115 夜会の日に(イサク視点)
どうぞよろしくお願いします。
今夜は王城で夜会が開かれる。
エレノア様は準備で忙しく、シドはユミエラ達の付き添いで王都の北の方に馬車で出かけていた。
私は図書室にいた。なんだか久しぶりにゆっくり資料を読んだり、片付けたりができている。
ふと資料を読む目を休めるかのように、図書室の窓を見た。
窓を見ると……、何故かエドワード様が頭に浮かんだ。
長期に渡った視察研修が終わり、書き溜めていた記録を元に報告書を作成し、提出した。
係長や先輩方は喜んで読んでくれた。
「素晴らしい! この図書室に収めて貸し出して読めるようにするべきだ!」
「マイルズ共和国とアサニヤ王国の現在の姿がよくわかる! 面白いよ!」
褒めてくれた。
一応、王妃の手元まで上がったようだが、特に言葉もなくすぐに戻ってきた。
まあ、王妃にしてみれば自分が命じた研修だが、実際は『クルトを探す』という命令だったのだから。
私の手元に戻ってきてすぐ、エレノア様に貸して欲しいと言われ、お貸しした。
エレノア様は顔を合わせるたびに「この部分をもっと詳しく知りたいわ」「文章で読んでもこんな素晴らしい建造物なんですもの! 実際に見て見たいわ!」など、今読んでいるところのお話をして下さる。
読み終わって返して頂いてから、エドワード様にお貸しした。
エドワード様も楽しく読んで下さったようだ。
それから、数日後、部屋でエドワード様から報告書の感想を聞いている時にエレノア様がいつものようにお見舞いにいらした。
「あら、エドワードはコタンに行きたいって言うと思った!
私は首都のジュノーより、コタンに行ってみたいわ!
上水道下水道が民の住宅まであるなんて、すごいわよね!」
エレノア様が話に入って、エドワード様が一区切り話し終えた時に笑って言って。
その時、エドワード様の顔が強張った。
「エレノアは、もう読んだの?」
エレノア様はエドワード様の表情に、なんだか怯んだ。
エドワード様の声も低かった。冷たさと怒りを感じるような。
「その……、王妃が返したことを聞いて、私も読みたいと声を掛けたの。
そうか、エドワードがまだだったのね。
私が読むのに時間をかけてしまって、遅くなり、ごめんなさい」
エレノア様はそう、すまなそうに微笑みながら言って……。
でも、エドワード様の表情は変わらず、エレノア様は戸惑ったように私を見て……。
「怒らせてしまったみたいね。
ごめんなさい」
もう一度謝って、部屋を出て行った。
部屋に残されたエドワード様と私……。
エドワード様はぱらぱらと報告書をめくりながら言った。
「これ、欲しいな」
すぐに返事はできず。
「……係長が図書室に置いてくれると。
他の文官も読みたいと言ってくれていて。
少しお時間を頂けたら、写しを作ります。
そうしたら、エドワード様のお手元に」
「写し……、そこまでしなくもいいよ。
図書室に収められるなら、いつでも借りることができるだろうし」
少し気が抜けたような感じで言われて、少し間があって。
「エレノアと、仲良いの?}
「は?
仲が良いというか……」
何となくどう答えたらいいか、考えて口籠ってしまった。
エドワード様についてのことをエレノア様と話したり、シドとエレノア様と三人で出かけたりということが、確かに増えていた。
が、それを言っていいのか……という気がしたからだ。
「シドと一緒に仕事のことなど相談されることが増えたといえば……」
「それを仲が良いって言うんだよ」
ぼそっと言い返される。
青い瞳の色が沈んでいる。
「お疲れですか?」
私は声を掛けつつ、退出しようと立ち上がる。
お疲れならば帰ろうと思ったからだ。
「つ! 疲れていない!!
ごめん、嫌な態度を取ったね」
慌ててこちらを見て、立ち上がったエドワード様はいつもの表情で。
「もう少し話をしたいな」
そう言われて、座り直し、報告書の内容や感想、興味深いと思われたところと話されたところを口頭で補足したりして……。楽しんで頂けたのだと思う。
なぜか……、その時のことを思い出して不安になる。
もしかして、エドワード王子はエレノア王女を邪魔だと思っている?
出会ったばかりの頃はエレノア王女に感謝されているように見えたのだが。
だんだん、わかってきたことだが、唯一家族という愛情を持って、エドワード王子に接して下さっている方だから。
エドワード王子と私が親しくなり、王子でなく、名前で呼び合おうと言われ、そして、今回のクルトのことでエレノア王女に助けて頂いたことが多かった。
そしてエドワード様からもエレノア様からも王子王女ではなく、名前で呼び合う許可を頂けて。
特にエレノア様とはエドワード様のためにとできることを考えたり、一緒に行動したり考えたりすることが増え……。
そんなことを思い出していたら、エレノア様が図書室に駆け込んで来られ、「イサクをお借りします!」と言われた。
私は慌てて立ち上がり、資料に栞を挟んで閉じると入口の方へ向かう。
「エレノア王女!」
「イサク!
エドガーとミコトが神殿で襲われたとかで、王城に戻って来たの!
一緒に話をしに行きましょう!」
兄さん達が!?
私が係長を見ると頷いてくれたので、礼をしてエレノア様と歩き始めた。
「おひとりで来られたのですか!?」
「ええ、侍女は夜会の方の準備をね」
控室に行くと不安そうなミコトのそばにエドガーがいる。
ライカンとシアもいた。
エレノア様が心配そうにミコトに声を掛ける。
「大丈夫!?
叔父様に何か魔法を掛けられたとか!?」
「……もう落ち着いたけど、デュカス王弟は王城にも来ることあるの?」
ミコトが思ったより元気そうに答えてくれて、エレノア様が返事をした。
「いいえ、今はもう来ることはないわ。
今日の夜会も招待状は送ってあるけれど、来ないと思う」
ミコトが少し考え込んだ。
エドガーが私を見て言った。
「エドワードはどうしてる?
結局、エドワードとは関わらない方がいいのかと、離れている選択をしたが……。
今、どうしているか気になる」
私は思わずエレノア様と顔を見合わせてしまった。
エドワード様、今日、会いに行っていない。
呼び出しもなかった。夜会があるから、なんとなく王城の中が気忙しく、部屋に籠られているとばっかり……。
「様子を見てきます!」
私はそう言って、控室を出た。
そして、王城の端まで行き階段を上り、エドワード様の部屋の前まで。息を整えてからノックする。
返事がない。
私はそっとドアを開いた。
開いた。鍵は掛かっていない。
まあ、いつもはエドワード様がこの部屋に絶対いるわけで、ほとんど鍵はかかっていない。
誰もいないなんてことは……。
誰もいない!?
「エドワード様、エドワード様!!」
一度目は控えめに。二度目は大きく名を読んでみたが……。
何の反応もない、誰も出てこない。
侍女のヘレンがいたはず。もし別の部屋に控えていたとしても、この部屋に何かあればすぐに来るはずだ。
私は部屋の真ん中まで進んで……。机の上にエドワード様の読みかけの歴史書と、いつも読書の時に右手で触っているピンクのキラキラした素材のついたペンダントトップのようなものが置いてあるのを見た。
どこかへ、出かけた?
エドワード様とヘレンが?
エレノア様が庭までと誘っても、部屋の外へ出なかったエドワード様が!?
読んで下さり、ありがとうございます。




