67 歌治療(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
次の日、ライカンはお休みで、私とエドガーは二人で魔法塔へ行った。
シアとゆっくりしたらいいよ。なかなか二人っきりってのも貴重だもんね。
ユミエラはホークとギルドで待ち合わせだって言ってた。
あんなにお酒飲んで騒いでたのに!!
ロバートさんはお酒飲んだら、よく泣く人だった。
やっぱり、シアのこといいなと思ってたんだって。
ホークが何だか慰めていて、笑っちゃった。
魔法塔に到着して、メグミ様の所へ行く。
今日は治療の修行の日。
エドガーはザイマさんと一緒に護衛としてついてくれるって。
私の担当は急患として運び込まれてきてた小さな男の子だった。3歳くらいかな?
道で他の子ども達と遊んでいて、曲がり角で飛び出してしまい、馬車に足を引かれてしまったそう。
その時にちょうど足首の上あたりを車輪が通過して、靴は履いていたけれど、足首の部分は素肌だったので、肉が車輪に持っていかれたように削げてしまったようだ。
目の周囲が赤くなり、泣き腫らした状態なのが痛々しい。
私はまず全体的に治癒魔法を掛けて休ませてあげたいと思った。小さな子どもだし……、無言で治療するよりはと、歌うことにした。
「今から治療するからね。
眠くなったら、寝て大丈夫だから」
私は男の子とお母さんにそう穏やかに告げてから、横になっている男の子の背中に手を当てた。
「涙の跡よ、消えてくれ♪
怪我も痛みもさようなら♪
疲れているならお眠りよ~♪
寝ている間に治します♪」
ゆっくりと男の子にもわかるような優しい言葉で歌う。
男の子の背中をやさしくトントンすると、安心したようにすーっと寝てしまった。
うん、目の周り、きれいになりつつある。
お母さんもうとうとし始めた。
エドガーがお母さんに声を掛けるか迷っている。私は首を振った。
お母さんも疲れているのだろう。
休んでもらった方がいい。
足の方は……、骨は異常が無さそうと医師からの診断が出ていた。
重い車輪に足首の皮膚がめり込んだように密着してしまい剥がされたようになったらしい。
私は皮膚の再生を祈って歌い続けた。
「新しい皮膚が育ちます♪
骨を支える筋肉よ♪
育てよ育て、しなやかに♪
この子が望むその場所へ、歩んでいけるその足を♪
行きたい所へ歩いて行ける♪
行きたい所へ走っていける♪
みんなと一緒に遊べるよ♪
治れよ、治れ♪」
眠っている男の子の背中をトントンしながらやさしく歌い続けた。
穏やかな顔でぐっすり眠っている。
私は微笑んで、男の子の額から顔に掛かってしまっている髪の毛をそっと直すように撫で上げた。
「……良さそうね」
メグミ様が声を掛けてくれたので頷く。
そのタイミングで男の子のお母さんが目覚めた。
男の子の様子を見てほっとしている。
私はお母さんに目配せして静かにねというジェスチャーをして微笑んで、そっとベッドを離れた。
メグミ様はベッドのそばの通路で待っていてくれたんだけど、そばへ行くと「ふふふっ」と笑われた。
「何ですか?」
「いえ、ミコトの歌治療、初めて見せてもらったから!」
「患者さんが、小さな子どもだったから!!」
急に恥ずかしくなる。
シアやユミエラ、エドガーやライカンには恥ずかしくないんだけど……。
メグミ様は真剣な顔をした。
「あなたの歌の力。
一度検証させてもらいたいわ」
「検証!?」
「歌が届く範囲のベッドの人に効果が出ているんじゃないかって思うの。
まだ仮定だけどね。
あの男の子の周囲のベッドの患者、治療の効果がすごくいいの。
ミコトの願いというか、治療の願いや力の入った歌声が聞いた人にも作用しているんじゃないかしら?」
……ということは、大きな声で歌えば一気に大勢の人を治療できる!?
いや、効率いいけど、かなり恥ずかしい……。
「……歌って、習えたりします?」
メグミ様が目を丸くした。
「いや……、大声で歌うなら、歌の訓練を受けた方がいいかと。
そのちゃんとした歌を歌いたい、かも?」
「そうね! 声量も大事よね!」
いや、大きな声を出す練習じゃなく……。
こんな適当な鼻歌にでたらめな歌詞を乗せてる、時に字余りになっちゃう歌をオペラ歌手みたいに歌い上げるって、恥ずかしいというか、できる気がしない。
私はどう説明したらいいのか困ってしまい、曖昧に笑った。
「そういえば、シーザー王国の視察とやらはそろそろ?」
エドガーが話題を変えようとしたのか聞いてくれ、メグミ様が頷く。
「ええ、船でコタンからニースへ出て。
そこからまだ訪れていなかったサライへ寄ってこちらを目指すそう。
そろそろサライかしらね?
2、3日中には到着するのではないかしら?」
私はエドガーと顔を見合わせた。
詳しいことはどう動くかはあまり話し合えていない。
ライカンも急に結婚ってことになっちゃったしね。
「明日からライカンも仕事に戻るでしょうから、話し合えるわね」
メグミ様の言葉にそれまでに具体的にどうしたらいいか、良さそうな方法を考えておかないと。
簡単な怪我の患者にはエドガーも治癒に挑戦してみたり、重い病気の患者にはメグミ様と一緒に分担して治癒魔法を掛けたりして、午前中が終わった。
午後からは属性魔法の練習をすることになり、エドガーと二人、昼食と休憩ということになった。
今日は食堂に行ってみることにした。
騎士団の方の建物に入ってるんだよね。
いつもは弁当を作って持ってくることが多くて、あんまり利用したことない。
だから、ちょっと特別感がある。
窓際の明るい席にすると、白い魔法塔の根元の部分と緑いっぱいの庭がよく見える。
私達は日替わりの定食を選んで、食べながら話を始めた。
「えっと、イサクさんと護衛のふたりが視察団なんだよね。
この二人が別行動をしているところを狙って、イサクさんとだけ話をするってことだよね」
「ああ、イサクと護衛のシド。護衛は俺の顔を知らないようだし。しかも『クルト』を探しているからな。
で、ミコトのことも知らないようだ。まあ、噂で、シーザー王国から逃げてきた転移者がいるらしいぐらいは聞いていて、接触しようとして来るかもしれないが……」
私は頷いた。
私を探していたエリオット王子の使いの者はもうシーザー王国に帰った頃だろう。
「シーザー王国はそこまで転移者が重要って言うわけじゃなさそうだしね。
見つければ神殿に入れて、王家の人と結婚させて、というか軟禁状態にして表には出さない感じだし。
いてもいなくても大差はなさそう」
「そうだな。アサニヤ王国みたいに、信仰の対象になるわけじゃないから。
いれば王家の血に引き込んで……というくらいだな。
または……、王子や王によっては、その癒しの力に依存したり執着されたり……ということか」
エドガーの口調が途中から荒々しくなったのを聞いて、私はエドガーの左手の上に右手を重ねた。
「うん、シーザー王国は力のある個人が追っかけてきてる。
アサニヤ王国は国として追っかけてきてるって感じかな」
エドガーは少し落ち着いた様子で呟いた。
「エリオット第2王子か……。
諦めたかな?」
「私を探してマイルズ共和国まで来てた人の話を聞いて、あきらめてくれるといいね」
「いや……、そんな簡単にあきらめないと思うけど」
エドガーが弱々しく微笑んで、私が食事の手を止めてテープルの上に出していた右手の上に自分の左手を重ねた。
「俺の弟なら、なかなか諦めないかもしれないな」
シーザー王国の第1王子エドワードはエドガーの双子の兄弟。
エリオット第2王子は異母弟。もうひとりのエラン第3王子も異母弟だね。
エラン王子はまだ話題には出てきてない。でも、王妃が側妃の子だからって嫌っていて、聞いたら学校の寮にはいぅているとかで王城にいないんだそう。
後はエレノア第1王女。エドガーには異母妹になる。
読んで下さり、ありがとうございます。
食事が進まないですね。これじゃ。
交通事故は私の実体験です。
子どもの頃、車のタイヤに右足首の皮膚持っていかれて、少し上の足の皮膚を切って移植しました。
手術室の光を覚えています。




