか!?

 ジュノーへ移動してみたが、やはり手掛かりはさっぱり見つからなかった。

 まあ、人探しより、視察がメイン。

 それはイサクに任せて、別行動とすることにし、俺は専らそこら中に者に声を掛けて『クルト』という名の黒髪青目の男性冒険者を探し続けていた。

 イサクはイサクで、行方不明の兄としての『クルト』を探しているのだが……。

 だが、さすが首都。

 視察として共和国側が挙げてくる施設がたくさんあり、イサクと俺は途中から真面目に視察することにした。

 そしてジュノーから港町モルドバへ出て、そこから海の上を往く大きな船に乗り、コタンへ到着した。

 コタンは古代から図書館があって、学術都市としても名を馳せている。

 イサクも図書文書係だっけか?

 仕事柄というより、自分自身の興味があるのだろう。

 とても楽しみにしていると話していたし、実際、図書館や研究所に大興奮している様子がわかった。シーザー王国代表文官としてはなるべく冷静さを保とうとしていたがな。

 ま、隠しきれていなかった。

 せっかく、マイルズ共和国の奥の方まで来れたんだ。

 イサクは好きな自分の仕事をすりゃいいさ。


 俺はあちこちの研究所へ行くたびにイサクのそばをそっと離れ、研究員や施設の管理をしている者などに『クルト』という黒髪で黒目の冒険者を知らないかと聞いて回っていた。



「黒髪、青目なんて、たくさんいるよな!」


 ギルド近くの酒場で『クルト』と同年代っぽい男達に声を掛けるとそういう言葉が帰ってきた。


「黒髪、青目の冒険者に心当たりが?」


 俺はその男達にもう一杯ずつご馳走することにした。


「ありがてぇ!

 えーと、前に一緒に仕事をしたパーティの男に黒髪青目がいたな……。

 でも、クルトじゃなかったぜ!?」

「名は?」

「何だったかなあ……」


 ちっ! もう一杯か?

 店に注文しようとすると、慌ててその手を下げるように手を振られる。


「違う! 本当に知らないんだ。

『ユニコーン』ってパーティ名だったことは覚えているんだ。

 五人で、三人が女、男が二人。

 そのうちのひとりが黒髪青目で20代ぐらいだったよな?」


『断崖の剣』っていう、バカっぽい名前のパーティの男達が頷く。

 そのうちのひとりが「女の方は名前を覚えているんだが……」と呟いた。


「女の名前?」

「ああ、ユミエラっていう気の強そうな赤毛の若い女と、シアって呼ばれてたきれいな顔したおとなしそうな女……。それにミコトだったかな?

 収納魔法ができるまだ若いというか女の子だったよ」


 ミコト!?

 俺の頭の中で何かがカチリと嵌った気がした。


「ユミエラ、シア、ミコト。

 それに黒髪青目の若い男……」

「最後のひとりは騎士だと思う。

 30代後半くらいのそいつもめっぽう強くってな……」


 礼を言って宿に帰り、何のピースが嵌ったのか頭の中を整理していく。


 ユミエラ、シア、ミコト……。

 そして行動を共にしている男が二人。

 ひとりは黒髪青目で20代の男……。


 ふと、シーザー王国のカノンの『エスタ』で聞きこんだ話を思い出した。




『クルト』が仕事していたという娼館だ。

 高級な方で、女も頭が良くてきれいな者が多い。それに『エスタ』の主人は女だった。聞き出すのが厄介そうだな……。

 俺は客を装って入り込み、娼婦と話をしてある程度の情報を仕入れることにした。


 クルトは本当にいたことは確か。 

 少し前に辞めてしまったこと。その直前にプリシラとミカエラという娼婦が自分の年季の金を払って自由になって出て行ったそうだ。下働きの掃除婦を連れて。

 クルトはその日の午後に仕事を辞めたので、彼女達の後を追ったのでは? ということだ。


「何でクルトがその女達と一緒だと思うんだ?」

「だって、クルトはプリシラとミカエラと仲良かったから。

 三人で小さなミコトのことをかわいがっていたし……」

「かわいがる?

 下働きの掃除婦を?」

「掃除婦って!

 ミコトはかわいい女の子よ。小柄で幼く見えるけどね。

 部屋を掃除していたミコトが貴族の坊ちゃんに見初められてね。

 それでプリシラとミカエラが連れて逃げたんじゃないかって」

「貴族の坊ちゃん?」


 その時、エリオット王子の話が閃いたのだ。

 エリオット第2王子が娼婦の女達を探しているってのはもしかして……。


「……そのミコト、プリシラ、ミカエラを追って行ったということか、クルトは?」


 女の表情が怪訝そうになり、少し瞳を左へ揺らした。

 何か探っていると勘づかれたか!?


「……たぶん、ね。

 でも、それを言うなら、カイラムも消えたわ」

「カイラム?」

「料理人の助手というか弟子?

 肌の色が褐色で、アサニヤ王国の人だと思う」


 これは何だ?

 わざと混乱させるようなことを言ってきている?

 だが嘘ではないだろう。

 わざとクルトや彼女達の話題から話を逸らそうと複雑にしてやろうと仕掛けてきている!?

 俺はわざと明るく言った。


「アサニヤかぁ!

 仕事で行くこともあったな!」


 女は少しほっとしたような顔をした。

 もうクルト達のことは聞き出せないだろう。




 そんなことを思い出した。

 ピースは『ミコト』だ。


 次の日から俺はクルトだけではなく、ユミエラ、シア、ミコトという名にも気を配った。

 クルトの名が聞かれなくなったタイミングでミカエラ、プリシラの名前を聞かなくなったことに気づいたからだ。

 名を変えていたら?

 でも、なぜか『ミコト』だけ変えていない。

 変える必要がなかった、

 彼女は掃除婦で娼婦ではなかったからだ。

 クルトは、何を名乗っているのだろう。

 プリシラがシア。ミカエラがユミエラだろう。


 シア、ユミエラ、ミコト。

 ユニコーンという冒険者パーティ。

 これを追って行けば、クルトがそばにいる。

 ただ、イサクには知られない方がいいだろう。

 こっちにはエリオット第2王子も絡んでいる。

 イサクのことを心配しているのか?

 自分で自分の行動や決断に疑問を感じた。


 そうか……。イサクの母、ライザの存在だ。

 イサクとライザに、俺は、俺と母を重ねているんだ。


 もう俺の母は亡くなっていて、俺は自由なのに。

 なんで……、こんなことを続けているんだろうな。


 ギルド周辺に聞き込みを続けたところ、ユニコーンというパーティは魔法塔からスカウトされて、ジュノーへ向かったということだ。

 入れ違いだったのか!?

 上手くいかないものだな。

 ただ、クルトはエドガーと名乗っていて、騎士はライカンという名前だとわかった。


 エドガーを名乗るということは、自分の出生の秘密に気づいたということか!?

 そうなるとシーザー王国に連れて戻るのは難しそうだな。

 俺は王妃や大臣から離れることを考えてみた。

 そうなるならば、エリオット第2王子に恩を売ってもいいかもしれない。

 それにはミコトとやらを、シーザー王国へ連れて行けばいい。


 エリオット第2王子とエレノア第1王女。

 あいつらは全く気付いていないが……、血で考えれば、俺の従兄弟になる。

 そんなことを考えても血とか家族とかそういう気は全く起きないが。俺の家族は、血縁者は亡くなった母だけという思いが強い。

 でも、生物学的な父である大臣には何も感じないのに、王子と王女には……、歳下であることもあるのか、何かしら不思議な温かいもやっとする気持ちがある。



 俺は再び訪れたジュノーの魔法塔で声を掛けてきた騎士の名がライカンだと聞いて、心の中でニヤリと笑った。

 何を仕掛けようとしている? 

読んで下さり、ありがとうございます。


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