37 出航!(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「でも、なんでハナ、そんなことを教えてくれるの……?」
ハナはニヤッと笑った。
「街でミコトが見たのは私よ。
私、マイルズ共和国の者なの。
マイルズ共和国の命で、アサニヤ王国の情勢を探ってた。
テーベで活動してたんだけど、ここの奥様と知り合って。
ちょうど交易の地でもあるし、オグル商会という大きな商会のトップの屋敷だしね。
隣のヤシマは貴族や王族が訪れる街でもあるし、ここで情報収集するように言われて……。
あなたの仲間のライカンもマイルズの騎士よね?」
私は思わず頷いてしまった。
「あなたのことをオグルがバートレイ伯爵に報告したの。
アルバス様とラスター様がこちらに来られたのは偶然なんだけど、その結果、ミコトのことを、奥様がマリナ様のようだと言っている少女を短期で雇ったと、近況としてね。
アサニヤ王国には現在、年配のマリナ様しか聖女がいない。
少しでも新聖女に繋がりそうな情報があるならと確認に来る、はず。
たぶん、今日の夜、ラスター様とどなたかがこちらに来るはずよ。
そうなると、あなた達は動けなくなる。
あなたがもし、本物の聖女様なら、私は阻止しなくてはいけない」
また、ちくっとした気配を感じた。
私のためではない。
マイルズ共和国のためにはアサニヤ王国が新たな力を得ることは阻止したいということなんだろう。
だから、私がアサニヤ王国に協力するなら……、物理的に排除だ。
「ありがとう。
明日、仕事を休む、今日で切り上げるにはどうすればいい?
今日までと言ったら、怪しまれるよね」
「そうね。
今は何もせずに約束しておいて、ギルドで契約を果たせなくなったと申し出て解消するしかないのでは?」
「うーん。
ま、しょうがないね。
ありがとう、ハナ。
何とかして、今日。
うん、何とかする」
ハナが苦笑した。
「大丈夫なの?
私もおおっぴらには動けないし」
「でも、ハナ、大丈夫なの?
私に正体ばらしちゃって!?」
「あら、あなたなら逃げる方を選ぶと思ったから話したんだけど。
……消した方が早いかしら?」
「わ、ちょっと!
ごめん、誰にも言いませんっ!!
あ、ライカン達には話さないとだけど……」
ハナはまたニヤッと笑った。
「私は何も知らない。
そういうことで」
その後はもう何だか現実味がない。
早く逃げないとと焦る気持ちと、知ったことを気づかせてはいけないという気持ちと。
昼食後、オグルさんに明日のことを確認された。
「はい、仲間に伝えて、一緒に伺うことにします」
にっこり微笑んで返事をした。
内心はドキドキである。
早く、2時になりエドガー達と合流したい。
あ、でも、アスバル様達と一緒か!?
あう!
私は目覚めた奥様とオグル様と昼食を一緒に頂き、挨拶をして、トロアさんと門に向かった。
アルバス様の馬車も一緒だ。
門の前に出るとちょうど四人が戻ってくるところで、無事に合流できた。
トロアさんが明日のことを、アスバル様やエドガー達に話した。
「それは楽しみだ!」
アスバル様が笑って。
エドガーも「ライカンやシアに伝えます」と返事している。
馬車に乗り込んでギルドへ。
アスバル様が「焚き火で肉を焼いて食べたんだよ!」と上機嫌に話をしている。
私が言葉少ななので、エドガーは少し変に思ったみたいだ。
手を握られた。
私は『後で話すね』という気持ちを込めて微笑んだ。
一度ギルドの宿に案内して、シアとライカンが出迎えてくれた。
「足の具合いはどうですか?」
アスバル様がシアに言って。
「おかげさまで、だいぶ良いようです。ありがとうございます」
部屋は見ただけで。
狭いから一目で見渡せるでしょ!?
ギルドに下りて、倉庫で獲物を従者が出して、アスバル様が「このディアだけ欲しい」と言った。
そのディアは大きな角が生えてる立派な雄で。
なんか飾りに加工するそうだ。
剥製みたいな感じかな?
それ以外はこちらに譲ってくれるということで、一角ウサギともう一頭狩れたディアは買い取ってもらい、アスバル様と従者を馬車まで送った。
「では、明日!
楽しみにしてる!
ラスターもきっと喜ぶよ!!」
アスバル様がすごくいい笑顔で去って行かれた……。
私はエドガーとユミエラをすごい勢いでつかんで「宿に!」と言うと、走って宿に戻ろうとした。
「待ちなさいよ!
そんなに急ぐなら、ミコトだけ、先に戻ってればよかったのに!」
ユミエラに呆れたように言われる。
うう、ちゃんと見送らなきゃ、安心できなかったんだよ!!
「え?
転移者だと思われてしまったようだと」
ライカンがびっくりしている。
一応ざっと説明した。
ハナのことは迷ったんだけど、言わなきゃ信憑性ないし、ライカンがマイルズの騎士だったから、警告してくれたわけで……。
「となると、ラスター様は王族で間違いないようだな。
ヤシマに他の王族が来て、呼び戻されて確認しているんだろう」
シアも言った。
「マリナ様のことはその通りよ。
聞いたら、こちらの聖女様だった。
お歳になられてきて、巡回とか出られない時もあるみたいね。
それで、次の聖女をか……。
もしかして、カイラムはアサニヤ王国からシーザー王国内の転移者を探しに来てたとか?」
ああ、今はもうとにかく急がなきゃっ!
「とりあえず、ギルドの方に、明日の仕事は行けなくなったって言ってくる!」
「待て!
それは最後!!
連絡されるかもしれないだろ!?」
エドガーが慌てて席を立った私を捕まえて言った。
「午後4時に出る船があったわよね!」
シアがライカンに言って。
今日、船のこととか食料の補充とかしてくれてたんだもんね。
「ああ、今日、午後4時にマイルズのコタンまで出る船があった。
話をつけてくるか?」
「お願い。
私達は部屋を片付けて、ギルドにミコトの仕事のことをお詫びして、港に行くわ!」
ライカンは自分の荷物はさっと収納して、出て行った。
私達も荷物をまとめて、宿はもう代金を払ってあるので、そのまま、何も言わずに鍵を返すことにした。
シアは今日はギルドの方へは行ってないというので、ユミエラと先に宿の出口からこっそり出てもらい、私とエドガーはギルドのカウンターへ行く。
「すみません。
受けていた仕事、明日までなのですが、明日、行けなくなってしまいました……」
「あ、オグルさんとこの!
明日までだよね?」
「はい、すみません、えーと」
私が詰まるとエドガーが言ってくれた。
「昨日、足を怪我した仲間ですが、思ったより悪いようで、明日、テーベに船で向かおうという話に」
「それは!
そうか、怪我は治療が早い方がいいものな。
テーベには大きな病院もあるし、船なら楽に移動できる。
わかった」
職員は契約書を出してきてくれて、違約金を計算してくれた。
最後の5日目の給金はまだもらっていない。
それはもちろん受け取らないし、契約を破ってしまったので行けなかった日数×給金の半分がこの場合の違約金となるそう。
半日分のお金を収めて、契約書に私の都合で4日目で契約破棄、一日分の違約金を収めたというようなことを書いてもらい、私がサインした。
時間があり双方が話し合ってなら、違約金なしで契約終了とできるケースもあると教えてもらった。
「本当に申し訳ないです……」
「いやいや、仲間の怪我ではどうしようもないよ」
慰めるように言われて、一度宿の方に戻り、宿の管理人にみんなで出掛けるのでと声を掛けて鍵を預けた。
これで、明日の昼過ぎ、連絡がなくても管理人が部屋を確認してくれるだろう。
明日の昼までの宿賃は払ってあるから、大丈夫なはず。礼儀的には悪いけどさ。
ユミエラとシアと合流して港に急ぐ。
シアがマイルズ共和国行きの船の集まっているところをちゃんと覚えていて、無事にライカンとも合流できた。
「ギルドにはテーベの病院へシアを連れて行くと言ってきた」
エドガーが言って、シアが苦笑した。
「ひとりで転んだのに、すっごい大怪我になってるじゃないっ!」
船に乗り込む。
その時、見られている気がして、振り返った。
ん、男の人がこちらを見ている。
もしかして、ハナの仲間かな?
私が首を傾げると、その男の人はニコッと笑った。
あ、マイルズ共和国のスパイの人なんだ!?
私達がちゃんと逃げるの……、確認してるー!?
船が出港した。
読んで下さり、ありがとうございます。
海の船は……。
『逃げる元王女~』でも主人公のルティが海の船で船酔いを体験して、乗り物にすごく苦手意識を持ってしまいますが……。海の船は長く乗るとやっぱり酔いますよね……。
頑張れよ! みんな!




