121 復讐の意味(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「だから、デュカス王弟に、自分はスミレだと、王妃に虐められていると……」
エレノアの声が少し震えて、でも大きく響いた。
エドワードは笑うように語り出すがそこに怒りが滲んでいる。
「そうだ。
あの男、自分がスミレにしていたことはなーんも覚えてないんだ!
笑っちゃうよね。
自分はスミレを愛していて、大事にしていたって!
そしてスミレは自分を愛してくれているって。
は!
思い出と妄想と理想がごっちゃになって!
だから、利用してやったんだ。
神殿でミコトの所に行かせたのは、どこまで奴がおかしくなっているか知りたかったってこともある。
でも、ミコトとスミレの違いはわかってたみたいだ。
だから、別の方法を考えて、エレノアを標的にした。
そのほうが上手くいきそうだったから」
「……エドワードが全部、ひとりで考えて!?」
エレノアが確かめるような、少し怖がっているような口調で訪ねた。
「協力してくれたのはヘレン。
前にヘレンの子どもを助けたんだ。
その時に王城を抜け出すために、女装して。
うまくいって、誰にも知られずに王城から出て、ヘレンの子どものいる病院に行き、治癒魔法を掛けた。
でも、私の聖魔法はそれほど強くなくて……、何度か病院へ通ううちに、もっと聖魔法を練習をしたいと何か資料がないかと神殿に行ってみたら、デュカスにスミレだと思われて、泣いて許しを請われた。
それで、彼を利用して王家に復讐できないか考えた。
考えていただけだったのに、それを実際にやってみようと思わせたのはあなた達だ!」
しばらくシーンとしてしまう。
それを破って声を上げたのはシアだった。
「自分で幸せになるための努力はしたの?」
「え?」
エドワードが怪訝そうな顔をする。
「自分で幸せになるための努力はしたの? と聞いているの!」
「あんた、何を……」
「私は自分で努力をしない人は嫌いよ」
「何を……」
「スミレ様は双子のことを心配して見守るために逃げられず、その状況を、自分が傷つくこと消耗することをわかっていて、受け入れてたことはわかる。
子ども達のそばにいること、その方向に努力して、そして亡くなった。
それはわかるの。
辛かっただろうな。でも、頑張ってそう生きたってこと。
あなたはどう?
努力したの?
スミレ様に似たことを恨んで、王家を恨んで、スミレ様に捨てられたとすら思い込んでいたんじゃない?
それでエドガーがいつか助けに来てくれる?
イサクが親友になって、気持ちをわかってくれる?
甘えんじゃないわよ!
自分で逃げられたじゃない!
女装して王城から出れたんでしょ!
金目のもの、たくさんあるでしょ!
持ち出せそうなものが!!
逃げ出して、魔法や聖魔法をもっと教えてくれる場所に逃げれば良かったのに!!
たぶん、知っていたわよね。
ここで歴史書を読んだり、イサクの最近の報告も聞いていたって!
何故、魔法塔に逃げて来なかったの!」
ライカンがシアの肩を抱いた。
「ありがとう、シア。
エドワード様、たぶん、この言葉はスミレコが生きていたら、あなたに告げたいと思っている言葉でしょう。
スミレコはあなたとエドガーのことを愛していた。本当に心から」
「……うるさい!
簡単に言うな!!
言うだけは簡単なんだよ!」
「言うだけじゃないわよ!
私やミコトやエドガーもそして一緒にいたユミエラも!
みんな、努力したの!
自分のしたいように、より良く生きるために、幸せになるために!
後ろ向きな気持ちになったりすることもあったけど、それでも努力して前進してきたから今がある!」
「な、私は母の分も復讐してやるために……」
「スミレ様を貶めないで!
スミレ様は復讐なんて考えない」
「あんたに何がわかるって」
「わかるわよ!
スミレ様が亡くなる少し前に、苦しい悲しい辛いって打ち明けたのが私と私の母だったから!!」
「え?」
「私は話を聞いてお慰めするしかできなかったけど、母はライカンに知らせて、スミレ様は最期は幼馴染のライカンに自分の気持ちを打ち明けて、逝くことができたのだと思う」
「え? ライカン?」
「私は神殿の護衛騎士でした。
スミレコは私の父の領地に転移して来て、幼馴染として育ちました。
神殿で王子妃になり、第2王子が王になり、あなた方を出産してから離婚されたこと。
第3王子と新たに婚姻関係となったのに、王がスミレコのところに通ってくること。
子ども達のことを守るためには王を受け入れなければならないこと……。
スミレコは本当にエドガーとエドワードを愛していて、守るために踏み留まり続けたのです。
復讐のことなど聞いたことはありません」
「嘘だ! 嘘だ!」
「エドワード様!
しっかりなさって下さい!
このために城に留まり続けたのでしょう!」
ヘレンの言葉にはっとしてヘレンを見つめて、頷くエドワード。
「復讐したいのはあんたじゃないの? ヘレン」
シドの声が響いた。
「あんたが結婚して夫も子どももいるのに、大臣に……っていうのは聞いた。
それで、夫は大臣にいい職場を与えてもらったんだろ。そして、子どもは病院に。
だから、エドワード王子の侍女を。大臣と王妃の手先としてね」
「夫はもうどうでもいい。
子どもはエドワード様が治してくれて、もうきちんと養育してもらえる所へ逃がした。
だから、私はエドワード様のために協力する!
お前だって人のことは言えないはずだ!
母親が人質に取られているから、大臣の子でありながら、大臣の犬に甘んじていたのだろう。
母親が亡くなって、楔が無くなったのに、逃げ出さなかったのはなんでだ!」
「それを言われると痛いな。
まあ惰性、これ以外の道で生きていく術がよくわからなかったからな。
でも今は違う。
マイルズ共和国にイサクと旅をして、ミコトやエドガーやシアやライカン、それにユミエラ、ディー、そしてミレニア、イサクの母のライザ……。
いろいろな人に会って、俺自身、いろいろ変わった。
逃げるでも留まるでも復讐するでも、それを頑張ると決めたならそれでいいと思うけれど。
他の人を巻き込むのは感心しないな。
もう大臣は失脚したよ。
それで、何をしたいの?」
「エドワード様の心のままに!」
エドガーが前に出た。
「本当にエドワードはどうしたいんだ?」
エドワードの目が一瞬揺れた。
「私は……、私は……。
イサクともっと仲良くなりたかった。
エレノアにはやさしくしてくれたことへのお礼を言いたかった。
エドガーとお互いの無事を祝い合いたかった。
ミコト……、ミコトにはエドガーを選んでくれてありがとうという気持ちがありながら……。
ダメなんだ、イサクの、エドガーの、一番になりたい。
エレノアより、ミコトより、美しいと言われたい。
そんな自分の中の様々な感情が抑えきれない!
エレノアにやさしくされるたびに、自分はだめな奴なんだと思われてるみたいな。
イサクとエレノアが目を見合わせて苦笑したり、微笑み合ったりするのを見る度に、二人から自分はもういらないと言われているような……。
だから、だから……」
「いらないわけないでしょう!
エドワード様とエレノア様は違う人なんですから!」
イサクが叫んだ。
「エドワード様は、王族という私が仕える方でありながら、私を友人として扱ってくれた、大切な尊敬できる友人です。
エレノア様は最初はエドワード様のために何ができるかと考える仲間のような……。
でも、そこから、女性として意識して、愛おしく思うようになりました。
どちらが一番とかそういうことはなく……、ふたりとも私には大切なお二人です!」
エドワードはイサクを悲しそうに見た。
「だから、わかってるのに納得できなくて困ってる」
私は進み出た。
「復讐なんてやめて、王城を出ない?
一緒に魔法塔に行ってみない?」
読んで下さり、ありがとうございます。




