63 魔法塔塔主(ミコト視点)
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その時、ドアの外に人の気配と音がした。ドアが静かに開かれ、小柄なおじいさんが入ってきた。
メグミ様が立ち上がり礼の姿勢をとる。ザイマさんも。
私とエドガーも慌てて倣った。
「転移者ミコトと隠された王子エドガーか」
おじいさんの言葉に私はびくっとした。
王子って、なんで?
メグミ様が私達を紹介してくれる。
「こちらは魔法塔塔主ダルシュカーン様です。
ミコト、エドガー、ご挨拶を」
「エドガーと申します。
この度は魔法塔の魔法使いとして取り立てて頂きありがとうございます。
……こちらは転移者のミコトです。
私達は将来を誓い合っています」
エドガー、私達だって。
王子と言われたのはスルーしてる。
将来を誓い合っている……、本当にそれは……。
「直って、座りなさい。
ミコト、大丈夫か?
何か引っかかっていることがあるなら、言いなさい」
ダルシュカーン様の静かな声。
私は顔を上げてソファに座った。
みんな私を見ていることに気づいて、緊張する。
私はエドガーを見て、言った。
「エドガーが、私を好きになったのは、エドガーがその……、王家の血を引いていて、私が転移者だったから?」
私はエドガーだけを見ていたから、他の人のことはわからない。
エドガーが少し驚いたような顔をした。
「転移者だからじゃないよ。
最初は保護しないといけない小さな女の子だと思ってた。
一緒に過ごして、ミコトのことを大切に思うようになった。
カイラムとかミコトにちょっかいをかけてきそうな奴らのことを疎ましく思ったりして、それで、女性として好きだと愛しているんだと気づいたから、告白した。
俺は、そうだよ。
カイラムのように転移者を探していたわけでもないし、エリオット第2王子みたいに一目惚れして押し倒したわけじゃない。
じっくりミコトのことを知って、本当に好きになって、愛している」
私は下唇をきゅっと噛んだ。
「ミコトは?」
エドガーが聞いてくれる。
「私もクルト……に助けてもらって、ずっと守ってもらって、お兄さんみたいと思ってて。
でも、途中でお兄さんってだけじゃなくて、男の人っていうか、エドガーとずっと一緒にいたいと……」
エドガーが微笑んだ。
「大丈夫、決められてた運命とか、そういうんじゃなくて。
ミコトと俺の間にはきちんと積み重ねてきたものがある。
そうは思えない?」
「……思える。
ごめんなさい。変なこと考えて、気持ちがスンッてしちゃった……」
「はははっ!
かわいいふたりだな。
ミコト、いいことを教えてあげよう。
もし強制力のようなものが働いているなら、それに男が飲まれてしまえば、すぐにミコトに襲い掛かってくると思うぞ」
ダルシュカーン様が笑って言った。
坊ちゃんはいきなり私を押し倒した。
エドガーはそんなことはしなかった。
あれ?
キスしたのは、あれは好きってちゃんと言った後だから、いいんだよな?
私が首を傾げるとエドガーが苦笑した。
「うーん、強制力云々で惹かれているなら、さ。
俺、本当に我慢しているんだよ。
ミコトを傷つけたくないから」
私は頷いた。
「わかった、ごめん。ひとりで不安になって。
塔主様、ありがとうございます。
よくわかりました。
血や魔力ってのも少しはあるかもですけど、エドガーはそれ以上に私のことを大切に思って、愛してくれていて。
私もエドガーを愛していること。
もう大丈夫です。引っかかりなくなりました」
「そのようだな、はっはっはっ!」
塔主様が豪快に、でも、上品さを感じる笑い声。
「エリオット第2王子の方はひとりではなにもできない。
放っておいていいだろう。
捕らえた者には魔法塔に所属したことを伝えて、シーザー王国に戻すつもりだ。
王家が動いているのは、エドガー王子、君に対してだ」
私は思わず、隣に座っているエドガーの手を握った。
「視察はシーザー王家からの依頼で行われている。
王妃からの発案だそうだ。
そして、視察官として選ばれたのが、まだ若いイサク文官。しかも図書文書係という、政治には全く関わっていない部署の文官。生き別れた兄を探している。
王妃か、王家か。
その兄に用事があり、顔を知っている『弟』を探しに行かせたというところだろう」
「なんで今更?
俺は殺されてたかもしれないのに!?」
エドガーの言葉にダルシュカーン様はまた笑った。
「シーザー王国の中で王子達の椅子取りゲームが始まっていてね。君は使える駒として呼び戻されようとしているようだ」
私は肩をすくめた。
「使える駒って……。
はっ! そうすると、イサクとお母様は脅かされているのでは!?」
私の言葉に塔主様は微笑んだ。
「それは大丈夫だ。
まだ、そういう話にはなっていない」
「まだ?」
エドガーが聞き返す。
「シーザー王国ではイサクの母ライザはきちんとイサクの給料を受け取ることができている。
生活に困ってなどいないようだ。
第1王女のエレノア様が気を配っているそうだ。
このエレノア王女は母が王妃だが……、腹違いで引きこもりのエドワード第1王子とも仲が良く、面倒見のいいお方のようだ。
もし、エドガーが見つかったという話がシーザー王国に伝われば、王妃はライザやイサクの身の安全などを言い出して、脅迫してくるかもしれない」
うーん、なんか情報量過多です。
「大丈夫、ミコト?
そういえば、相談したいことって?」
メグミ様の言葉に私は手も首もぶんぶん振ってしまう。
「いえいえ、このことを相談したかったので。
あ、あと、ライカンとエドガーが視察のふたりのクルトを探す温度差があるとか?
文官のイサクさんだけで、エドガーと会うことはできないでしょうか?」
メグミさんと塔主様は顔を見合わせる。
「今、コタンにいる。
図書館でゆっくり滞在しているそうだ。
そこで、クルトとエドガーが同一人物と気づくだろうな。
あと、護衛の方は、どうやらエリオット第2王子が元娼婦を探しているということは知っている。その元娼婦達がエドガーと一緒にいるとは思っていないがね」
エドガーが少し怒ったように言った。
「あの、元娼婦という言い方はやめて欲しいです。
本人達は自分の意思で身体を売っていたわけではなく。親族や家族に騙されるようにして売られて、それでも責任を感じて、生きてきたんです。
恥じることではないと思うけれど、やはり、触れられたくない過去でもあります」
私はエドガーの手をぎゅっと握り直して、感謝の気持ちを込めて見た。
私も気になってた。
うん、ありがとう。大好き!
「これはすまなかった」
素直に謝ってくれる塔主様。
そして、私を見て言った。
「あまり酷なことはしない方が……」
ん?
酷なこと?
私は意味がわからずメグミ様とエドガーを見た。
エドガーが少し慌てて言った。
「酷とか、そういうことは!
確かに我慢はしてますけど、ミコトを愛しているので、待てます」
ん?
我慢?
エリオット第2王子は私を押し倒して。
カイラムは私がエドガーのものになったと勘違いしたら、殺したくなって。
エドガーは……。
繋いでいる手を見た。
「我慢しているのに、手を繋いだりしない方がいいってこと?
あれ、じゃあ、カイラムも我慢してたの?」
メグミ様が苦笑する。
「カイラムは……、アサニヤ王国の教義は聖女に清らかさを求めます。
だから、聖女であるミコトに惹かれながら、汚さないようにと思っていたのでしょう」
ということは……。
「えっ?
『エスタ』にいた時、安全だと思っていたけど、本能的に私を押し倒してやっちゃいたいと思ってた人が……、ふたりもずっとそばにいたの!?」
エドガーに軽く頭をチョップされた。
「そういう言い方をするなっ!」
読んで下さり、ありがとうございます。




