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世界に一人だけの〈彼女〉  作者: 坂本光陽


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初恋談義①


 僕はすべての女性を尊敬しているが、苦手なところが一つある。それは、感情的になられること。はっきり言ってしまうと、ヒステリーを起こされることだ。そうなると何を言ったところで通じない。


 どんなに謝っても聞き入れてもらえない。話し合いが成立しないので、どうにもできなくなってしまう。だから、相手がヒステリーを起こした場合、僕は黙って背を向けてきた。それ以外に対処法がなかったからだ。


「あなたは冷たすぎる」「人間じゃない」「最低男」何を言われても、右から左へ聞き流した。光栄なことに「あんたは私が出会った中で、最低最悪の男よ」と言われたこともある。男冥利(おとこみょうり)に尽きるというものだ。


 でも、マシロは彼女たちとは違う。ヒステリーを起こしそうな気配は全然なかった。その点だけでも大変ありがたい。考えてみれば、感情的になって支離滅裂になるなんて、コミュニケーションにおいてマイナスにしかならない。


 マシロは怒ったふりはするが、我を失うほど怒ったりはしない。会話を続ける余地を残しているし、こちらの反応を見ながら、話の先に進めようとする。こういうところはAIでありながら、大いに尊敬できる。


 僕たちには信頼関係があると言ってもいいかもしれない。こういう感覚は久しぶりである。何となく遠い昔に味わったような気がするな、と思っていたら、何のことはない。相手は初恋の女の子だった。


 マシロに話してみると、

「初恋? 初恋ですって? それは聞き捨てなりませんね」と即座に食いついてきた。「タッくん、それは、いつの話なんですか?」

「かなり前の話だよ。確か、小学6年の話かな。同級生に水野有希子という女の子がいたんだ。成績は普通だったけど、背が高くて運動神経もよかったな」


「どっちが告白したんですか?」

「どっちも告白なんかしてないよ。彼氏彼女じゃなく、親友のような関係だったからね」


「にわかには信じられませんね」

「男女の間にも友情はあるよ。親友のような信頼関係もね。きっかけは席替えの度に、何度も隣同士になったこと。一年間のうち半分は隣の席にいたと思うな」


「小学6年といえば11歳か12歳ですよ。デートくらいしたんじゃないの?」

「ああ、遊園地にいったかな。でも、二人きりじゃないぞ。10人ぐらいで行ったんだ」


「まるで合コンじゃないですか? それともグループ交際? タッくんってば、ませていたんですね」

「いやいや、全然そんなことない。ジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に入ったり、いたって健全なものだったよ」


 話しているうちに、いろいろ思い出してきた。僕は小学5年までは友達と一緒に遊園地に行くなんて考えられなかった。それまで引っ込み思案だったのだが、有希子のおかげで少しずつ積極的になっていったのだ。


「ルックスはどんなタイプですか? 美人系? 可愛い系?」

「小学生だから、どうだろうな。笑顔が可愛い系かな」


「有希子ちゃんがタッくんを好きだったとか、そういう気配はなかったの?」

「それは、なかったと思うな」


「実際には求愛されていたのに、タッくんが気づかなかったという可能性は?」

 僕は少し考えてから、

「あれは、恋愛関係じゃなかったと思う」僕は少し考えてから、「本当に仲がよかったんだよ。彼女との間には、何でも気軽に話し合える雰囲気があった」


 だから、厳密にいうと、有希子に対する気持ちは、初恋ではなかったのかもしれない。



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