117 侵入者(イサク視点)
そろそろ終わりが見えてきました。
後もう少し、お付き合い、どうぞよろしくお願いします。
夜会の責任者から連絡係として文官一名を借り受けたいという依頼に、係長が私を指名した。
「マイルズ共和国やアサニヤ王国の使節も来ているし、イサクが一番いいだろう」
その言葉に、私はエントランスに向かった。
そして、目を疑った。
シドがいる!?
なんで!?
「シ!」
言いかけて慌てて口を閉じた。
『シド』とここで呼びかけて大丈夫か!?
慌てて駆け寄って腕を掴む。
「イサク!!」
「なんで……、来たらって……」
「大丈夫だ、ギルド職員として来てる。
ライザ、ミレニア、ユミエラとディーはギルドにいる。安全だ」
「ギルド?」
見るとマイルズ共和国の首都ジュノーの副ギルド長……だったよな?
私はその男性に慌てて礼をした。
シドが話を続ける。
「それに、エレノア王女とエリオット王子が俺の身柄を自分達の方につけてくれたそうで、お二人の護衛や使いを務めることになった。
これからゴードンと一緒にマイルズ共和国の控室に行ってくる」
「よろしく頼む!
その……、エドワード王子とデュカス王弟の話は聞いた?」
「ああ、エドワード王子、何を考えているのやら。
ミコトを狙っているのか?
それともほかに何か……。
まあ、ミコトの方はエドガーやライカン、それにクラークにゴードンもいる。
俺は手が足りない所へ動くよ。
お互い頑張ろう!」
シドや副ギルド長のゴードンさんは王城の中へ入って行った。
エントランスで招待された貴族の入場を確認したり、聞かれて控室に案内をしたり、大広間へ案内をお願いしたり、その場の責任者の指示で動く。
夜会が開始の時刻になり、来場者がいなくなり、ほっと一息つく。
控室に誰も残っていないか確認に一緒に来て欲しいと言われ、控室の方の廊下を歩いていく。
廊下の手前には係が一人立っていて、その先の突き当りの大きめドアの前には騎士が一人立っていた。
騎士のいる部屋が王家の控室。
その手前の4つの部屋が貴族達の控室や待合室に使われていたそうだ。
その手前の控室をひとつずつ確認していく。
もう誰もいないが、奥の部屋のひとつ、窓が開いていた。
「開けたら閉めて欲しいよ、まったく」
係が文句を言いながら窓を閉めて、施錠を確認。
部屋を軽く整えて出ると、ドアノブに空き室の札を掛ける。
こうしておくことで、体調不良などの人が出た時の対応に使用できる部屋だと示しているそうだ。
廊下で王家の控室の方をちらりと見た。
開始前にこの仕事を頼まれていたら、王家の控室からエレノア様がドレス姿で出て来られるのを見ることができたのにな。
少し残念に思いながらエントランスに戻る。
テーブルの席次と招待者のリスト、そしてチェックした名簿とを付き合わせていた係が怪訝そうな表情で責任者に報告していた。
「リストにはあるのに席次に名がない方が……」
「特に大広間の方から何も連絡は来ていないが?」
「念のため、大広間の方に問い合わせをして頂けますか?」
「どなただ?」
「神殿のデュカス王弟です。
供も連れておられず、ひとりでいらしたようです」
「ようです?」
「はい、チェックした者が、招待状はあり、リストにも名前があるが、出席することはないという慣例の引き継ぎ内容を失念していたようで……」
「席はないのに大広間の方から何も言って来ないとなると、大広間に行っていないのかもしれない!?
どこかに、王城の中にいらっしゃる?」
窓が開いていた控室を思い出す。
「庭かもしれません!
窓が開いていた控室がありました!
あそこから1階のテラスに出ることができます。そのまま下りれば庭。
庭なら身を隠すことが可能でしょうか?」
「身を隠す?」
「あ……、デュカス王弟は……、マイルズ共和国の使節と神殿で何かあったようで……」
責任者が顔を顰めた。
「テラスなら……、王家の控室ともつながっているか。
いや、控室には侍女がいるだろうし。
さすがに騒ぎになるよな!?」
エドワード様の侍女のヘレンが頭に浮かぶ。
ヘレンなら、王家の侍女として、騎士にも怪しまれず、控室を出入りできるかもしれない。
考え過ぎか……。でも、一度でも悪い予想をしてしまうと……。
確認した方がいいだろう。
「王家の控室も中を確認した方がいいでしょう!」
私の言葉に責任者が少し躊躇した。
「いや……、それは……」
「王家の控室の中に、デュカス王弟が潜んでいたら?
デュカス王弟に協力する王家の従者や侍女がもしいたら、控室の中で何かあったかもしれない」
その時、大広間から今日何回目かの拍手の音が響き、ドアが開いて少しざわざわするような……。
「食事に入られた!
王と王妃とエレノア王女が控室へ向かわれる!」
責任者が慌てて叫んで。
私は責任者の腕をつかむと「行きましょう!」と叫んだ。
「何か、あってからでは遅い!!」
エントランスの責任者と私は控室の方へ。
係のひとりは大広間へ確認へ!
控室の廊下へ到着した時に、ちょうど王と王妃とエレノア様が戻ってきたようだ。
従者の中にシドがいた!
「シド!!」
シドとエレノア様が私に気づいて立ち止まってくれる。
「王家の控室の中を一度確認した方がいい!」
他の従者や王に怪訝そうな顔をされるが、私は伝えた。
「デュカス王弟が来場した記録があるのだが、大広間には行っていない!
1階のテラスへ何者かが出た痕跡があった。
テラスから庭へ出たのか、それとも、テラスを回り王家の控室に入っている、なんてことは!?」
その時、厨房の方から国王達の食事が運ばれて来て、現場は騒然となった。
エレノア様が指示を出して下さる。
「国王、王妃は空いている他の控室へ!
従者もそちらへ!
シド、イサク、それに番をしていた騎士、私も立ち会います。
まず、控室内の安全を確認しましょう!」
「エレノア王女も国王達とお待ちください!」
シドが言うがエレノア様は首を振る。
「私の侍女のアンが中にいます。
彼女が……。
それに本当の侍女ではない者がいる可能性もありますでしょ?」
シドが渋々頷き、私を見た。
「イサク、エレノア王女を守れよ。
エレノア王女、イサクの後ろにいて下さい」
そして、騎士に部屋の出入りについて尋ねると、途中、侍女がひとりだけ中に入ったということだ。
名前はわからないが、王族付きの侍女の服だったという。
ヘレンという可能性も捨てきれない。
騎士に控室の窓の件、デュカス王弟が王城に来て行方がわからないこと。
シドが手短に伝えてくれて、用心しながら中に入ることになる。
騎士がノックをして「食事が届きました」と声を掛けると、ドアが大きく開いた。
侍女がドアを押さえて「こちらにどうぞ」と頭を下げた。
騎士とシドが少しだけ中に入り、見回す。
頭を下げていた侍女が顔を上げた。
ヘレンだ!
「ヘレン!!」
ドアの所のエレノア様が叫んだ。
「アンは!?」
ヘレンがはっとこちらを見て、シドに気づき、身を翻した。
素早い!
部屋の奥、窓を開けてテラスへ、そして庭へ……。
「何が……?」
シドがそう呟きながら、さらに控室の中に入り、周囲を見回す。
エレノア様が「アン? アン!? 返事して!」と叫びながらシドを追い越すように前に出ようとして、私はエレノア様の腕を掴んで「前に出ないで下さい!」と叫んだ。
騎士とシドが剣の柄に手を掛けながら、室内を確認していく。
見える部屋の中には何もないようだ。
となると、洗面所や浴室に繋がるドアと、隣室の小部屋に繋がるドアを確認しなければならない。
エレノア様は真っ青になって、私に縋りつくみたいに……。
私も必死にエレノア様を支えた。
洗面所にはアンが倒れていた。
手を紐でくくられて、気を失っているようだ。まさか、死んではいないよな!?
「アン!!」
エレノア様は飛び出ていこうとして、私は必死に止めた。
シドと騎士が確認してくれ、「気を失っている! 誰か!」と叫んだ時。
エレノア様の悲鳴が真後ろから聞こえた。
弾かれたように振り向き、エレノア様を抱きしめようとしたが、エレノア様ごと引っ張られる。
隣の小部屋のドアから、デュカス王弟が現れ、エレノア様の腕を掴んだのだ。
アンの様子に気を取られ過ぎて、エレノア様を守っているつもりで、デュカス王弟のそばにエレノア様を近づけてしまっていたのだ!
「いや!
叔父様!!」
「お前か!
スミレを虐めていた、性悪な王妃め!」
「ちがうっ!
私はエレノアですっ!」
エレノア様の細い首にデュカス王弟の手が伸びた。
「やめてっ!」
「やめろ!!」
私はデュカス王弟に飛び掛かり、エレノア様の首から王弟の手を払おうとしたが、身体が吹っ飛んだ。
なんだ!?
魔法!?
風魔法?
身体が控室内のソファにぶつかり、床にずり落ちる。背中が痛い!
なんとか起き上がるが、目の前でエレノア様の首を締め上げているデュカス王弟が……!
読んで下さり、ありがとうございます。




