69 事務仕事(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
ザイマさんちより広い!
と、そういえば旦那様は!?
私がキョロキョロしているのを見てメグミ様は笑った。
「夫は今はここにいないわ。
ジュノーのギルドの方に出向しているの。
けっこう地方の街に行くこともあって、週に一度くらい帰ってくるかなって感じよ」
「……勝手に入りこんじゃって大丈夫ですか!?」
「大丈夫。ちゃんと話していたし、それに、マルミ達が泊まりに来ることもあるから部屋はあるしね!
それより、そんな魔道具の方で噂になってたなんて……、気が付かなかったわ」
「私も知りませんでした。
でも、王家の指輪ってことが噂されてるなら、エドガーが王子だって示しちゃってますよね!?」
「ええ、気づいてよかったわ。
先に口止めができれば。
ザイマのことだから、エドガーとライカンにも伝えてくれるでしょう。
ミコト、こっちの部屋を使って。
マルミ達が帰ってくると使う部屋なんだけど」
案内された部屋はけっこう広くて、びっくり!!
「ひ、広くないですか!?」
「あー、家族で泊まるからねー。
落ち着かない?」
「……はい」
メグミ様は笑ってから「じゃあ、こっちは?」と違う部屋に連れて来てくれた。
洗面所と浴室のそばのこじんまりした部屋だ。
ベッドと小さなクローゼットくらいしかない。
「時々、地方から訪ねて来た魔法使いの恋人や婚約者を預かることがあって。
その時に使うゲストルームなんだけど」
「ここがいいです!
ここでお願いします!」
私の必死な様子にメグミさんがツボったようで大笑いした。
「ミコトは本当に欲のない子よねー。
それがかわいいんだけど」
欲って何!?
転移者って……、そうか、確かにいろいろな人がいるかもね。
王子と結婚して贅沢できることがうれしい人もいたかもしれない。
こんな異世界に放り込まれて……、私は小さかったし、いい人達に保護されて、嫌なことに会わないできてしまったこともあるけど、嫌な思いをして、もがいて努力した人もいただろうし。
「うーん、欲……、広い部屋とか豪華な生活とかには興味ないけど、エドガーやシアやライカンやユミエラ。大切な人達と一緒にいたいっていう欲はあります」
私の言葉にメグミ様が頷いた。
「そうね。守らないとね」
私は大きく頷いた。
荷物を置かせてもらい、トイレや洗面所、お風呂を見せてもらう。
旦那様は一週間は戻らないそう。
「ふたりだから、気楽にね」
「はい、お願いします!」
お茶を飲んでいるとザイマさんが戻って来た。
「お疲れ様、ありがとう」
メグミ様が言いながらザイマさんにお茶を入れる。
「ふー、なんとか魔道具関係の魔法使いには指輪について緘口令をお願いしました。
シーザー王家絡みということもです。
キリエは向こうに残り、説明をしてくれています。
『そういうことなら、早く言えばよかったのに!』と言われましたよ」
ザイマさんが苦笑いだ。
「そうね。
キリエにはお隣さんだもの、もっと早く言えばよかったかもね」
メグミ様も苦笑した。
「ミコト、その指輪は外せないんだよね?」
ザイマさんが確認する様に言ってきた。
「はい、たぶんエドガーじゃなきゃ外せないと思います。
それにこれは私の身を守っているらしいので、エドガーは外させないと思います……」
「そうか……、目立たないようにできるといいんだが」
「なら、こうしてひっくり返せばいいのよ」
メグミ様が私の左手を取り、手のひら側に石が来るようにくるっと回した。
そうすると細い金属の指輪に見える。でも、手のひら側を見せないように気を付けないと!
「なるほど。
ライカンとエドガーには伝えてきました。
他にも何か噂になっていないか、魔法塔でも各部署の代表にお願いしてあります」
「ありがとう。
後から気が付くこともあるのね。
でも、キリエのおかげで先に気が付けて良かったわ」
メグミ様が微笑んだ。
その日の夜、メグミ様に挨拶して、こじんまりとしたゲストルームのベッドにもぐりこんだ。
気持ちは安心している。
明日からは私はフードを被って過ごすことにしている。
前と同じだな。
ちょっと旅に出る前の生活を思い出した。
でも、みんなと離れてひとりなのは……、アサニヤで仕事をした時は日中離れてたけど、夜は一緒だったからな……。
次の日の朝、私とメグミ様は朝食を食べてから、ゆっくりと魔法塔の施設へ向かった。ザイマさんとキリエさんも一緒だ。
本当の白い魔法塔の中に入る直前にキリエさんとは分かれた。
ここだと魔法塔の職員でも呼ばれた人しか入れない。だから、魔法塔以外の人は立ち入れないから、隠れているというか、そういう意味では安心だよね。
私はメグミ様の部屋で、事務仕事を教えてもらうことになっている。
なるべく出歩かないようにするってことで。
部屋に入ると、ザイマさんがざっと書類の仕分けかたや、サインが必要なものは机のここの箱に入れるとか、街からのものは付箋をつけるとわかりやすいとか教えてくれた。
そして、出て行く。
私は書類とにらめっこして仕分けていった。
いろいろな街からの陳情とか報告とか読んでると面白いものもある。
「ミコトは書類のことや街のこと、よくわかっているのね」
机で書類を見ていたメグミ様に言われて首を傾げる。
「書類の形式はザイマさんに教えてもらいました。
後は読んで仕分けてますけど。
合ってたなら良かったです」
うん、この方法でいいなら、このまま行くぞ!
メグミ様は一枚の書類を取り上げて、こちらに見せた。
あ、報告の一枚だ。
ケレスの付箋をつけたはず。
「これ、街の名前が書いてないのによくわかったわね」
「それは……、ケレスのことでは、と?
シーザー王国への入国窓口ってあったから。
たぶんケレス、もしくはもっと北の方のマイルズ川沿いの街ってことですよね。
でも、小麦畑のことが書いてあったし、ケレスかなと」
「通ってきたから覚えているの?」
「それもありますけど、シアがずっと勉強を教えてくれてましたから。
特に地理はしっかり覚えておくようといいって。
旅に出たからには実際に見て覚えるようにと」
メグミ様は感心している。
「なるほど……、ライカンの妻になった女性はしっかり者なのね」
「はい!
難しい言葉とかも教えてくれるし、礼儀作法とかも教えてくれました!
シアは本当に素晴らしい人です!」
「ふふふ、そうなの!?
もうひとりのユミエラは?」
「ユミエラは強いです!
私……、エリオット王子でしたっけ?
あの時は貴族の坊ちゃんとしか思わなかったけど、エリオット王子につかまって、ベッドの上に押さえこまれて、助けを呼ぼうと悲鳴を上げました。
一番に駆けつけてきて、王子の顔にグーパンチして私を助けてくれましたよ!」
メグミ様はびっくりしてから、顔を赤くしてすごく笑った。
「……はあ、そう!
そういう……。
だから、ミコトにとって大切な二人なのね」
「はい!!
ふたりとも家族……、ユミエラは父親に、シアは家を乗っ取った叔父家族に売られてしまったそうだけど。
そのまま、悲しみに沈んだり、人生を諦めたりするでなく、冒険家としても稼いで、自分を自由にするお金を貯めてました。
そんな時に私を保護してくれたんです。
私の自由のことを考えてくれて……、守って育ってくれました!
クルト、今のエドガーも一緒です!」
読んで下さり、ありがとうございます。




