70 兄弟(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
メグミ様は顔を顰めて聞き返してきた。
「……叔父家族に家を乗っ取られた?
シアは貴族だったの?」
「はい、ライカンもそうですよ。
ふたりとも伯爵家とか言ってた。
ライカンは知らないけど、シアは……リンデウム……とか言ってた気が」
「リンデウム……、リンデウム伯爵家……。
何かで聞いたことがあるような気がするわ」
「シーザー王国の方にも魔法塔の魔法使いが?」
「魔法使いのギルドのようなものが『魔法塔』だと思ってくれるといいわ」
なるほど。
「手続きとかはギルドに任せて、提携しているけどね」
「……ギルド内に魔法塔が入ってる?」
「そうね、そう考えていいわ。
ギルドやマイルズの騎士団とは協力し合う関係よ。
魔法塔の魔法使いは至る所に、いろいろな団体や人や冒険者としても活動している人もいる。
ギルドが入れない所まで入ることができる。だから、内情を収集して情報とすることができる」
「だから、それぞれの王国の内情に詳しかったんですね!」
「……思い出したわ!
シーザー王国から、ギルドに出されている探し人!!
パトリシア!
パトリシアという名のリンデウム伯爵令嬢が!」
メグミ様は本棚へ行くと、何か大きな紙ばさみを引き抜いて、机の上に広げた。
めくっていき「これよ」と言う。
私はメグミ様の机に近づき、覗き込んだ。
『捜索依頼
パトリシア・リンデウム前伯爵令嬢 シーザー王国
恋人と駆け落ちし行方不明』
でも、その下に最近の日付があり追記がある。
『生存の話あり。リンデウム伯爵家より追加情報求められる。
冒険者として活動している可能性あり』
「そう!
この追記があったから! 覚えてたのよ!」
「何で、追加……。最近の日付だ……。
っていうか、叔父さん達に不良娘って周囲に話をされて、だんだん周囲の親戚や友人とも疎遠にされて、騙されるように娼館に売られてしまったと。
その後に男と駆け落ちしたことにされてることを知ったと……。
でも、また捜してるって……、何!?」
「これは調べた方がいいかもね」
「……でも、ライカンと結婚してもう昔のことは……」
そう、思い出したくないかもよ。
メグミ様がため息をついた。
「そうね……。
でも、シアはライカンには過去のことをちゃんと話しているのでしょう?」
私は頷いた。
「ライカンだけに伝えるのも……、どうかと思うわ」
「でも、ライカンに相談してからってのは……」
ライカンの方がシーザー王国の貴族情報に詳しいかもしれない。
昔のことだろうけどね。貴族の体面とかもあるのかもしれない。でも、こんな風に情報が流されていたら、シアはまた傷つくかもしれない……。
メグミ様が紙ばさみを閉じた。
「では……、ライカンに相談してみてから……」
私は紙ばさみを受け取り、さっきの本棚へ、空いている空間に戻した。
その時、ドアがノックされ、ザイマさんが入ってきた。
「もうジュノーの街には入ったそうです。
今日の昼には、こちらに来るでしょう」
うん、視察のイサクさんとシドとやらの話ですね!!
メグミさんが頷いた。
「では、手筈通りに。ミコトはこの部屋から動かないでね」
計画のことは聞いている。
ライカンがシドに『クルトという名の友人がいるのだが』と声を掛け、ギルドの方へ連れて行くことになっている。
その隙に魔法塔でエドガーとイサクさんを会わせる。
シドがギルドにイサクさんを連れて行くとなったら、ホークに会わせて、人違いだったとするって話だった。
連れて行かないように、イサクさんに視察の提案をするのがメグミ様とザイマさん。
上手くいきますように。
メグミ様とザイマさんが出ていった。
鍵を掛けるように言われているので部屋の中から鍵を掛ける。そして、私は窓に寄った。
イサクさん、クルト……うん、エドガーのことを絶対連れて帰らないと、じゃないといいけど。
お母さんのこととか、心配ではある。
塔の窓から、騎士団の建物の方にひとりの男の人が歩いていくのが見えた。
魔法使いでも騎士でもない服を着ている。
彼が、えーと、シド、かな?
イサクさんではない気がする。
ぎゅっと握りこんでいた手に気づいて、左手を開く。
内側に青い石が光る。
また手を握り直して、祈った。
上手くいきますように……。
私は事務の仕事に戻る。書類を読んで報告は街別に。承認を求めているのもはサイン待ちの箱に。
どれくらい時間が経ったのだろう。
ドアがノックされ、私はドアの方へ寄った。
「ミコト! 私よ!」
メグミ様の声だ!
私はドアの内鍵を回して解除すると、ドアを開けた。
メグミ様とザイマさん、そしてエドガーともうひとり青年がいる。少しほっそりしている感じの……。
「ミコト!
イサクを紹介するよ!」
部屋の中にみんな入ってきた。
上手くいったということかな。
「ライカンは?」
「うまくギルドの方へシドを引っ張り出してくれた。
ホークに会ってから、イサクに確認するために戻ってくると思う」
エドガーの言葉に私は頷いた。
「この……女の子が、兄さんの婚約者なの?」
少し驚いた声でイサクさんが言った。
「ああ、ミコトだ」
私は丁寧に礼をした。
「ミコトと申します。
今は魔法塔の魔法使いです」
イサクさんが驚きの表情のまま、私をじっと見ている。
「その黒髪に、黒い瞳……。
もしかして、転移者!?」
私はエドガーを見て、目を合わせて確認してから頷いた。
「はい。
エドガーが……、クルトを名乗っていた時から、ずっと守ってくれてました」
イサクさんはメグミ様を見た。
「メグミ様も転移者ですよね!?
本当に転移者っているんだ……。それに、やっぱり小柄なんですね……」
メグミ様と私を交互に見て、ひとりごとのように呟くイサクさん。
「イサクは俺を探しに来たけれど、見つからなかったら見つからなかったでもいいそうだ。
エレノア王女が母さんが傷つけられたりしないように気を付けて下さっているそうだ」
「そうなんだ!
それは良かった!」
私はほっとした。
でも、イサクさんが困ったように切り出した。
「でも、兄さんに、うん、エドガー王子に聞いてもらいたい話がある。
エドワード王子のことだ。
エドワード王子は……、転移者の母親によく似ておられるようで、男性にしては小柄でまるで女性のような美しい容姿をしていて……。
それが王や王子らしくないと。
そんなこともあり、部屋に引きこもるようになって……。
もう長い。
そのために廃嫡されるか、もしかしたら、まだ王子としての身分のまま神殿へという話になるかもしれないが……。
兄さん。
王妃やその兄である大臣が兄さんを利用としようと、隠された王子としてエドワード王子と立場を交代させようとしているけども……。
エドワード王子は、もしかしたら、そのほうが助かるのかもしれない。
とてもやさしくて……、とても寂しい方なんだ。家族の愛を知らないで育って、傷ついてしまっているような……。
僕は、あの方を……。
僕とエレノア王女はお助けしたいと思っている!!」
エドワード王子。エドガーの双子の兄弟。スミレコの息子の一人……。
読んで下さり、ありがとうございます。




