107 狂っている(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「王が乱れる?」
ライカンが呻く。
ライカンにとってみれば、ディウス王、デュカス王弟、二人がスミレコを苦しめて死に追いやったも同然だから。
ふたりともスミレコのことを愛していたのかもしれないけれど……。スミレコは二人の間で心を身体を壊して亡くなった。殺されたも同然だろう。
もし、双子とどこかで生活できていたら。
側室としてでもいい、王城で双子と一緒に生活できていたら。
エドガーもエドワードも苦しまなくて……、いや、エドガーはそこまで苦しんでいないか?
苦しんだのはスミレコとエドワード……。
エドガーは彼らを押さえ付ける手を幸運にもすり抜けて……、幸せになっていると言える!?
「王も王弟も自業自得だ。
エレノアはエドワード王子も開放したいんだろう」
私は呟いた。
あの時、エドワード王子にうれしそうに夜会に出るように言ってから、しまった、やり過ぎたとエドワード王子に不快な思いをさせてしまったと身を縮めたエレノアの姿が脳裏に浮かんだ。
「エレノアは……、姉はいい人過ぎる。
私のことまで気に掛けてさ。
うざったいくらいやさしくて、しっかり者だ。
私やエランはそんなエレノアに言い返したり、なんというか対等に姉弟として付き合うことができた。
エドワードはどうだろう?」
エリオットの言葉に私はまたぞわぞわした。
イサクがエレノアを見ている時のエドワード王子の表情。
エドワード王子が夜会への出席を拒否したので、エレノアは悪いことをしたと切り替えて、彼が関わらない方法を私達と考え出した。
それを黙って見ていたエドワード王子……。
エドワード王子が『もうひとりの私』とエドガーに向けた思いのこもった瞳。
何かいろいろなことが引っかかりながら、馬車は神殿に到着した。
神官達が出迎えてくれる。
シアは魔法使いを装い、フードを被っている。
エリオット王子の話から神官が時々息抜きに『エスタ』に来ていたことが推察できたからね。
エリオット王子の案内で神殿の中を見て回る。
ライカンのこと見かけてはっとした表情をした同じくらいの年齢の騎士もいたけれど、何も言わずという感じだった。
一通り回ってから、私は言った。
「スミレ様のお墓をお参りしたいのですが」
エリオット王子がお付きの神官と従者にちらっと目配せして歩き出した。
神官はその場に残って礼をして見送っている。
ノルテス達も『エドガーの生みの母親のお墓』と聞いて一緒に来てくれた。
少し古い感じの建物の方に行き、その裏庭のような所に墓所があった。
「神殿で亡くなった転移者の墓だ」
エリオット王子の言葉に私は足が震えそうになり力を入れた。
小さな名を刻んだだけの墓がたくさん並んでいる。ばっと見た感じ30はあるだろう。
古い物から新しいスミレコのものまで……。(スミレと彫られてた)
やっぱり、帰った人はいないのかもしれない。
いや、帰ったら、ここにお墓がないわけで、わからないか!
転移者は何のためにこの世界に転移してくるのか!?
本当にそれが一番の謎な気がする。
魔法が全て使えること、結婚式の奇跡のことを思うと、何か大きな力が私をここに連れて来て、何かをさせようと見守っているということなんだろうけど。それを言うならスミレコだって同じだったはずだ。ひどい男に囚われて、魔法の力を伸ばすこともできず、逃げ出す力もなく、この世界で非業の死を遂げた転移者もいただろう……。
私は収納からたくさんの花を取り出した。
少し多めには持ってきたけど、こんなにお墓があるとは想定外!!
ライカンも持って来てくれてたので、ライカンのをスミレコの墓に供えてもらって、私の花は全部の墓に一本ずつお供えした。
みんなで祈り……。
その時、後ろから足音がして、エリオット王子が「デュカス王弟……」と呟いたのが聞こえて、思いっきり振り向いた。
王に似ている男性がいて、さらに髪が黒いから、エドガーにも似ていて。
私は驚いて隣にいたエドガーの服を右手でぎゅっと握りしめた。
「スミレ……?」
その男性は手に持っていた花を落とし、私を見つめて一歩前に身を乗り出した。
「スミレ……、生きていたんだな……」
私は自分がスミレコと間違われていることに気が付いたけど、そんなのありえないし。
エドガーに擦り寄ると後ろに隠れようとした。
ライカンが私とエドガーの前に出る。
「お久しぶりです。デュカス様」
デュカス王弟は私からライカンに視線を移し「ライカン? 護衛騎士の?」と呟いた。
「はい、元神殿護衛騎士のライカンです。
今はマイルズ共和国の魔法塔の護衛騎士です。
転移者のミコト様をお守りしています」
「ミコト?」
「はい、スミレ……様はもうお亡くなりに。
今度こそ、私は転移者を守りたい。
ミコトは私にとっても妻にとっても大切な少女です」
少女?
私、人妻なんですけど!?
「妻?
妻を娶ったのか!?
スミレを忘れて……、薄情な……。
兄もライカンも、もうスミレのことは忘れて……、なんて薄情な……。
私は、いまだにスミレだけを愛しているよ……」
デュカス様は悲しんだか楽しいんだかなんだかよくわからない表情で笑った。
口角が上がったから笑ったように見えたけど、笑ったんじゃないかも!?
「そうか……、新しい転移者か……。
神殿に……。
ならば……、私の心を癒してくれ……。
肌を触れ合わせ……、私のために泣け!」
触れられていないのに私の頭の中に恐れた表情を浮かべて泣いている女性の顔……、身体を押さえつけられているようにイヤイヤしている。
知っている……スミレコだ!
表情だけで痛さと苦しさと悲しさが私の心に満ちた。
顔も身体も強張る。
スミレコの感情!?
これはデュカス王弟の記憶!?
クラークが「聖魔法か!?」と叫んで結界を張ってくれた。
遮断されるように頭のイメージは消えた。魔法だったのか……。何だろう、聖魔法の意識に働きかけるような作用だ。デュカス王弟のスミレコに対する……。
エドガーも顔色が悪い。
エドガーも感じたのだろうか。
あの、スミレコの泣き叫んで許しを請うている、身体の痛みと悲しさを……。
エリオット王子が「スニフ! 叔父上を部屋に!」と叫んで、エリオット王子の従者と神官達三人ほどがデュカス王弟を連れて神殿の方へ戻って行く。
「大丈夫!?」
シアが私とエドガーを心配してくれる。
「ああ、大丈夫だ」
エドガーが絞り出すように言い、私の背中をやさしく撫でてくれた。
「大丈夫。あんな目には合わせない」
「うん」
私はエドガーに抱きついた。
エリオットは私達を怪訝そうに見てから「いや、なんで急に墓参りなんてしようとしたんだ?」と遠ざかる一団を見やった。
「スミレコへの愛が変質している。
狂っている。
彼女の愛を得たいがために、彼女を苦しめて……。
自分がこれほど愛して苦しんでいるのだから、それよりも苦しめと……。
スミレコが死んでもなお、忘れられない。
彼女が、自分の名を呼んで許しを請う姿が彼にとって悦びだったんだな…」
エドガーが私を抱きしめながら言った。
「うん、スミレコの痛みと苦しみと悲しみが……」
私はそれだけ言って、エドガーの胸に顔を埋めた。
そうしていないと、エドガーのことを感じていないと『助けて』と叫んでしまいそうだったから。
「ここで失礼させてもらおう」
クラークの声が聞こえた。
ライカンが私を抱っこしようとしてくれたみたいだけど、私もエドガーもひしって抱き合ってて、諦めたみたい。
ごめんなさい。
ふたりでお互いの温もりと肉体を感じながらゆっくりと歩いた。
スミレコにとって、本当に愛していた人は誰だったのだろう……。
読んで下さり、ありがとうございます。




