108 行方(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
馬車の中でやっとほっとできた。
「ミコト、大丈夫ですか!?」
ノルテスがすごく心配して、馬車の外からこちらを見てオロオロしてくれてる。
「大丈夫です。
まさか聖魔法で攻撃を受けるとは思ってなくて……」
「さっきのは何か攻撃だったのですか!?
使節団にそのような魔法を向けてくるとは!
抗議しましょう!!」
ノルテスが怒ってくれるのがすごくうれしい。とてもほっとした。
「もう大丈夫です。
もうわかりましたから、次回からは用心できます」
「……わかりました。
正式には抗議はしませんが、クラークと相談してこんなことがあって遺憾であるということは伝えることにします!」
ノルテスが珍しく(すごく穏やかな人だから)プンプン怒ったような感じで向こうの馬車に乗り込んで行った。
「大丈夫だな?
ミコト、エドガー」
クラークが声を掛けてくれ、私とエドガーは頷いた。
馬車にはエドガーと私とシアとライカンと……、エリオット王子……。
スニフが戻ってきて、エリオット王子に何か報告してから、御者席の方へ行った。
あ、そっちに乗ってたんだ。
というか、ずいぶん私達のことを信用してるんだな。エリオット王子とスニフは!?
馬車が動き出す。
「……すまなかった。
叔父は……、少し聖魔法が使える。
父王より、叔父の方が、その……転移者の血が濃いかもしれない」
エリオット王子が謝ってくれた。
「で、何を見たんだ?」
「……見たっていうか。
泣いているスミレコ……。
感じた。
痛みと悲しみと苦しさ……。
スミレコはその……したくない行為を無理強いされてて。
やめて欲しいと、その時にはデュカス王弟の名を呼んでお願いするから……」
「……無理やり?」
「……うん。
あの人は狂ってるよ。
スミレコを愛してるんだろうけど、自分がスミレコを傷つけている時だけ、スミレコの気持ちが自分だけに向き合ってくれるというか、そういう……」
「傷つけている時だけ向き合ってくれる。
スミレは叔父を愛していなかった」
「うーん、よくわからないよ。
でも、そんなことされたら愛せるわけないと思うけど」
「じゃあ、父王を愛していた?」
エドガーが首を振る。
「そちらも今となってはわからないな。
ただ、王と王弟は自分の思いだけでスミレコを扱っていた気がする。
そして、心から自分だけを愛してくれないと狂ったのが王弟。
スミレコに悪いと思いつつ、離れられずにいたのが王だろう」
抱きついているからエドガーの声が身体に響く。
安心できた。
馬車は王城に到着し、私達は休める部屋に通された。
この部屋を夜会の準備とか休憩室とかにしていいらしい。
一応、私とエドガーとシアとライカンの部屋だって。
エリオット王子が知らせてくれたみたいでエレノアが来てくれた。イサクを連れている。
「大丈夫!?
叔父様に何か魔法を掛けられたとか!?」
「……もう落ち着いたけど、デュカス王弟は王城にも来ることあるの?」
「いいえ、今はもう来ることはないわ。
今日の夜会も招待状は送ってあるけれど、来ないと思う」
来ないと思う?
来ようと思えば、来れるってことか。
エドガーがイサクに声を掛けた。
「エドワードはどうしてる?
結局、エドワードとは関わらない方がいいのかと、離れている選択をしたが……。
今、どうしているか気になる」
イサクがエレノアを見てから、頷いた。
「様子を見てきます!」
イサクが部屋を出て行った。
「デュカス王弟がそんな魔法が使えたなんて、知らなかったわ」
エレノアの言葉に言い返す。
「ううん、あれは無意識だと思う。
スミレコが死んだことで、狂ったというか、心が壊れたというか。
それでも、まだ、スミレコの姿を探し求めてる」
エドガーに似ているのが本当に許せない。
思い出すとイライラする。
「だから、同じ転移者の黒髪黒目のミコトを見て、スミレ様を思い出したとか?」
「うん、そんなとこじゃないかと思うけど。
触れられてもいないのに、スミレコから得た記憶というか、こちらに流れ込んできて、苦しくなった。
スミレコ……、嫌がって泣いてた……」
「そんなの!
正気を失っているんだもの!
ミコトに襲い掛かるかもしれない!
危ないじゃない!」
「うん、確かに危ないけど。
そういう魔法が使えることはわかったから、用心する。
それに私も戦えるし、エドガーとライカンもいるしね!
夜会ではクラークも一緒にいてくれると思うし。
そういう魔法攻撃だと最初に気づいてくれたのはクラークなの」
その時、ドアがノックもなく開き、私達はびっくりしてそちらを見た。
イサクが慌てている。
「エドワード様がいません!?」
エレノアがきょとんとしてから、言葉をくり返し、だんだん慌てていく。
「いない……?
えっ? 部屋にいない!?
外出したってこと!?
侍女は!?」
「侍女もいません!」
「……いつから?」
「わかりません。
厨房に聞きに行ったら朝食は侍女が取りに来ていたそうです。
昼食はまだ取りに来ていないと」
あ、もうそんな時間か。
私もお腹が空いてきたかも。
でも、ここは……。
「エドワード王子の魔力が入っている物とかない?」
私の手に握られているのはエドワード王子が大切にしていたというキーホルダーだ。
なんかガチャのプリンセスシリーズとかで見たことがあるようなデザインな気がする。
母であるスミレコの物だったという。
あっちの世界から一緒に来たものだろう。
ピンクの宝石を模したアクリルっぽい透明キラキラがついている。
部屋に呼ばれて来てくれたクラークが覗き込み「本物の石ではないな」と言った。
私は頷く。
でも、微かにエドワードの魔力を感じることができた。
すごく弱い。もともと込めるつもりもなかったものだろうし。
「よくこの石の表面を指で撫でていたから、もしかしたら魔力が入っているかも……」
イサクが説明してくれる。
本を読んでいたりする時によく手に持って触るのが癖になってたみたいだ。
……そういやフィオナも探さないとだった。
北の方、行かなきゃだな。
少し気持ちがふらふらしてしまったので、深呼吸してキーホルダーのピンクのアクリルの石から感じる魔力を探す。
すぐ見つかった。
拍子抜けするくらい、あっさりと。
私の知っている場所だったから。
「……神殿にいます」
「神殿!?
え?
ミコト達は、さっきまで神殿にいたのよね!?」
エレノアが驚く。
「はい、でも、エドワード王子が来てるとか、そういう話や神殿でのなんか混乱とか、そういうのは全くなかったですよ!?」
その時、ドアが開いた。
エリオットがスニフを連れて駆けつけてきたようだ。
「何かあったのか?
なんだか人の出入りが激しいと……」
「エリオット!
神殿でエドワードを見なかった!?」
エレノアがエリオット王子の胸倉をつかむ勢いで詰め寄る。
「ちょっ!
何を!?
神殿で、エドワード!? 見てないよ!」
スニフが少し頭を沈めた。考え込んでる?
「エドワード王子……。
あの女性のように美しい方ですよね?」
エリオットがエレノアに胸元を掴まれてのけ反りながら言った。
「スニフ! 見たのか!?」
「エドワード王子とは思わなかったのですが……。
デュカス王弟を部屋までお送りした時に、部屋に女性がふたりいらっしゃいました。
たぶん金髪でその上から黒いヴェールを被った美しい女性と……、侍女のような感じの女性と。
侍女は茶色の髪でした」
私は思わず声を上げた。
「それじゃない!
女装して、王子だとわからないように出て行った!」
戦国時代みたいだな。
「女装……?
女装って?
確かに、敵の目を欺くために王子が女装して敵陣を突破とかいう話はあるけども……。
エドワードが!?」
エレノアが混乱している。
確かに重度の引きこもりで、部屋を出るなんてありえないと思っていたのに、それが女装して出て行ったとか、想像できないというか、想定の上を、かなりぶっ飛んでいる。
「いや、あれだけきれいな方なら、女装似合いそう。
スニフも普通に女性だと、令嬢だと思っちゃったんでしょ?」
「はあ……」
エレノアが首を振る。
「でも!!
なんで神殿に!?
しかも、デュカス王弟のところになんて!?」
エリオットがはっとする。
「だから、デュカス王弟は急にスミレの墓に!?」
確かにエドワード王子が女装して、髪を黒いヴェールで隠したら、スミレコによく似た女性になれるのではないか。
エドワード王子は何をしようとしているの?
「デュカス王弟を、スミレコのふりをして動かしている?」
エドガーが呟いて……。
えー、まさか。
デュカス王弟に何をさせようとしているの!?
夜会……、王も王妃もこの国の貴族も、他国の王族や使節も招待されている……。
そこへ、デュカス王弟とエドワード王子が何を……。
「夜会で、何をする気?」
私の呟きにエレノアが信じられないという表情を向けてきた。
読んで下さり、ありがとうございます。




