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LAST EXIT ACADEMIA  作者: きなこもち
第3章 『その先の世界』

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エピローグ 学園都市の外でも、もう始まっている



 海の上は、思っていたより静かだった。


 白い艇が波を切る音と、機関の低い駆動音。

 それだけが、今自分たちがまだ動いていると教えてくれる。


 白峰花音は、しばらく手すりを握ったまま動けなかった。


 指先が冷たい。

 腕はじんじんする。

 足もまだ少し震えている。

 でも、それより何より、頭が追いついていなかった。


 学園都市から出た。


 その事実だけは分かる。

 白い壁の中じゃない。

 管理区でも研究区でもない。

 空はちゃんと広くて、潮の匂いもして、目の前には本物の海がある。


 なのに、助かった、という気持ちだけがきれいには来なかった。


 花音はゆっくりと振り返る。


 遠くなっていくアカデミア。

 海の上に浮いた、白くて整いすぎた街。

 今はそのあちこちで赤い警告灯が点滅し、ところどころから黒い煙が立っている。

 理想都市だったはずの形が、夜の中で少しずつ崩れていた。


 隣で六花が壁に背中を預けて座り込んでいる。

 目は閉じていない。

 でも、今はさすがに少しだけ疲れが見える。


 湊は艇の出入口近くで座ったまま、まだ後ろを見ていた。

 たぶん、最後まであの街から何かが追ってこないかを確認している。


 心晴は携行端末を胸の前で持ったまま、黙って海を見ていた。

 父の声も、研究区の白い廊下も、管理区の中央制御も、まだその中で終わっていない顔だった。


 真琴と奏恵も、さすがに今は何も言わない。

 生きて外へ出た、それだけで使い切ったような沈黙が艇の中に落ちている。


「……ねえ」


 花音が小さく言う。


 誰もすぐには返さない。

 でも、聞いているのは分かる。


「これで、終わりじゃないよね」


 自分で口にしてから、分かっていたことを改めてなぞっただけだと気づく。


 研究区の中で見たもの。

 回収部隊。

 《アーク》。

 管理区の中枢。

 あんなものが学園都市の中だけで完結してるわけがない。


 花音はもう一度、本土の方を見る。


 遠くの海岸線。

 港のコンテナ群。

 街の灯り。


 その一部が、不自然に暗い。

 煙のような影もある。

 そして何より、こういう時間なら見えるはずの交通の流れが、妙に細い。


 静かすぎる。


「外も……」

 花音が言う。

「外も、もう始まってる」


 心晴がゆっくりと顔を上げた。

 湊も後ろから視線を外し、本土の灯りを見る。

 六花は目を細める。

 誰も否定しない。


 怖かった。

 ほんとうは、学園都市だけが壊れたのだと思いたかった。

 あの白い街から出さえすれば、ちゃんとした世界が続いているのだと、少しだけ期待していたかった。


 でも、たぶん違う。


 あの街は終わりじゃなかった。

 最初の箱庭だっただけだ。


 花音は手すりを握り直す。


 それでも、さっきまでとは少しだけ違うことが一つだけあった。

 今、自分の隣には三人がいる。


 湊。

 心晴。

 六花。


 みんなぼろぼろで、全然余裕なんかなくて、でもまだちゃんとここにいる。


 学園都市の中では、それだけで何度も前に進けた。

 なら、外に出ても、たぶんそうなんだと思う。


 怖い。

 終わってない。

 でも、生きている。


 白い艇は暗い海を滑っていく。

 後ろでは学園都市が遠ざかり、前にはまだ壊れかけた世界が広がっていた。


 わたしたちはようやく外へ出たのに、その外側も、もう静かに壊れ始めていた。



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