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41 視察!?(イサク視点)

どうぞよろしくお願いします。

 最近、母が僕の仕事のことをとても気にしている。

 仕事というか……、どんな方に会ったのかとか、内容というより誰と会って何を話したかということを気にしてるようだと3日目に気づいた。

 何を気にしているんだろう?


 気にはなったが、母も昔、王城に勤めていたことがあると聞いたことがある。

 人間関係で、まあ僕達は平民だし、その時に辛い思いでもしたのだろうか?

 だから、僕を心配している?


 ふとクルト兄さんのことを思い出した。

 僕は学校に通わせてもらい、自分の興味ある仕事、しかも、平民としては文官なんてなかなか望んでもつけない仕事につけた。

 僕は隊士をしていた父には似ず、体格も普通、で剣の才能もなかったので、これは幸せなことだ。

 クルト兄さんは小さいうちから働いて、僕達を養ってくれた。

 王都から離れてまで……。

 僕と母のために。

 何を学びたい、何になりたい、そういうことを何も考えずに、その時、一番安定して金を稼げる仕事について、ずっと仕送りしてくれた。


 母は僕が上級学校を卒業し、王城の文官になると、言った。


「クルトは今まで、私達のために自分の人生を生きていなかった。

 これからはイサク、あなたが仕事をして稼げるようになったし、仕事のおかげでこのように住むところも得られたのだから……。

 クルトを、自由に、解放してあげたいと思うの」


 僕はちょっと複雑な気持ちになった。

 となると、僕がこれから母を養わないといけない……。

 でも、僕は頷いた。


「はい」


 文官の宿舎は家族と住むことができたので、僕達は以前から住んでいたアパートは引き払って、宿舎に母と移り住んでいた。

 母は「クルトに会って話をしてくる」と2日間ほど出掛けて行った。

 僕はクルト兄さんがいる場所を知らない。

 王都の近郊の街だろうとは思っているが……、なぜか母さんもクルト兄さんも僕に内緒にすることを選んだようだった。

  

 そこから僕の稼ぎだけで母との生活をスタートさせたのだけれど、思ってたより大変ではなかった。

 母が家事をしてくれる。

 そのおかげで僕は仕事に専念でき、帰宅すれば温かい食事が待っている。

 母は裁縫の内職は細々とだが続けてくれてるし、家賃はかからない。


 あれ?

 クルト兄さんは住み込みで一日仕事をして、さらに休みには冒険者をしてたと聞いた。

 そこで思い至った。


 クルト兄さんは母と僕を養うだけではなく、アパートの家賃、僕の学費まで出してくれていたんだ……。

 僕より若い時分から働いて……、今の僕より稼がなくっちゃいけなかったんだ……。

 それはどれほど、クルト兄さんの時間と将来を奪うことだったんだろう。

 クルト兄さんに会って話したい。お礼を言いたい。

 でも、母は『自由に開放』の話から、兄さんの話をしなくなった。



 図書文書係の方に第1王子殿下から本の相談が定期的にある。

 いつもは係長やベテランの方が対応していたが、『若い者の方が殿下も話しやすいかも』という係長の思い付きで僕がその相談にしばらく対応することになった。

 引きこもりで本を読むのが好きな第1王子。

 僕が担当した最初の相談は『神殿の歴史についての本』というご所望だった。

 歴史は僕の得意分野。

 古典やその古典を解説した本。

 面白いところでは当時の神官の日記なども揃えてみた。


 そして、第1王子殿下の部屋にその資料をお届けに上がった。


 ずいぶんかわいらしいエドワード第1王子殿下の外見に驚いた。

 クルト兄さんよりひとつ下だったよな。もう20歳は越えてるはずなんだが……。同い年くらいに感じた。

 見かけの容姿はとても中性的で。

 全然クルト兄さんと違うのに、なぜかお会いしているとクルト兄さんのことを思い出した。


 僕の揃えた資料はとても面白かったとお褒めの言葉を頂けた。

 そして、定期的な相談以外に名指しで、エドワード王子殿下の部屋に呼ばれることなんかもあった。

 本や図書室の話から、季節の話、家族の話、王城の話、仕事の話……、そんなことをエドワード王子とも話すようになり、王子の部屋ではエドワード様と呼ぶように許してもらえ、エレノア第1王女殿下にもご紹介してもらえた。

 

 そして、王城でエドワード王子殿下が噂されていることが、理解できるようになった。


 これまでは引きこもっている、ひ弱、男らしくない容姿で王に相応しくないとかそう噂されていたことは知っていた。

 王族とはいえ、そんな貶めるようなことを言われていたら嫌だよなーってくらいだったのが、この方の努力が足りないわけではなく、容姿については自分が悪いわけでもないのに!

 それなのに、あんなことを言われて傷つき、部屋を出られなくなっているのだということを。

 そしてエレノア王女殿下は異母兄であるエドワード様を本当に兄のように(弟のように思っている感じもしたが)思い、エドワード様に自分らしく生きて欲しいと思って、毎日通われているということを知った。


 なんだか、それが……、クルト兄さんを思う自分にも重なる気がした。

 ただ、エレノア王女殿下は毎日、エドワード様に、みずから会いに来られている。

 自分は思うだけで何もしていない……。



 係長から呼ばれた。


「イサク、突然だが留学というか視察というか、そういう話が君に来ている」

「……留学?」

「ああ、戸惑うのは無理はない。

 私も初めてだ。

 王妃殿下が新しく考えられた研修らしい。

 マイルズ共和国をぐるっと視察して知識と情報を得て来て欲しいと。

 前にコタンの図書館と研究所のことを話していたことがあったよな。

 もちろん、そこも視察に含まれている」

「……え!

 それはすごく行きたいですが!

 私は母と暮らしていまして……」


 そうなのだ、そこの部分をクリアにしていかないと……。

 もうクルト兄さんには頼れないし。


「王妃殿下が直接詳しい話をしたいと仰せでな。 

 これから、お部屋に伺ってくれ」

「えっ?

 そんな恐れ多い……」


 係長は微笑んだ。


「たぶん、君の第1王子殿下との友情に感謝でもあるのだろう」


 感謝?

 噂では王妃殿下は第1王子殿下を嫌っていたはずでは?

 違う?

 それとも、僕をエドワード様から引き離すために!?

 ドアがノックされ、王妃殿下付きらしい男性が現れた。一見、文官風に見えるが立ち居振る舞いに隙がない、武芸も修めているのだろうと感じる男性だ。


「ああ、ちょうど良かった!

 イサクには今話したところです」


 係長の言葉にその男性は僕を見て「では、参りましょう」と言った。

 ふたりで廊下を歩き始めると男性は言った。


「私は王妃様の使いをしている者です。イサク殿の視察にも同行することになりますのでどうぞお見知りおきを」

「イサクです。よろしくお願いします。

 あの、何とお呼びすれば?」

「では……、シド、とお呼び下さい」

「シド様、ですね」

「同じ王妃にお仕えする者なので、シドと呼んで下さってけっこうです。

 私もイサクと呼ばせて下さい」


 王妃の部屋の前で、シドがノックし「イサクをお連れしました!」と言いながら返事を待たずにドアを開けた。

 王妃殿下が正面の椅子に座られている。

 隣に大臣閣下がいらした。確か、王妃殿下の身内の……。


 シドに促され部屋に入り、一緒に片足を跪いて、礼を取る。


「図書文書係のイサク、ですね。

 最近はエドワードと仲良くしてくれている、とか」


 すっと背筋が寒くなる感じがした。

 歓迎されていない。どこが感謝ですか! 係長!!


「そんなお前に王家に仕える文官として見聞を広めてきてもらいたいと思ったのです」


 やはり、エドワード王子殿下と引き離すということか!?


「長く旅に出ることになりましょう。

 何か気になることや不安はありますか?」


 僕は頭を下げたまま言った。


「王妃殿下、ありがたいお言葉、うれしく思います。

 見聞を広めるための視察の旅、とても魅力的なのですが、私に母がいまして、私と暮らしております。

 そのため、私の稼ぎがなくなると……」

「ふむ、そういうことか。

 つまり、文官として今の給料と宿舎利用ができればいいのだな」

「は、はい!」


 王妃殿下が大臣閣下と何かひそひそ話をしている。


「わかった。

 ライザは私が責任を持って、今の宿舎に住み続けて、イサクの帰りを待てるようにしよう」


 ん?

 母の名を?


「それなら、行ってくれるな?」


 有無を言わせない感じだ。すべてこちらの事情は把握済みなのか。


「はい。それならば……」

「よろしい、顔を上げよ」


 僕は顔を上げた。

 王妃殿下が僕を見下ろしている。


「視察の他にも頼みがある」


 王妃殿下は微笑んだ。微笑んでいるのに見ている僕の気持ちは冷えていく。


「クルトを探して欲しい」


 思いもよらない兄の名前が王妃殿下の口から飛び出し、僕は驚いた。


読んで下さり、ありがとうございます。

イサクは自分で考える時や家族には「僕」を使いますが、仕事の時には意識して「私」を使います。

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