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第四十三話 きな子、こいつらにみんな話したのか!

『アズキゴンドラ一号』は

なんとか空中でバラバラになることなく

無事その役目を全うした


アズキは、飛び立った草むらへと

ふわりと優しく舞い降りた

強靭な爪がゴンドラの取っ手をそっと放す

アズキもゴンドラが空中で自壊するのを

庇ってくれていたようだった


祥吾は急いでゴンドラの底板や接合部を点検し

とりあえず致命的な崩壊箇所がないことに

ほっと胸を撫で下ろした

そして、ゴンドラを守り抜いてくれた

アズキへの深い労いを込めて

その巨大な羽をぽんぽんと軽く撫でてやった


表面上は頼れる家長として

落ち着いたふりをしている祥吾だったが

その胸の内は、暴風雨が吹き荒れ

今にも精神の堤防が決壊寸前だった


内心では今すぐにでもきな子の元に駆け寄り

身振り手振りを交えて

「先ほどのは違うのだ!」

と強く強く主張したい

だが、すぐ横に微笑んでいる千草の目がある手前

不審な行動を起こせるはずもなかった


「旦那様、屋敷での仕事がありますので

 お先に帰らせていただきますね」

千草はきな子と手を繋ぎ

アズキを伴って屋敷へと歩き出そうとする


千草ときな子が二人きりになる

祥吾は血相を変え

慌てて傍らの神爺を捕まえると

誰にも聞こえないほどの小声で必死に頼み込んだ


「頼む神爺!

 きな子が千草に、余計なことを伝えないように

 見張っていてくれ!」

「ふむ? ……どうしようかのう?」

神爺は、祥吾の足元を見透かしたように

ヒゲを撫でてもったいぶる。


「わかった! わかったから!

 今夜の晩酌に色をつけよう!」

「ほう、色とな?」

「あ、ああ! 西洋の酒を出そう! 葡萄酒だ!」

「なんじゃと!? 西洋の酒がこの屋敷にあるのか!」

「ああ、確か蔵の奥の冷暗所に置いてあるはずだ!」

「ふぉっふぉっふぉ!

 そういうことなれば

 このわしに任せておくがよい!」

神爺は現金極まりない笑い声を上げると

ひらりと跳躍し、きな子の小さな肩へと飛び乗った


「はぁ……」

ようやく心拍数が正常に戻った祥吾は

顔に引きつった笑顔を糊付けし

屋敷へ向かう千草たちを見送った


しかし、それからの日々は

祥吾にとって、張った綱の上を

歩かされているようなものだった


空中捜索の日の夜

きな子が千草と離れたのを見計らって

祥吾は、きな子が感じたことは、間違いであり

自分たちは十分に仲が良いのだと

腕、足、首、胴体を使い、顔の筋肉も限界まで稼働し

おまけに通訳として神爺の力まで借りて必死の弁明を試みた


それを見て、きな子は最初「可哀想なものを見る目」をしていたが

途中からは深く納得したような表情に変わり

最後には、力強くこくりと頷いてみせた


(よし! 伝わったぞ!)

祥吾が安堵と感動に打ち震えた

だが、その直後

きな子は、祥吾を見上げてにっこりと笑うと

自分の小さな胸をどんと叩いてみせたのだ


ゾッ―― 瞬間、祥吾の背筋に

氷の刃を突き立てられたような寒気が走った


案の定、きな子は、完全に見当外れに

理解したようだった

捜索の時に出くわした狂暴な魔物を、祥吾が倒すと

祥吾がこんなすごいことをしたという事を

千草に、大げさな身振りと神爺の通訳を交えて話した

さらには、祥吾と千草の間に割り込んできては

二人の手を無理やり引っ張って

強引に握らせようとする始末


祥吾の精神は連日ガリガリと音を立てて削られていった


精神的にすっかり参ってしまった祥吾は

逃げ込むように厩舎へと足を運び

愛馬・疾風に愚痴をこぼしていた。

「なあ、お前からも説得してくれよ?」

無駄だと分かっていながらも

心の澱を吐き出す祥吾。


ところが、いつもなら

馬鹿にして一鳴きしそうな疾風が、何の反応も返さない

不審に思って見ると

疾風は、ひじょーーーに微妙な、生温かい表情を浮かべていた


「……えっ?」

とてつもなく嫌な予感に見舞われた祥吾は

厩舎の外でまだ小さくなりきらずに

寛いでいたアズキへと視線を向けた


スッ……

アズキは、祥吾と目が合った瞬間

あからさまに視線を逸らした。


さらに心に重い石を乗せられた祥吾は

ふらふらとした足取りで、次々と家畜たちを見た。

草を食む牛のハナ、鶏のタマたち、牛のポチたち。

そのすべてが、祥吾の姿を見た途端に

スススッと目を逸らしたのだ。


(きな子、こいつらにみんな話したな)


目を逸らしながら

どこか笑いをこらえているような家畜たちを見て

祥吾は、さらに精神を削られていくのだった


だが、祥吾は知らない

まだ、その先が待ち構えていることを

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