侍女の独り言は今日も騒がしい
あの日から、ロゼリア様は少し変わられた。
私が知っているロゼリア様は、公爵家の令嬢として常に気を張っていた。
王太子殿下の婚約者として完璧であろうと、勉学、社交、立ち振る舞い──
誰が見ても憧れてしまう、凛とした女性だった。
けれど今は、どこか雰囲気が柔らかい。
「──君との婚約を、破棄したい」
なっ、何を言っているんですか、この馬鹿王子は……?
百歩譲って破棄の申し入れは良いとしましょう。
ですが傍らに女性を従え、夜会の最中になどと……!
「彼女と親しくなるうちに、私は真実の愛に気付いてしまったんだ」
なっ、何を言っているんですか、この大馬鹿王子は……!?
婚約者がありながら他の女性と親しくするなど、恥ずかしいと思わないのですか……!?
「承知致しました。 ……婚約破棄をお受けします」
ロゼリア様!?
受けてしまうのですか!?
幼い頃から頼りないキリギルス殿下を支え、勉学にも励んでこられたというのに。
こう言ってはなんですが、ぽっと出の貴族令嬢にロゼリア様が劣るはずなどありえません。
私は侍女として失格なのでしょう。
悔しくて悔しくて堪らない。
そんな感情が、今にも顔に出てしまいそうになる。
ロゼリア様の侍女として、恥ずかしくないよう振る舞いたいのに。
抑えきれない感情を抱えながら視線を向けた先には、いつもと変わらず凛とした女性が立っていた。
あれからというもの──
何もなかったかのように振る舞うロゼリア様に、心を締め付けられてしまう。
「アメリー、これ試食してみて?」
「どうかしら、味が濃すぎる……?」
「アメリー、手伝ってもらえる?」
といったように、料理に勤しむロゼリア様。
……ロゼリア様ってこんなにお料理お好きだったかしら?
婚約破棄を受けて落ち込むどころか、日々楽しそうにしているロゼリア様を見ていると……。
婚約破棄を申し出たのは実はロゼリア様だったのでは?
そしてロゼリア様はキリギルス殿下をお慕いしておらず、政略の重圧から解き放たれてラッキーだったのでは?
という風に見えてきてしまう。
駄目よアメリー、そんな考えはロゼリア様に失礼よ。
──そんな日々も長くは続かなかった
「貴女に婚約を申し込みに来た」
隣国アーシュヴァルツから、ロヴァルド王太子殿下の突然の訪問。
アポなし訪問。
ロゼリア様が婚約破棄され、日を置かずの婚約申込み。
威圧的で高圧的で利己的で傲慢で冷たそうで感じ悪い……!
いくら王太子殿下と言ったって……。
ロゼリア様が幸せになる未来など、キリギルス殿下以上に見えない!
でもこれは一侍女としての我儘。
将来、政略的にでも婚姻を結ばなければならないのなら……。
変な貴族にロゼリア様を娶られるくらいならば……そう思ってしまう自分がいる。
アポなし訪問からの婚約申込みをしてからというもの──
連日のようにエルフォルド家へ通うロヴァルド殿下の姿が。
最初こそ私も警戒していたものの……。
ロヴァルド殿下はロゼリア様に対して、決して無礼な態度を取ることはなかった。
けれど、何をしに来ているのか全く分からなかった。
侍女として同席すらさせて頂けないし。
ロゼリア様のことを知ろうとして通っている……ような気もするけれど、一国の王太子がそこまでする必要などないはず。
もしロゼリア様に不埒な行いをしているなら、即刻旦那様に報告をして……!
そんな日々が流れると、お二人の空気が変わってきたのを感じた。
ロヴァルド殿下に感じていた威圧感も薄れ、ロゼリア様の雰囲気もどこかこう……ぽわぽわとした空気を纏っている。
……これはもしかして?
もしかして、なんでしょうか……!?
ロゼリア様は以前よりも楽しそうにお料理をすることが多くなった。
「……~♪」
ロゼリア様が鼻歌混じりで何かをするなんて、今まで一度もなかったのに。
貴族令嬢らしく凛としていて、でも意外と分かりやすく可愛らしいロゼリア様。
お幸せになれますよう、アメリーは願っておりますね。
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