100 御使い様(ミレニア視点)
どうぞよろしくお願いします。
祝100話ですね。ちょっと長めになっちゃいました、
シドがかっこいい話です!
「ミレニアちゃん!
今日はここまで終わったらおしまいでいいよ!」
マリアさんが声を掛けてくれた。
「はい!
では、そこまで!」
うん、2段分の在庫調べて補充すればおしまい。
最近、このティヤの粉、よく売れるのよねー。
なんか、外国でこの粉で薄焼きパンを作って、いろいろ包んで食べるのが流行ってるとか。
甘いのもしょっぱいのもいけるらしい。
在庫を数え、メモし、補充っと。
これでおしまい!
店番のホルヘくんに挨拶して、店の裏に回り、マリアさんにメモの数を伝える。
「あー、ありがとう!
ティヤ、やっぱり最近人気ね!?」
「はい……、確か先月は6袋出たけど、今月はもう12袋出てますもんね!」
「今度、私達も作ってみようか! ティヤ料理!」
「わあ、楽しそう! ぜひ!」
マリアさんが笑って、テーブルの上の包みをこちらに押した。
「残り物だけど、良かったら」
「ありがとうございます!」
受け取ったら、感触が芋みたいだな。
覗くとやっぱり芋で。
「お父さん、どう?
何かあったら……」
マリアさんが言いかけて、困ったように口を噤んだ。
うん、わかってる。心配してくれていること、気に掛けてくれていること。
でも、そこまで踏み込んではこれないのも。
もし、踏み込んでこれるようなら、ユミエラ姉さんの時に、何かしら……。
「はい、ありがとうございます」
私は何だか苦しくなって、アハハと笑いながらお礼を言った。
家に帰ると、父さんがいた。
「なんだ!? 給金か!?」
抱えていた荷物を取り上げられる。
「何だ、芋か!」
「父さん、給金は週末だから! 明日だよ!」
「そうか……、明日」
父さんが私の足から下までをじとっと見た。
怖い。
とりあえず、明日の給金を受け取るまでは大丈夫だと思うけれど……。
週払いなんだよね。マリアさんの所の給金。
前は月払いだったのだけれど、父さんがなんだかねじ込んで……、週払いになった。
問屋の仕事はほぼ休業状態。
在庫を時々安く売って凌いでるらしい。
兄さんから時々手紙が来ているけども、私は見せてもらえない。
兄さんと連絡を取りたくても、私には切手代すらないから……。
父さんが芋を乱暴にテーブルの上に投げ出すように置いた。
私は芋を洗い、拾ってきた焚き木を使い竈で茹でて……。
焚き木も少なくなってきた。
また拾いに行かなきゃ。
本当は薪を使うように通達が出ているんだけど、買えないからしょうがない。
他に何かあるかな?
食料品の保管箱を除くと、前にもらった瓶詰の魚があった。
これでいいか。
芋だけじゃ寂しいもん。食べちゃお。
開けて、皿に盛りつけて、裏庭へ出ると薬味になる草を摘んできて、刻んで魚の煮つけみたいなの上に散らした。
「ごはんできたよ!」
父さんに声を掛けて、茹でた芋の皮をむいて、塩を振ってかぶりつく。
おいしい!
父さんが来て、前に座り、食べ始める。
「ミレニア……、明日、給金を受け取って……、次の日は休みだよな」
「うん、休みの日に枝拾いに行くよ。
父さんは?」
「うん?
まあ、仕事だな。
でも、ミレニアの休みは……、一緒に出掛けよう」
私は止まってしまい、一瞬、間があった。
「なんだ?」
「いえ、父さんが休みなら、食事、何にしようかなって」
父さんが席を立つ。
「ごちそーさん」
そして、自分の部屋に入り、寝てしまったようだ。
私は残った芋と魚を食べ終え、皿を片付ける。
もう暗くなる。
あ、洗濯物!
慌てて裏庭に出て、洗濯物を取り込んだ。
ふと、涙が滲んだ。
姉さん……、ユミエラ姉さん……。
姉さんも今の私と同じ……、いえ、姉さんは兄さんと私と二人の弟と妹の面倒をさらに見ていたんだもの。
食べ物も用意して……。それがどんなに大変だったか、今、わかる。
そして、姉さんは父さんに連れて行かれ、戻ってこなかった。
『今日からお前がユミエラの代わりにマリアんとこで働け!』なんて言われて、茫然としたことを思い出した。
その前に兄さんが父さんに殴られて家を出て行ったし……。
今ならわかる。姉さんは父さんに売られた。
そして、父さんはその金で商売を広げようとして失敗した。
姉さんがいなくなった時と同じだ。
いざとなれば、私を売るのだろう。
いい値段がつくのを見計らっている感じが父さんからするから。
だから、私は大きくなりたくなかった。
でも、食べないってわけにもいかず。死んじゃうからね。
14歳になって、最近『姉さんによく似てきたね』なんてマリアさんに言われるたびにドキッとする。
うれしい気持ちと怖い気持ち。
兄さんみたいに家を飛び出て、仕事さえできれば……。
私を助けるために売られた姉さんには悪いけれど……、そんなことも考えてしまう。
洗濯物を手にとぼとぼ家に入ろうとした時、ホルヘくんが「ミレニア!」って小さい声で呼んでいるのに気づいた。
「なに?」
「マリアさんが呼んでる」
何か仕事で間違いがあったかな!?
「これ家に置いたら行きます!」って言って、家に戻って、簡単に畳んでテーブルの上に並べてから、仕事の時のカバンをひっつかんで、それから、暗くなって寒くなるかもと思って上着もつかむと、そっと家を出た。
食料品店に到着すると、マリアさんが奥へと手招きする。
「ごめんなさい、何か間違ってましたか!?」
最初から謝ってしまった。
でも、奥の部屋には男の人がいて。
「この子です。ミレニア。
ユミエラはこの子の姉ですわ」
その男の人は……、かっこいい。
騎士ではない、でも貴族の家に仕えているような役人のようなちゃんとした服を着ていた。
その男の人は私を見て頷いた。
「姉に似ているな。
ミレニア、俺は君の姉さんのユミエラに頼まれて様子を見に来た。
王家の護衛官をしているシドという。
聞き込みをしようと酒場に入ったら、ギュスター本人が酒場で話しているのを聞いて。
もうすぐ大金が手に入る、今まで育てたとかなんとか……。
これは、君を間もなく売るつもりだと判断した。
違うか?」
「……たぶん、そうだと思います。
明日、給金を受け取って、次の日は休みで、父さんも一緒にって……」
「明後日か……。
お前……、ちゃんと食べてるのか?」
シドさんが私をしげしげと見つめてくる。
恥ずかしかったけど、正直に答えた。
「ちゃんとは食べてないです。
でも、お腹が空いて食べる物があれば……食べます。
食べないで身体が成長しなければ売られないかと思うこともあったけど、空腹には勝てず……」
「……ミレニアちゃん、そんなに辛い思いを!」
マリアさんが呟いた。
私はマリアさんを見た。
「マリアさんが気に掛けてくれて、うれしかったの。
でも、本当に助けてとは言えなかった。
私も、よくわからなかったとはいえ、姉さんを、売られた姉さんを助けられなかったもの……」
「助けて欲しいのか?」
シドさんが言った。
その声にやさしさがあった。
私は頷いた。姉さんを知っている人、だもの。
姉さんに会いたい。
「姉さんに会いたい。
助けて欲しい。
兄さんにも手紙を書きたい。
切手代が欲しい……」
そう言ったら、もうダメだった。熱い涙が次から次に湧き出てきて、私はすぐに下を向いた。
「では、行こう」
シドさんが立ち上がった。
「家に取りに戻る物はないか?」
私は首を振った。
もう家に戻りたくない。
大切なものは父さんに取られないように全部このカバンに入れてある。
マリアさんが慌てて今日までの給金を渡してくれた。
これで切手が買える!
私はしっかりお礼を言って、カバンにしまう。
「ホルヘくんには口止めを。
そして、そうだな……。ミレニアは男と駆け落ちでもしたと」
シドさんは面白そうに笑って言うと、上着を着た私を馬に乗せてくれて、自分もひらりと乗った。
「マリアさん、ありがとう!」
「ユミエラによろしくね!
幸せになるんだよ!」
「はい!!」
本当に駆け落ちするみたい、
馬はどんどん走って、王都の中心の王城の辺りまで……。
そして、あの大きな集合住宅ってとこに到着した。
私は馬から降りて、シドさんに手を引かれて、その一軒に入り、階段を上がって……。
シドさんがそのドアを叩いた。
やさしそうなおばさんがドアを開けて驚いている。
「王城の使いの!?
えっと、シドさんでしたね」
「すまん、急に。イサクは?」
「まだ王城です」
「少女をひとり預かってくれないか?
イサクの友人の妹で、このままだと家族に売られそうで保護した」
おばさんは「まあ!」と目を見開いて、私を慌てて迎え入れてくれた。
「頼めるか?
ミレニアという。
明日、また連絡する。
家族が、クズな父親が王都の外れにいるから、しばらく出ないように気をつけろ」
「はい、わかりました。お預かりします」
「ライザなら、安心だ」
シドさんはそう笑ってから私の頭を撫でて「いい子にしてろよ」と言って出て行った。
おばさんはライザさんというそうだ。
「シドさんって何者なんですか?」
私の質問にライザさんは笑った。
「んー、使いの人、かな?」
使いの人……。神様のお使いかしら?
そういう人は『御使い様』って呼ばれるのよね。
読んで下さり、ありがとうございます。




