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第五話 旦那様が一番ですわ うーむ、家畜と比べられても

ようやく朝餉を終えた祥吾は、意を決して立ち上がった。


腰には軍刀。

胸には「どんな死地が待っていようと生き抜いて戻ってくる」

という悲壮なまでの決意。


「千草、私はこれより敷地内の検分に行って参る。

 ……万が一、私が魔物に成り果てて戻ったら、容赦なくこの刀で——」


千草は、片付けの手を止め

「お待ちください。私も一緒に参ります」

「いや、どんな危険があるかもしれない。一人の方が対処しやすい」

「いえ、山羊のハナのお乳を絞ってこなければなりませんの。

 旦那様が一緒であれば心強いですわ」


「そ、そうか、では、いっしょに参るとしよう」

先程の悲壮な覚悟はいずこへ。

すべての意識は、妻を守り抜くというただ一点に集中した


家畜小屋は平穏だった。

七色の卵を産んだ鶏たちも見た目は変わらないまま。

他の家畜たちも同様だった。

ほっと胸をなで下ろす祥吾。


だが、しばらくして妙なことに気がついた。

山羊のハナの搾乳をしている千草のまわりに

他の家畜たちが寄ってくるのだ


そして、千草が家畜たちに呼びかけているのだが

鶏たちに

「あら、タマ、タァマ、タマァ、ちょっと待っていてね」

牛たちに

「まあ、ポチ、ポォチ、ポチィまで、そんなに、ここには入れませんよ」


祥吾は混乱して、千草に声をかけた

「ちょっと待て、鶏にタマ、牛にポチとはどういうことだ?」


「そうでした、ご報告するのを失念しておりました

 実は、以前にですね、鶏さん、牛さんと読んだのですが

 返事をしてくれなくて」


「そ、そうか」


「鶏さんにはタマと、牛さんにはポチと呼んだら

 元気よく返事してくれましたので」


「もういい それでみんなタマとポチなのか」


「いいえ、それぞれタマ、ポチの名を譲りませんでしたので、

 鶏さんは、タマ、タァマ、タマァと呼ぶことにいたしました」


「まさかと、思うが、ポチもおなじか!?」


「その通りでございます。こちらも、3頭おりますので、

 ポチ、ポォチ、ポチィとなっております」

「そうか、実に役に立つ報告だ」


「はい!」


投げやりに言った言葉に、うれしそうに返事され、

ひどく後ろめたさを感じる祥吾だった。


そうしているうちに、最後には厩舎から

祥吾の愛馬の疾風はやてまでもが集まってきた


しかも、愛馬の疾風は、主人に見向きもせず、千草の袖を甘噛みする

搾乳を終えた千草は、疾風の首を撫でながら、ふと遠い目をする。


「……父と、よく山で馬を追いかけましたわ」

「千草……?」

「あっ、いえ。昔のことでございます

 家畜たちの無事も分かりましたし

 もどりましょう」


搾乳した乳を抱えて、そそくさと歩き出す千草

その後を、アヒルの子どもよろしく付いていく家畜たち


祥吾が千草の隣に着こうとすると、ブルルと鼻を鳴らして疾風が邪魔をする。

他の家畜の前に行こうとすると、みんな譲ろうとしない。

結局、祥吾は家畜たちの一番後ろから付いていくはめになった。


「おまえたち、俺は主だぞ!」


憤慨する祥吾を家畜たちは一顧だにしない。


家に帰り着くと、千草は一匹づつ

撫でたり、抱きしめたりしてから


「それでは、おうちにお帰りなさい」


その言葉に素直に従う家畜たち


それを見ながら祥吾は憤懣やるかたない面持ちでつぶやいた


「俺が主なのに……」

「あら、疾風たちも分かっておりますわ」

「だが、あやつらは、俺をないがしろにしたではないか」

「旦那様をないがしろにしたのではありませんわ

 みんな甘えておるのです」

「うん? どういうことだ?」

「地震が起きて、しばらく、旦那様が屋敷で固まっておられた間

 疾風たちも不安だろうと、何度も様子を見に行きましたの」


その言葉で、自分がしでかした醜態が全速前進で押し寄せきた。

膝から崩れ落ちかける祥吾。


それには気付かず、千草は乳を片付けている


「そうか……俺は最後か……」


茫然自失の表情でつぶやく祥吾に、千草は安心させるように言った


「いいえ、旦那様が一番ですわ」


その声に生気を取り戻しかける


「その次が、疾風、それから山羊のハナ、

 それから……鶏のタマたち

 あ、タマたちは三羽おりますけれど、

 これは順列は付けづらいといいますか……」


「……もうよい。もうよいのだ、千草

 俺は……鶏と同率であることで満足することにするから……」


祥吾は力なく首を振り、自分を威嚇した愛馬の疾風が、

厩舎で満足げに「ヒヒーン」といななくのを聞いた。

お読みいただきありがとうございます。

家畜たちにまで序列を追い抜かれた祥吾。

でも千草の「旦那様が一番(お世話の優先順位)」という言葉、祥吾にとっては救いになったのでしょうか、それともトドメになったのでしょうか。

次回は5月9日12時10分投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
読ませていただきました!! 千草さんが天然でかわいすぎて、この夫婦すごく羨ましいって感じました!! 一話一話がさくっと読める構成で、すごく読みやすかったです! 旦那様……がんばれっ!!!!
千草のあとをついていく家畜たちの姿が、想像したら微笑ましくてフフッとなりました。祥吾は心を強く持って……。
Xの企画から来ました! ブックマークと評価させていただきました。 今回めちゃくちゃ好きでした! 最初は「魔物になったら斬ってくれ」という重い雰囲気だったのに、気付いたら家畜たちの人気投票で負けてい…
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