17 支え合うこと(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
クルトの声が背中から私の耳に身体に響いてくる。
「でも、そんなことは関係なく。
俺は、今、クルトで、ミコトを愛していて……」
みんなでなんだか呆然というか……。
あまりの展開についていけてない。
どういうこと!?
この世界に、私の前に転移してきたスミレコ、たぶん、菫子さんかな?
その人にプリシラは会ったことがあるの?
神殿に行ったことがあるの?
ああ……、だから転移してきた女性が神殿に行くとひどい目に合うと知っていたのか!?
ライカンさんがクルトをじっと見た。
怖い感じじゃない。静かに、何かを期待しているような感じだ。
「君は王子だったのではないか?
スミレコの子どもではないか?」
クルトは狼狽えたように首を振る。
「知らないし、わからない!」
すっかり不安そうになってしまったクルトを見て、プリシラが言った。
「私達の知っていることを全部突き合わせてみたほうが良さそうですね……」
クルトがプリシラの方に顔を向けたのがわかった。
「プリシラ……。
お願いだ。
少し……、気持ちを整理する、そのための時間が欲しい」
「……わかったわ。
ライカンさん、さっきのマイネへ行くというのは本当のこと?
それとも私達に近づくための口実?」
ライカンさんが申し訳なさそうな顔をした。
「すまない。
ミコトさんのことが気になったから、何とかして君達に近づいて話をしたいと。
もし、シーザー王国から逃げているならば、力になりたいとも思い……。
助けがひつ……、いや、ぜひ、手伝わせて欲しい。私に!
ここの騎士団はいつでも辞められる。
同行したい」
プリシラは少し驚いていたが、頷いた。
「わかりました。
みんな、もう一日、ここで過ごすことにしましょう。
ライカンさん、テントをこのまま一日延長で。
クルト、テントでゆっくり考えて、昼頃様子を見に来るわ。
そして、私とミカエラとミコトが泊まれる施設の部屋ってお借りできるかしら?
……ミコトは、今はクルトのそばにいるのでいいのね?」
私は頷いた。
ライカンさんと一緒に、プリシラとミカエラは自分達の荷物を持って建物の方へ行ってしまった。
火が消えかけた焚火とテントと、私とクルトが残されて……。
「ありがとう、ミコト。
ずっとくっついていてくれたから、自分を失くさずにすんだ」
クルトがぼそって言ってから、話し出そうとする。
「俺……」
私は周囲を気にしてしまう。
辛い話だよね。もしかして、クルトが泣いちゃうかもしれない。
そんなの、誰にも見せたくない。
「クルト、大切な話だから、テントの中で落ち着いて話そう」
焚火はそのままで大丈夫そう。風もほとんどないし。
私とクルトはテントの中に入った。
そうしたらクルトが私の背中にくっつくみたいに抱きしめてきた。
といっても私が抱っこされてるというか、抱えられてるみたいだよ。
私は身体を少しずらしてクルトの胸に顔を寄せた。
「クルトが1年前から……、そんなに辛い思いをしていたなんて、気がつかなくて、ごめんね」
「いや、辛いっていうか。
信じてたことがひっくり返るって、本当にこんなこともあるんだなって思った。
でも、俺にはその時、確かなものがあって……。それでいつも通りに過ごせたんだ」
「うん……」
私は変わらなかったクルトを思い出していた。
「それは、ミコトだよ。
ミコトとの関係が、その時にはもう一番大切だったから。
ミコトを好きで、守りたくて、その……独占したい気持ちも……。
そっちの気持ちを隠してる方が大変だったかもな!
それは何があろうと嘘じゃない。だから……」
「うん、私がいて良かったね!
クルトの助けになっていたのなら、こんなにうれしいことはないよ」
「ミコト……」
見上げたら、クルトが少し涙が滲んだような瞳で笑った。
「クルト。
ライカンさんが、スミレコさんの話をしてたけど、きちんと話を聞いてみよう。
ライカンさんとプリシラとクルトと。
話をしてみたら、何か繋がることがあるよ、きっと。
それから、この指輪だけど……。
クルトは1年前にもらって、自分で調べて魔道具ってわかったんだよね?
その時に王家に関係してる物ってこともわかってたんだ?
中の名前って見たの?」
「うん、でも、誰の名前かわからないし。
俺の名前だったら……。
ミコトには教えるよ。『エドガー』とあった」
「じゃあ、そのエドガーがクルトの名前かもしれないし、ご先祖様のひとりの名前かもしれないってこと?」
「そうだね。
新しいのか古いのかよくわかならかったんだ。
もうこの指輪は主として俺を認識しているとそれだけはわかったそうだ。
俺を守っている。
だから、俺が愛する人に渡すものだと」
ライカンさんは、スミレコさんと第2王子だった今の王の間にクルトが生まれたんじゃないかと考えたってことだね。
生まれた時は王子ということで対応されたけど、その後、何かあって、いなかったことにされた、のか?
「クルトがクルトという名じゃなくても。
私がその……、男性として愛してるのはあなただけだよ」
「ミコト……」
「名前が違うなら、変えてもいいし。
名前が変わったって、身分が変わったって、ここにいるあなたは、あなただもん」
「……キスしていい?」
「う……、断りづらいな」
「ひどっ、断るの?」
「ううん、いいよ。好き」
そのとたん、肩と頭を大切なものを抱えるようにそっと寝かせられたと思ったら、キスが始まった。
そう、始まった。
えっと、キスって1回チュッじゃないの?
まあ、読んだ本には長くて息が苦しいほどの荒々しいキスとか、お互い求め合う情熱的なキスなどの話もあったけど、それはその、そのままことを致す流れのキスで……。私、キスも初めてなんだけど、え、そんな……。
ちょっと、息が!!
私は両腕でクルトの胸や肩を押して唇を離してもらうと大きく息をついた。
「苦しくなっちゃった?」
私はクルトの言葉に頷く。
「口開けててもいいから」
「えっ?」
もう一度長く、何度も唇を……、これもキスなんだろうけど。
押しつけらたり挟まれたり吸われたり忙しい。
なんだか涙が出てきちゃって、涙がつうーっと目尻からこぼれたのがわかった。
クルトの手に涙が到達したようで、驚いたようにキスをやめ「泣いてる?」と呟いた。
そして「ごめん」と私を引き起こして抱きしめてくれた。
「泣いちゃってごめん。
なんだか、よくわからないけど涙が出てきて……」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど……。
キスって、チュッて1回ぐらいかと……」
「びっくりしちゃった?」
私は頷いてクルトの胸におでこをすりすりした。
「だって、初めてだもの……」
クルトが私をやさしく抱きしめて、私の頭の上に顎を乗せるみたいにしてきた。
「あー、幸せだ。
なんか、ミコトがいれば、他のことはどうでもいい気がする」
それはそれでいいのか!?
でも、今のクルトにはいいのかも!
「ふふふ、なら良かった」
私とクルトは見つめ合って、ふふふって笑い合った。
お互い大変なことがあっても、お互いで支え合っていけるんじゃないかって思った。
読んで下さり、ありがとうございます。
ファーストキスなはずなんですけどね……。




