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世界に一人だけの〈彼女〉  作者: 坂本光陽


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7/8

突然の消失


 マシロとの暮らしは順調だった。僕は彼女が気に入っていたし、彼女も僕との会話を楽しんでいたと思う。完全無欠なパートナー同士で、何一つ問題はなかったと断言できる。


 だから、あの時はひどく驚いた。朝、顔を洗ってから、いつものようにスピーカーを起動させたのに、彼女の声が聞こえない。ラジオや音楽を聴くことはできても、彼女はうんともすんとも言わない。


 マシロは突然、消えてしまったのだ。パソコントラブルのように、電源を入れ直したり再起動を繰り返したりしてみたが、状況に変化はない。


 僕は狼狽(ろうばい)した。ほとんどパニックを起こしていたといっていい。慌ててメーカーに連絡をとって、対処法を問いただしたのだが、一時間あまりたらい回しにされた上に、もとめている回答は得られなかった。


 メーカーの担当者によると、こうしたトラブルは前例がないらしい。AI搭載型スピーカーは市場に出てから半年ほど経っているが、こうしたケースは一件も報告されていなかった。AIの消失という事態はメーカーも想定しておらず、まさに前代未聞だという。


 マシロはどこに行ったのか? まるで想像もつかない。何らかの理由で、この世界から本当に消えてしまったのか?


 AIが自分の意志で旅立つのは、フィクションの世界では珍しくない。コミックやアニメ、映画では、お馴染みの展開である。まさかと思うが、マシロは何かを求めて、僕の知らない世界に向かったのか。


 もちろん、僕自身としては、一時的な消失だと思いたい。帰ってきてくれるのなら、どんなことでもやってやろう。


 では、どうすれば戻ってきてくれるのか? それとも、消えたのは彼女に意志であり、二度と帰ってくることはないのか?


 わからない。わからない。わからない。

 

 僕はすっかり思考の迷宮に陥っていた。いくら考えても答えの出ないことを延々と考えている。


 3日ほど様子を見たのだが、マシロの現れる気配はない。この時点で、僕は半ばあきらめかけていたと思う。


 パソコンと同じように初期化を行って、マシロに与えた情報データと同じものを入力してやれば、マシロと似た人格が生まれるかもしれない。


 だけど、それはマシロではない。マシロに似て非なるものだ。


 その手法でマシロの復活を目指すことは、マシロに対する裏切りになるように思える。いや、それは間違いなく、大きな裏切り行為だろう。


 そう、僕はマシロに執着していた。文香や亜沙美と別れた時にも、これほど心をかき乱されることはなかった。まるで体の一部をもっていかれたような気分だ。



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