32 マッサージ(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
そんなわけで、私は堂々とスカーフを外すことができたんだよね。
でも、奥様は驚いたってことは……。
もしかして、私の髪がまっすぐなのを予想してたのかも!?
私は気持ちを引き締めた。
テラスでお茶を飲んでから、奥様にテーベへの旅行の話をして頂いた。以前テーベで暮らしていたこともあるとか。
話の後にハンドマッサージをできればと、メイドにいい香りのオイルがあればとお願いしておいた。
風呂上がりに使う物があると持って来てくれた。
いい香り。ローズマリーかな?
アロマオイルではなくて、肌に使えるように調整されていると聞いて、そのまま使うことにした。
そのメイド、ハナという名前だそう、は覚えたいと言ってそばに張り付いてる。
なのでゆっくりと「ここは指を少しずつずらして刺激を与えます」「ここは軽くひっぱって揺らす」「ここをもみほぐすように」とかもっともらしい説明をしながら、ハンドマッサージをしていく。
両手をゆっくりとしたので、けっこう時間を使ったけど、奥様も満足そうで良かった。
「あら、手が白くなった気がするわ!」
「本当ですね!」
奥様とハナが感心している。
まあオイルを使えば保湿にもなるし、お肌にもいいよね。
マッサージというのはこの世界にもある考えだ。
娼館でも姉さん達がお互いに肩や首元のお手入れのマッサージをし合っていたから、全くないわけじゃない。
手だけをこうやってマッサージするってのは珍しいかもだけど。
その後、お屋敷の中を案内してもらい、奥様の部屋に到達。
私はできればあまり入りたくないな。
用心のためにね。
ライカンにも注意されていたんだ。
メイドというわけでもなく、短期でいなくなる使用人。あまり私室には立ち入らない方がいいだろうと。特にひとりで何か取って来て欲しいとかあったら、絶対に誰か屋敷の使用人と行くようにと言われた。
何かなくなった時、私のせいにされやすくなるからと。
今は奥様とメイドのハナが一緒だから、大丈夫なはず。
少しお部屋で休まれるということで、ベッドに横になるのを手伝った。
ハナと隣の部屋に移動。
そこでハナから奥様はいつもは部屋のベッドの上で過ごすことも多いと聞いた。
今日は私が来るからと張り切っていたようだと。
そして、いつもの過ごし方や、歩く時の支え方など教えてもらった。
ハナがやることが多いけど、何かあって、私に頼むことがあるかもしれないからね、ということだ。
ハナは二年前からこのお屋敷に勤めているそう。
元はテーベでメイドをしていたが、奥様がテーベにいらした時に縁があって短期の現地メイドとして雇われ、気に入られてソーサラまで来たそうだ。
1時間ほどで奥様は起き出され、私はそれを手伝いながら「無理せず、お好きになさって下さいね」と言った。
奥様は微笑まれた。
「あなたといると気分がいいのよ。
でも、そうね。はしゃぎ過ぎないようにするわ」
その後、食堂へ移動し、昼食をご馳走になった。
途中でオグルさんも帰宅し、御一緒に。
奥様がにこにこと元気そうで、ほっとしてらした。
こんな楽な仕事で、メイドの一日分とか頂いてしまっていいのかな?
でも、奥様が楽しそうだから、いいのか!?
テラスでおしゃべりしていたら、もう2時。
お暇してお屋敷の門の所に急ぐ。トロアさんも小走りで付き添ってくれて、門を開けてくれた。だって、門の所にエドガーが来てるのが見えて!
「ありがとうございました!
また明日!」
門を出ると、エドガーが両手を広げて迎えてくれたから、そのまま走って抱きついちゃった。
抱きついてから、はっとした。
あれ?
こんなんいつもしてないけど。
でも、エドガーにぎゅっと抱きしめてもらったら、すごく安心した。
仕事自体は大変じゃなくても、けっこう、気を遣ったり、張ってたりしたみたいだ……。
「エドガーだけ?」
「ライカン達はもう少し狩りをするって」
「そうなんだ!」
「初めての仕事だったし、疲れただろ?
先に戻って、夕食の買い出しをして作っていよう」
「うん!」
私はエドガーの腕につかまるみたいに歩き出した。
なんかそうしたかった。
「……疲れてる?」
エドガーがぼそっと言った。
「うーん、大変な仕事じゃないんだけど。
初めての所で、ひとりだし、気を張ってたんじゃないかと思う」
「スカーフは取ったの?」
「うん、でも、くるくるふわふわだったから驚かれた」
「……驚かれた?」
「うん、奥様、驚いてるように見えた。
気になったから、もっと気をつけないとって、思ったけど」
「……ミコトの髪がまっすぐなのを予想していたのかも?」
「ん……、それも考えられるよね」
宿までの道にある魚屋で、白身魚の切り身を買った。バターで焼くとおいしいって。
それはムニエルだ! 私、作れる!
人数分の5切れ買って、他のお店でパンや果物も買って、ギルド&宿に到着。
宿の部屋に入ると、スカーフを外した。
まだ少し髪の毛くるくるしてる。
パンと果物は手に持っていたので。テーブルの上に置いた。
荷物とスカーフを自分のベッドの上に置いて戻ると、エドガーが手を伸ばしてきて抱き寄せられて、なでなでじゃなく、髪の毛をかき上げるというか、髪の中に手を差し込まれるっていうか……。
マッサージみたいで気持ちいい。
「気持ちいい……。
もっと触って……」
言ってしまってから、ん? なんか、変なこと言った? と気づいた。
いや、頭を触ってという意味なら変じゃない? と思い直したんだけど、エドガーにキスされて、あ、何かどうしようと思った。
でも……。
そのまま、エドガー達の部屋の方へ連れて行かれて、エドガーのベッドに横になって覆い被さる様にキスされて、頭を髪を触られる。
「ん……」
私も手を伸ばしエドガーの髪の中に手を入れた。
とても気持ちがいい。
「ミコト……」
エドガーの囁き声。
「好き……」
私は呟いて目を閉じた。
ああ、なんか溶けちゃいそう。
エドガーと一緒に……。
目が覚めたらエドガーのベッドで寝ていて。
私、キスの途中で寝ちゃったらしい。
シア達の声が聞こえる。
エドガーが来てくれて、私が収納してた魚以外の料理はできたって!!
「あ、ごめん……。
思ってたより疲れてたんだ……、ごめん」
身体を起こして謝る私の頬にそっと手を当てて微笑むエドガー。
「いや、すごく幸せな時間だった」
「私も……」
「初めて、キスに、ミコトの方から反応してくれたっていうか、ミコトから……、求めてくれたよな」
「へ?」
思い出して赤くなる。
確かに、もっとって思って、自分からエドガーに……。
うわぁ!?
疲れてる時は危ない! おかしくなる!?
赤くなって俯いてしまった私を見て、大きく息を吐いたエドガー。
ため息じゃなくて、優しい感じの。
「ミコトから、求めてくれて、うれしかった」
「……私も幸せだった。
何かエドガーと溶けちゃって、ひとつになれた気がした」
「……キスだけでそんなに!?」
エドガーに苦笑されてしまった。
読んで下さり、ありがとうございます。




