119 アンドリュース侯爵(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
エリオットが戻ってきて、エレノアがデュカス王弟に襲われたこと、エドワードの侍女へレンがその控室を飛び出して庭へ出て、少しの時間をおいてからシドと騎士とクラークが追ったことを聞いた。
「エレノアの怪我は!?」
「クラーク様が治癒魔法をしてくれた。
一応ミコトに診てもらった方がいいとか言っていたが」
「うう、エレノアのところに行きたい!」
私がエドガーに訴えると「もう少し待って」と言われる。
エリオットも言った。
「もう少しすると食事が終わり、立ち歩いての歓談の時間になる。
そうなると、離席しても目立たないから」
「……わかった。
そうしたら、エレノアの控室に連れてってよ!」
うう、デュカス王弟は捕えられたからもう大丈夫。
でも、なんでエレノアを襲ったの!?
スミレコをイメージさせる私を狙ってるのかと思ってたよ。
ああ、エドワード王子の行方か!
私は魔力感知をする。
ん? 庭じゃない!?
え、もう自分の部屋に戻っている!?
私は慌てて顔を上げて、エドガーを見た。
「エドワード王子、自分の部屋に戻ってる」
「え!?」
「あ、侍女へレンが庭に逃げたんだっけ?
うーん、でも、エドワードは今、部屋だ。
ヘレンもそっちに向かっているんじゃないかな?」
「クラークとシドに知らせるか……。しかし、動けない」
そこへエラン王子がエリオット王子を訪ねるようにやって来た。
「エリオット。
なにかさっきから……、なにがあったの?」
「エレノアがデュカス王弟に襲われて」
「えっ!?」
「で、どうやらエドワードと侍女のヘレンが何か知っているようなんだが、逃げてるようで」
私はその話に割って入った。
「エドワード王子なら、御自分の部屋に戻られたみたいです!」
「魔力感知で?」
「はい。
ヘレンはわからないけれど、少し前、エドワード王子はひとりでお部屋にいました」
「エドガーはだめか、ミコトと一緒にいなくてはだもんな。
スニフ!
庭のシドとクラークに知らせてきてくれないか?」
スニフは不安気な顔をした。
「大丈夫。私はミコトと一緒に動く。今はエランもエランの従者もいる。
ミコトの護衛の魔法使いも!
戻ってきてこの場にいなければ、エレノアのところだ」
「はっ!
急ぎ行って参ります!」
スニフが庭の方へ行ってくれた。
そうそう、テラスの誰だかわからない反応はもう消えてた。
男性だったから、ヘレンではない。
私はちらっとアサニヤ王国側のテーブルを見た。
ラスター様と目が合う。
困った表情をしていた。
コタンでカイラムを連れ戻そうと来た時のラスター様の声を思い出す。
ラスター様はカイラムに渋々従わされているというか、本当はこんなことをしたくない、のでは?
第3王子だっけ……。
うーん。
デザートとお茶が出て、これを食べ終えれば席を立てるそうだ。
私はすごい勢いで食べちゃったよ。
で、エドガーとエリオット王子が食べ終わるのをじりじり待つ。
早く早く!
「早過ぎ!」
エリオット王子に目を丸くして言われた。
「こんなぽちっと、すぐ食べられる!!」
うんうん、別腹です!
ちょっと苦しいけど、なんとか収まったよ。
味わう時間がなかったのは超残念だけど。
その時「パトリシア嬢?」とシアに声を掛ける声に思わず頭を跳ね上げた。
誰!?
声がリンデウムじゃないけど!?
シアが驚いた表情で話し掛けてきた男性を見上げ「アンドリュース侯爵令……」と呟いた。
「やはり、パトリシア嬢だ!
マイルズ共和国で暮らしていたんだね。
心配していたんだ。
リンデウム伯爵家に君に会いたいと連絡しても、無理だという返事しか戻って来ず、そのうち、君が身を持ち崩して駆け落ちしたという噂まで……。
リンデウム伯爵家を疑って、シーザー王国中の修道院を探させたが見つからなかった」
修道院を探してたって、それじゃあ見つからないよ……。
「どなたでしょうか?
シアは私の妻です」
ライカンが少し強めに言った。
ライカンはシーザー王国では伯爵家のえと、三男だったっけ?
でも、今はマイルズ共和国の騎士だから、そこまで貴族に対しても身分を気にしなくていいところはある。
「失礼。
アンドリュース侯爵家のバーニスだ。
2年前に父の後を継いで今は侯爵になった」
「アンドリュースのおじさま、もしかして!?」
シアが心配そうに言う。
「大丈夫、元気だよ。
両親ともに君を気に入っていたからね。
君の御両親の伯爵夫妻の訃報を聞いて……、君のことをとても心配していた。
こちらの騎士が君の駆け落ち相手ではないだろうということぐらいはわかるよ」
「……そうです。
いろいろな不幸や悲劇が、そして、素晴らしいこともありました。
今の私は魔法塔の騎士ライカンの妻で、ユニコーン商会長ですわ」
その時、リンデウム伯爵が割り込んできた。
「パトリシア!
余計なことを言うんじゃない!!
アンドリュース侯爵!
こいつは人に言えないような道を歩いてきたのです!
放っておいてやって下さい!」
そう言いながら、シアの方に「口止め料ならいくらでも受け取るがな」と囁いたのが聞こえた。
むっかー!!
なに、なんなの!?
まだ若いアンドリュース侯爵はリンデウム伯爵を汚らわしい物でも見るように見下ろした。
「口止め料?」
「いえ、その、パトリシアの過去のことです、はい。
リンデウムの恥となりますので、これ以上は……」
「……先日、相談があってね。
カノンの街の『エスタ』という店の主人からだ」
「そ、あ、あんな店の女主人の言うことなど!?」
「『エスタ』のことを知っているのだな?」
「え? いえ、その名前聞いたことがあるぐらいで」
「でも、女主人と」
「は、何かでちょっと聞いた記憶が……」
アンドリュース侯爵は憐れむような目でリンデウム伯爵を見てため息をついた。
「私の今の仕事を知っているかね?」
「へ?
アンドリュース侯爵家の先代は法律関係……」
「そうだ。
父は法を整える方が得意だったが、私は法で殴る方が得意でね」
「殴る?」
「まあ、現場で捜査し、隠されてきた悪行を暴いて断罪したりする方だ。
女主人からは匿名で告発はできるのかと。
被害者を守りながら、罪を告発することはできるのかと、相談に、ね」
リンデウム伯爵が真っ青になり、後退る。
「あ……。もう知って……」
「ああ、知っている。そして、パトリシア嬢を心配して会いたいと申し入れていたこちらからの要求を、自分の悪事がばれることだけを恐れて握り潰していたこともね。
もう、パトリシアシアがリンデウムを出ていることがわかれば、容赦しなくて済むな。
罪人を捕らえよ」
「はっ!」
アンドリュース侯爵の侍従がリンデウム伯爵の腕をねじ上げて、跪かせた。
「くっ! 放せ!
私を誰だと!
放さぬなら、ここでパトリシアが辱めを受けるようなことをばらしてやる!
パトリシアはカノンの……」
私は立ち上がり、リンデウム伯爵が開けた口の中に風魔法を送り込み、雷を喉の奥へ素早く突っ込んだ。
「エ、ぼうっ、うっ、うおっ、うぇ……」
リンデウム伯爵の悲鳴なんだけど、風が口に吹き込んで声が出ないのでえずくようなうめき声とそして、涎が……。
きったなー。
でも、とりあえず、今はしゃべれなくしてやると思って……。
涎とか、そこまで考えてなかったわ。
「連れていけ」
アンドリュース侯爵の言葉で、大広間の係も駆けつけ、リンデウム伯爵は隠されるように大広間の外へ連れ出された。
「アンドリュース侯爵……、妻を守って頂き、ありがとうございます」
ライカンが頭を下げた。
アンドリュース侯爵はやさしい表情でシアを見た。
シアもしっかり見つめ返す。
「あの時は……、助けられずに、ごめん。
もっと早く、婚約を決めていれば……」
「いえ、アンドリュース侯爵令息だったあなたには、兄のような憧れはありましたが……。
もし、あの時、嫁に貰って頂いたとしても、あの叔父一家にたかられ続け、ご迷惑をおかけすることになっていただろうと思いますわ」
「うん、お互いに縁がなかった」
「はい」
「今は幸せなのだな」
「はい」
シアもアンドリュース侯爵も微笑んだ。
「では、あいつらの断罪は私に任せておけ」
「よろしくお願いします」
去っていくアンドリュース侯爵、かっこいい……。
シアの元恋人!? 家族で親しくしていた婚約者候補ってこと?
「あ!」
シアがペロッと舌を出した。
「サルバトーレとマルゴットは名を捨てられないのだったわ。
これから、大変でしょうね」
読んで下さり、ありがとうございます。
リンデウムを乗っ取った叔父一家への断罪はこれで終了。シアにしたことは本当に許せなかったので、徹底的に破滅して頂きました。妻は逃げたけど、絶対幸せになってないと思う。
名を使うのを禁じられても、血と名の縛りで名を捨てられず名乗ってしまうふたり(サルバトーレとマルゴット)は貴族からも平民からも受け入れてもらうことはできなくなるでしょう。
叔父である伯爵は爵位と家名没収で、さらに牢屋を経て強制労働コースです。サルバトーレもこれからの調査によっては親子で同じコースかも!?
『エスタ』のマダム、叔父が一言だけ口に出した『アンドリュース侯爵』に相談したのはグッジョブですわ!




