11 安い宿(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
パンはちゃんとした建物のパン屋に入ってみた。
そのほうが種類もたくさんあって、清潔そうだったし。
小さめ丸パンが12個入っている袋を買った。
パン屋を出たところでクルトが「ちょっと待ってて」と言って私達から離れて行った。
パン屋の隣のチーズのお店の外カウンターを覗いて、硬めのチーズをスライスしてもらい買った。
クルトが戻ってきて、私に小さなノートと鉛筆をくれた。
「収納した物を書いておけば、たくさん入れられるだろ?」
「ありがとう!」
私達は人の少ない建物の陰に入ると、買った物をしまった。
ノートに書きこむ。
まずさっき入れた青りんご!
日付と青りんご8個と書いた。
次に同じように日付と丸パン(小)12個、スライスしたチーズ8枚と記入。
そのページに鉛筆を挟んでカバンにしまった。
「ノートがあればたくさんしまえる!!」
「便利よねー!」
ミカエラがニコニコ言ってくれて、私も頷いた。
さらに出店&屋台巡りをして、パンに野菜と肉が挟んであるのを食べてから宿に向かうことにする。
寝るところが大部屋で、ベッドがたくさんあるみたいな?
なんか山の家だっけ?
夏の子どもキャンプで泊まった施設みたいなの思い出した。
寝る部屋は男女別(当たり前か)なので、クルトとは分かれる。
思った通り、飲み水は自由に水筒に入れることができるそう。
水買わなくて良かった。
共有部分の食事とか持ち込んで食べられる大きな部屋もあり、そこは男の人も一緒に使う、共有部だから、そうか。
ベッドに荷物を置きっぱなしはちょっと怖いねということになり、ミカエラとプリシラの水筒の瓶を預かって、私がこの共有の部屋に水汲みに行った。
洗ってから、飲み水を入れ、3つまとめて袋に入れて戻ろうとしたら男の人に声を掛けられた。
「おつかい?」
若い……のか?
『エスタ』で押し倒してきた坊ちゃんくらいかな?
私は「はい」と言って女子の方の部屋に戻ろうとしたんだけど、進行方向の壁に通せんぼみたいに手をつかれて邪魔される。
これは、壁ドン!?
「そこまでちっこくないのか?
顔見せてみ?」
私はその壁ドンの腕の下をさっとかいくぐって逃げた。
次の日、狩りに行くために共有部の大部屋に行くとクルトがもう来ていて、パンと青りんごで簡単に朝食を済ませた。
残りもちゃんとしまって、ノートに数を書き直した。
水も新しいものを入れ替える。
その時、「おはよう」と声を掛けられた。
見ると、昨日の男の人だ。
ミカエラに「知り合い?」と聞かれ、クルトが「誰?」とその男の人に言ってくれる。
「昨日、その子に声掛けたら逃げらて。
ちゃんと保護者にも挨拶すれば、知り合いになれるだろ?」
えーと、知り合いは増やさない方がいいのかな?
プリシラが言った。
「昨日? 水汲みに行った時?」
「うん、『顔見せてみ?』って言われた。
それだけだよ」
壁ドンのことは言わないでおこう。
「顔?」
プリシラがその男の人を見る。
「ちっこいのかと思ったら、きれいな顔してるみたいだし。
思っているより大きいのかなって。
それに俺は悪い奴じゃないよ!
ほら、ギルドカード、見せるよ!」
「いや、ギルドカード見たって悪いこと考えてるかはわからないよね?」
私は思わず突っ込んでしまったが「まあまあ」と男の人に笑いで押し切られた。
差し出されたギルドカードはクルトが受け取り、ちらっと見てプリシラに渡された。ミカエラも覗き込んでいる。
「へー、若いのにCランクとはね!」
ミカエラが感心したように言った。
えーと、私はFでプリシラがDだっけ。
ミカエラとクルトは、知らないや。
「狩りに行くんだろ?
しかも、今日、デュランで初めてってとこだ。
俺、案内してやれるし。
今日、一緒に組まないか?」
「……とか言って、どこかに仲間がいて俺達を誘いこもうってんじゃないだろうな!?」
クルトの言葉にミカエラがさっと緊張した表情になる。
プリシラがカードを返しながら言った。
「悪いけど、デュランにはそこまで長くいるつもりはないの」
「……どうしたら、信用してくれる?」
ちょっとかわいそうになってきた。
私は男の人の前に立った。
「なんで私に興味を持ったんですか?」
「え?
あ、かわいいと思ったからだよ。
俺、その、まだ17だし……。
そっちの大人のお姉さん達もきれいだけど……。
お前の方が気になった」
私は右手を差し出した。
「えっ?」
「握手」
私の差し出した右手を両手で握ってくる……、えーと。
「名前は?」
「あ、カード見てなかったか。
ホークだ。お前は?」
「ミコト」
「ミコトかあ。名前もかわいいな」
……変な感じはしない。触れてても嫌な感じはしないし。
「ホーク、あの進行方向塞いだり、お前って呼ばれるのは嫌だけど。
悪意がないのはわかりました。
プリシラ、せっかくだし、案内してもらおうよ」
「わー、ありがとう!
ミコト!!」
私の右手から片方の手を外してグイっと抱き寄せられそうになり慌てるが、右手は握られてるし、左手と私の左頬がむぎゅッとホークの胸に押しつけられた。
「うげっ」
変な声が出ちゃったよ。
顔を上げてホークの顔を下から覗き込むみたいになる。
「やっぱ、かわいいじゃん。
本当に、何歳!?」
顔を覗き込まれてちょっとびっくりしたこともあり「13歳」と本当の年齢を答えてしまった。
クルトが私の背中の方から両肩を掴んで助けてくれようとしたんだけどホークが力を入れたのがわかり……。
「兄さんだから!」
「へっ?
ミコトの兄さん? なのか!
そりゃ、心配するか!」
「うん、クルトと、それからミカエラとプリシラ」
「よろしくっす!
ホークっす!
えーっと?」
「あ、クルトが兄さんで……、ミカエラは……、兄さんの恋人、だよ!
で、プリシラは……、私とクルトの……従姉!
4人で旅してます!」
なんか勢いでその場の設定をでっち上げた。
「ふーん、でミコトは13歳と」
ミカエラが私とクルトの後ろから「間もなく14歳になるけどね!」と言った。
「14かぁ。ちっこいけど、まあ、うん」
何が、まあ、うん、なのだ!?
「じゃあ、ホーク、あなたを信用するわ。
ミコトも認めたようだしね」
プリシラが苦笑しながら言ってくれた。
認めたというか悪いことは考えてないようだという……。
私達は歩き出して宿を出る。
クルトが私の隣にぴったりいるので……。
「クルト……、兄さん、大丈夫だよ。
クルトもミカエラもプリシラもいるし、そんなに警戒しなくても」
「そうっすよ!
ほら、クルト兄さんは恋人さんとどうぞ!」
ホークがニコニコして言った。
クルトが顔を引き攣らせて私を見る。
いやいや、なんでそんな顔するの!?
ミカエラが来て「ほら、たまにはミコトも同じくらいの子と過ごさないと!」と言いながらクルトをつかまえて、私達の後ろに下がった。
うう、何か、視線が……、すっごく後ろから視線を、感じるんですけど……。
読んで下さり、ありがとうございます。




