19 名前(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「それは……、今回の話とは違う話で……」
プリシラはそう言いかけたが、何か決心したようにライカンさんを見て言った。
「17の時、両親が領地の事故で亡くなりまして。
父の弟の叔父夫婦が後見に。
伯爵家は……叔父夫婦の一家、従兄と従妹もいたのですが、乗っ取られました。
私は悪い噂を流され……、孤立させられ、娼館に売られました。
後で、私は悪い男に惚れ、叔父夫婦の反対を押し切って駆け落ちして行方不明とされていることを知りました」
「そんな! すまない!
もう国を離れていて、ローズが亡くなったことすら知らなかった……」
ライカンさんが驚き、プリシラに謝る。
「いいえ、叔父夫婦を最初に信用してしまった私がバカでした。
あ、ごめんなさい、話を戻しますね……。
間もなくだったわ。スミレ様が亡くなったと連絡が入ったのは。
母とお別れに行きました。
スミレ様は何の指輪もしていなかった。
第2王子の指輪は、妻ではなくなった時に返さなければならないからわかります。今は王妃様がしているはずね。
第3王子は、スミレ様に指輪を最初から渡さなかったそう……」
ライカンさんが沈んだ様子で言った。
「私はリンデウム伯爵家に嫁いだローズ、幼馴染でスミレコとも親しくて……。
彼女から話を聞いて、確かめるために神殿の奥に忍び込んだ。
スミレコはもうかなり弱っていて、ベッドから出ることもできず。
その時に話しをした。
もう自分は長くない。
子ども達を奪われて、自分の手で育てられなかったことが一番辛かったことで、心残りだと。
子ども達、エドワードとエドガー。
双子だったと聞いたが、でもエドガー王子なんて聞いてことがない。
その疑問を口にするとスミレコが悲しむと思い、私はそれについては何も言わずに彼らをこれからも守ると嘘を……。
そして、次の日にスミレコが亡くなったことを聞いた。
何もかも、バカらしくなり、スミレコの葬儀が終わると……、騎士をやめ、シーザー王国を捨て、異国への旅に出た。帰らぬつもりで……」
「双子王子のひとりはエドガー?
じゃあ、金髪と黒髪のエドワードの話は、どちらかがエドガーだった?」
私は話が終わるまでは待っていたので……。思わず叫んでしまっていた。
プリシラも頷いてくれる。
「乳母が二人だったというのも気になるわ。
第1王子が二人だと面倒だから、最初から意図的にひとりは隠されたのでは!?」
「王様って、髪の毛何色? エドワード王子は?」
私がみんなに聞くとライカンさんが答えてくれる。
「王は金髪だ。エドワード王子もね」
「じゃあ、エドガーが黒髪のほうだ!」
「……第1王子の問題で、金髪で王に似ている方だけ、王子と発表した?
そうか、最初は二人とも王子として扱われていたが、双子で両方とも男児で。
その後、金髪で王によく似ている方だけ、王子として残した」
ライカンさんが考え込む。
プリシラが言った。
「双子ということは伏せて、ふたりとも同じように育てられていたんじゃない?
だから、金髪のエドワードの名前だけが第1王子として流れていて。
でも、王妃、新しい王妃にしてみれば、第1王子が二人もいて、自分が産む子がどうあっても第3王子になってしまうのは……」
「そうか、第2王子なら神殿の『王』になれる。
もし第1王子に不幸があれば、この国も『王』にもね」
「……となると、黒髪のエドガー王子は王妃が王城に入ったあたり、まだ赤子のうちに……」
ライカンさんがクルトを見た。
クルトは青い顔をしている。
「……俺は殺されかけて、平民の子になることで命を繋ぐことができた?」
「たぶん、ライザは乳母だったのでしょう。
乳母になるということは先に子を産んでいるはず。
それがクルトだったのでは?
エドガーを始末する様に言われたライザは幼い息子を失くしていたこともあり、預けられたエドガー王子をクルトとすることで守り育てていたのでは。
それを知った夫も協力し……。
指輪の名前は……?」
クルトが私を見た。
私は頷く。
クルトでも、エドガーでも、私はあなたのことが好きだよ。
「……エドガー。
エドガーと彫ってあった」
プリシラがため息をついた。
「こんなことって、あるのね……」
「じゃあ、俺は?」
ライカンが跪いて言った。
「あなたはディウス王と移転者のスミレコ様の間に生まれた、エドガー王子です。
エドワード第1王子と双子の兄弟。
そうすると、あなたは今、21歳ですね」
「エドガー、21歳……。
父の名はディウス、母の名はスミレコ……。
それが本当の俺……」
「でも、すごいね。
なんか、クルトとミコトが出会って惹かれ合ったのは、なんか運命に導かれてな気がする……」
ミカエラがそう言って微笑んだ。
みんなで黙ってしまって……。
ミカエラがまた言った。
「で、明日マイネに向かって出発でいいんだよね?」
プリシラがはっとなって答えた。
「ええ!
なんだかいろいろなことが一気にわかって驚いてしまったけれど。
忘れちゃいけない!
今はミコトが安心して暮らせる場所を見つけること!
クルトもミカエラもミコトもいいわね!」
私達は頷いた。
「おいおい、私も仲間に入れてくれよ。
いい保護者役になると思うぞ」
ライカンさんが笑いながら言って。
「ミコト、どうする?
ミコトが決めて」
プリシラが言った。
私はどっちでもなんだけど。
人数は5人になったら……。
男の人がもうひとりいたら、安心っちゃ、安心。
クルトがいるから、宿の部屋は二つ取らないいけないのは、変わらない、
それにシーザー王国で騎士をしていたなら、もし、追手が来た時、相手の出方について想像したり情報を持ってたりする!?
「ライカンさん、握手して下さい」
私はライカンさんに手を差し出し、握手してもらう。
うん、変な気配はないし、ライカンさんはとても正直者という感じがした。
「うん、では、みんなのお父さんってことで、よろしくお願いします!」
「任されよ。
今度こそ、お守りします。『神の愛し子』様。
ミコトさん、クルト……エドガー様、それにローズの娘のプリシラさん、仲間のミカエラさん」
にこにこするライカンさん。
「あの、お願いが!」
「何でしょう?」
「私のことはミコトと呼んで下さい。
で、おひげ剃れます?」
夜、ライカンさんがテントの方に現れた。
「わー!!
かっこいいです!」
ミカエラが叫び、私もうんうんと頷いた。
ライカンさん、ひげないと思ったより若く見える。
騎士団も無事に退団できたそう。
急でびっくりされたけど、偶然、親戚の子に出会って、旅に同行することになったと説明したらしい。
クルトもプリシラもそんなようなものだよね。
まあ家付きの騎士じゃないから、そこは気楽だったのかな。騎士団にとってもね。
「えーと、お父さんと呼ぶの悪いな。
ライカンって呼んでいいですか?」
私が言うと笑って了承してくれた。
で、みんなもライカンって呼んじゃうことにして、クルトはどうするかという話になる。
クルトでもエドガーでも好きなように……。
「ミコトはどっちがいい?」
何故に私に聞くのだ!?
「うーん、わかんないよ。
自分で決めてよ……」
「うーん」
「私はエドガー、カッコイイと思うな!」
ミカエラが言った。
「何か生まれ変わったみたいでいいじゃん!
本当の名前か……。
プリシラもそうだけど、私達は偽名を使ってる。
もうそのまま来ちゃったから、なんだか元の名前に戻すタイミングがなくてさ。
そんなものだよ!
機会は逃さないようにしないと!」
そうか、プリシラとミカエラは……、仕事の時の名で……。
昔の自分の名を封印してるようなものなんだ。
「……じゃあ、みんなで名前を元に戻すってのは!?」
私が言うとプリシラが笑った。
「いいかもね。
次のギルドで名前の訂正出しましょう!!」
読んで下さり、ありがとうございます。




