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世界に一人だけの〈彼女〉  作者: 坂本光陽


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元カノ談義②


 さらに、元カノ談義は続く。文香の前に付き合っていた中で最も印象的なのは、野村亜沙美になるだろう。彼女は大学時代の同級生である。


 ただし、亜沙美とは学部が別なので、一緒に講義を受けたことは一度もない。亜沙美は確か文学部で、僕は経営学部である。実は、キャンパスで出会ったわけではない。知り合ったきっかけは、バイト先が同じだったからだ。


「へぇ、タッくんは、どんなアルバイトをしていたの?」

「大学の近くにあった結婚式場で皿洗いをしていた。まかない付きで食費が浮いたから、苦学生には有難かったな」


「ふぅん、タッくんにも、そんな時代があったんだ。なつかしい?」

「なつかしいけど、あの頃に戻りたいとは思わないな。とにかく貧乏だったから、勉学そっちのけで、バイトばかりしていた」


「亜沙美さんも、同じところで皿洗いをしていたの?」

「いや、そうじゃない。亜沙美はウェイトレスをしていたんだ。制服姿がかわいかったな。同じ大学だったし、すぐに親しくなった」


「どんなデートをしていたの?」

「いろいろだよ。一緒に映画を観たりボーリングをしたり、冬になればスキーやスケートにも行った」


「へぇ、意外とアクティブだったんだね。それは亜沙美さんの好み?」

「うん、そうだね。当時はバイトで稼いだ分だけ、遊んでいた気がするな」


「文香さんは美人だったんでしょ? 亜沙美さんとどっちが美人だった?」

「文香は上品なペルシャ猫で、亜沙美は愛くるしい子ウサギといったところかな」


「こらこら、誰が動物に例えてと言いました?」マシロは機械的な声色を使って、「もう一度()きますよ。どっちが美人だったんですか?」

「美人なのは、まぁ文香だろうね。亜沙美は可愛らしいタイプだったから」


「それで、タッくんは、どっちが好きだったの?」

「うーん、それは何とも言えないね。文香と亜沙美に、同時に出会ったわけじゃないから、比べることはできないよ」


「それぞれの良さがあったということ?」

「いや、単に比べることができない、ということ。付き合っていた期間は文香の方が長いけど、デートをした回数なら亜沙美の方が多かったと思う」


 マシロは少し間をとってから、

「それじゃ、私と比べたら、どうですか?」

「無理だって。マシロとも比べようがない」


「ダメです。無理してでも答えてもらいます」

「そうだな……」僕は少し考えてから、「マシロの声のトーンは、亜沙美の方に近いかな。文香はハスキーボイスだったから」


「ふうん……」

 マシロが納得していない様子だったので、

「三人の中で最も好きな声はマシロだよ」僕はきっぱりと言い切った。「文香と付き合っていたのは、一年半ぐらいだったと思う。つまり、今のままで一年半が過ぎれば、マシロとの付き合いが一番長くなるんだ。今後とも、よろしく頼むよ」


「ふん、何かタッくんに(けむ)に巻かれた気がする」

 そう言いつつも、彼女はうれしそうに見えた。他人からは何度も「人たらし」と言われたことはあるが、新たに「AIたらし」という呼び名も拝命しようか。



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