友の手紙 2
すぐさまアグリアは、タリオンたちを店に呼び集めた。
「うーん。ランソルはなんでまたこんなものをわざわざ送ったんだろうな」
ミリーから預かった例の紙切れを、皆でのぞき込んだ。
「手紙には『次の休暇まで預かっていてくれ。それがあれば、きっとシオンを助けることができるはず』って書いてたわ」
「ってことは、休暇で戻ったらこれをどうにかするつもりだったってことか。うーん……。わかるか? タリオン」
モンバルトがタリオンにたずねた。
紙切れの右上には日付らしき数字が、一番下には署名を書き入れる欄がそこに記名はまだされていない。ということは、この紙を誰かに渡し署名をもらうつもりで書いたものということになる。が、肝心の内容の意味がさっぱりわからない。
「うーん……。この数字の横にあるのは、何かの略称だろうな。とするとこの数字は数か金額か。それとも……」
タリオンがぶつぶつとつぶやきながら首をひねる。
「もしかしたらこれ、例の消えた配給品の売買にまつわる取引書なんじゃないかな。ランソルがまずいものを拾ったって話してたことを考え合わせると、クロイツが相手方に手渡そうとしたを何らかの方法でランソルが偶然手に入れたってことかもな」
「それをクロイツに見つからないように、手紙に同封したってこと?」
アグリアの問いかけに、モンバルトがこくりとうなずいた。
「あぁ。しかもシオンには知らせずにこっそりな。もしシオンに知らせたら、仲間を思う余りまたクロイツに怒鳴り込むのは目に見えている。自分の悪事の証拠まで握られたとなれば、今度こそシオンの身が危ういとでも思ったんだろう」
「だからランソルさんはシオンにも黙って、これを国に戻ったらどこかに訴え出るつもりでミリーさんに……」
けれど皮肉なことに、命を落としたのはシオンではなくランソルだった。
もしやクロイツは、ランソルが証拠品を手に入れたことに気が付いていたのかもしれない。それをシオンにも話したかもしれない。そう考えて、シオンとランソルの命を一時に消そうとあの爆発事故を画策したのかもしれなかった。
重い沈黙が広がった。
「とにかくこれ、もう少し時間をかけて調べてみるよ。当時の記録と照らし合わせれば何かわかるかもしれないからな」
タリオンの申し出に、一同が任せたとばかりにうなずいた。
「にしてもよくミリーを探し当てたね。アグリアちゃん」
フィーのねぎらいの言葉に、アグリアは小さく笑った。
「ふふっ。もうだめかもしれないって思いながら訪ねた最後の一軒で、ようやく会えたんです。でもなんとなくだけど、ランソルさんがそう導いてくれた気がする」
モンバルトの眼差しが、ちらと自分に向いた。
「そうかもな。それに、お前さんでなければミリーも心を開いて話をしてくれなかったかもしれん。お前さんならミリーの心の痛みをきっとわかってくれるって思ってな」
母を亡くした悲しみをうまく吐き出すこともできずずっと心の中に痛みを抱えてきた自分と、愛する人をある日突然奪われ時が止まってしまったミリー。ふたりとも悲しみと真っすぐに向き合うことができないまま、ずっと時を過ごしてきたという意味ではよく似ていた。
「今のお前さんだからきっとミリーも心を開いて、これを託してくれたんだろうさ」
ぽん、と頭の上に置かれたモンバルトの手のぬくもりに、目頭がじわりとにじんだ。
ミリーは過去にきちんと向き合い、幸せな未来へと歩き出そうとしている。母の死をどこかずっと引きずって幸せになることを恐れていた自分も、そろそろ前を向く時かもしれない。素直にすとんとそう思えた。それだけでもミリーに会った甲斐はある。
「こうなったら、なんとしてでもクロイツと全面対決して真実を明らかにしなきゃね! じゃなきゃランソルさんだって安心して眠れないし、シオンだって自責の念を抱えたままだもの。もうこんな悲しいこと、終わりにしなきゃ」
そして新たな気持ちで前を向こう。悲しみを引きずるんじゃなくて、幸せになるために未来へ進んでいかなくては。過去は今と未来を縛るためにあるのではないのだから。
アグリアの言葉に、一同が顔を上げ大きくうなずいた。
「よし! じゃあこれはタリオンに一任するとして、私は例の視察に行ってこようかな。クロイツをおびき出すためにもね」
今のところクロイツは軍部に姿を現してはいない。シオンへの尋問も、部下に任せっきりでいるらしい。
「クロイツはシオンとの対面を恐れているに違いない。それだけクロイツが焦っているってことだ。シオンにとって親友殺しの復讐をされてもおかしくはないからね」
言われてみれば、夜会出会った時も余裕のない様子ではあった。普通、上官ならもっと堂々としていてもいいはずなのに、妙にシオンの様子をうかがっていたし。
「だからわざとクロイツを揺さぶる真似をして、追い込もうと思ってね。そうすれば間違いなくクロイツは、いつまでも軍の建物にシオンを拘束し続けるわけにはいかなくなるだろう」
「でもそんな刺激するようなことをして、かえってシオンの身が危険にさらされたりはしませんか?」
思わずそんな懸念を口にしたアグリアだったのだけれど、フィーは任せてくれとばかりに微笑んだ。
「多少は厳しく当たりはしているだろうけど、命に関わるような真似はしていないはずだよ。死体を運び出すのは案外大変だし、人目にもつきやすい。後始末だって面倒だしね」
なんとも物騒なことを笑顔で言ってのけたフィーに、アグリアは顔を引きつらせた。
「シオンが軍部で拘束されていると私に知られれば、クロイツは事の次第を追及される前にすぐさまシオンを他所に移そうとするだろう。その隙を狙ってシオンを助けだすという手もあるが、もしくはガイクスを引っ張り出すために罠にかけるという手もあるな」
「罠? どうやって?」
モンバルトの言葉に、タリオンが首を傾げた。
「ま、詳しくは追々な。まずはアグリア。その前にお前さんには今すぐシオンの屋敷に行ってもらわんといかんな」
不意にモンバルトがこちらを見たのに気が付き、首を傾げた。
「えっ、なんで?」
「くくっ。それはな、これまでのこと全部をシオンの家族にぶちまけて力を貸してもらうためだ」
「へっ……⁉」
アグリアの口があんぐりと開いた。




