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閑話 きな子の安らげる場所

これは、祥吾がきな子の意識にダイブする前のお話


祥吾は、屋敷内にきな子の姿が見えないことに気づいた

ふと思い立って、アズキと疾風はやてがいる厩舎へと足を向けた


風通しの良い、明るい厩舎

祥吾は、そこに入って思わず足を止めた


干し草の積まれた柔らかな寝床の上で

きな子が疾風の大きな前足に寄りかかり

すやすやと穏やかな寝息を立てていた


その小さな身体を包み込むように

アズキが羽を毛布代わりにそっと掛けている

疾風はきな子を起こさないよう

微動だにせず、ただ優しく「ブルル」と鼻を鳴らしていた


それは、祥吾や千草がいつも見る

どこか緊張を孕んだ顔とは違う

子ども本来の、無防備で純粋な安らぎの表情だった


「……あの子は、ここが一番落ち着くようじゃな」

いつの間にか祥吾の肩に乗っていた神爺が、ぽつりと呟いた

「屋敷よりも?」

「うむ。人というものは、良くも悪くも『言葉』と『裏の感情』が複雑に入り混じっておる

 あの子の心には、どうしてもその雑音が届いてしまうのじゃろう

 それを届かなくするすべを、あの子はまだもっておらぬからの」


神爺は、きな子と動物たちを見つめた。

「だが、こやつらには『建前』も『隠し事』もない

 あるのは『温かい』『眠い』『お前、好きだ』といった

 ただただ純粋で真っ直ぐな感情だけじゃ」


「たぶん、この子は、悪意に塗れた声をたくさん聞かされてきたのじゃろう

 この子にとって、この動物たちの裏表のない心の声は、何よりの揺り籠なんじゃよ」


(人の心を読み取ってしまうが故の、孤独と恐怖か……)


「……ゆっくり寝かせておいてやろう」

祥吾は足音を立てないように背を向け

厩舎を後にした。

陽だまりの中、きな子の安らかな寝顔を

二頭の心優しき獣たちが静かに守り続けていた

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