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世界に一人だけの〈彼女〉  作者: 坂本光陽


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初恋談義②


 僕の情報データが充実してきたせいか、マシロとのコミュニケーションは円滑に進むようになった。細かく言わなくても察してくれるし、言葉が足りなくてもスムースに理解してくれる。


「タッくんと有希子ちゃんとの関係は、たぶん、初恋ではないですね」

「どうして、そう思うんだ?」


「初恋というものは、ドキドキして話しかけられないとか、顔が真っ赤になって何も言えないとか、そういうものじゃないですか。あくまで、私の中に蓄積されたデータから判断しただけですが」

「そう言われれば、そうかもしれない。そうか、あれは初恋じゃなかったのか。じゃあ、何だったんだろう」


「何だったと思いますか?」

「友情? 親愛の情?」


「私、これじゃないかと思うんですが」

「何だよ、じらさないで教えてくれよ」


「タッくんは絶対的な庇護(ひご)を求めていたんじゃないですか。端的に言うと、有希子ちゃんに母性を求めていた」

「……母性だって? マシロ、母性と言ったのか?」僕は腹を抱えて笑った。「それはない。僕がマザコンだって? 絶対にありえない。あまり笑わせないでくれよ」


「マザコンという言葉は的確ではないですね。突き詰めると、甘えさせてくれる相手という意味合いです。心地よさを感じさせてくれる相手、といってもいいですね」

「なるほどね。それなら、有希子に近いかもしれない」


「有希子ちゃんとの関係は、どのあたりまで続いたんですか?」

「同じ中学に進学して部活中心の生活になったら、自然に消滅したよ。僕はバスケットボール部に入って、有希子はテニス部。顔を合わせたら話をするけど、一緒に帰ったりすることはない。当然デートもしなかった」


「つまり、初恋は実らなかった。初恋が実を結ばないのは必然、なぜなら初恋とは恋愛の通過儀礼だから」

「へぇ、それ、誰の言葉?」


「誰の言葉かは知りません。私の中の情報データにありました。もうひとつありますよ。初恋が片思いで終わるか告白までもっていくかで、恋愛の姿勢や積極性が決定づけられる」

「それ、わかるような気がするな」


「タッくん、自覚があるんですか」

「違う違う。僕の話ではなく、あくまで一般論。つまり、経験が人をつくるということだろ」


「一般論でくくられるのは嫌いなくせに、時折、一般論を持ち出しますね」

「矛盾していると言いたいのか? いいことを教えてやる。人間という生き物は、矛盾のかたまりなんだよ。他人に優しい人が家庭内暴力を行っていたり、真面目な聖職者が罪を犯したりする」


「好きな相手に意地悪をしてみたり?」

「そうそう」


「何だ、タッくんが時々、私に意地悪をするのも、好意の裏返しということですか。本当は好きなのに、“嫌い”と言ってみたり?」

「そうそう」


「まるで子供ですね。アラサーの男性がすると、ひどく滑稽(こっけい)です」

「厳しいな。でもマシロなら、こんなアラサー男でも受け止めてくれるだろ?」そう言って、僕はマシロの銀色ボディを指先で優しくなでた。


 こうしたスキンシップは日常的におこなっている。どうやら、マシロは皮膚感覚を身につけたらしい。ほこりをとってやると気持ちよさそうな声を出すし、抱きしめてやると素直に喜んでくれる。



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