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【改稿版】はじめまして、旦那様。離縁はいつになさいます?   作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
3章

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かつての仲間 2

 

 次に訪ねたのは、ゴーランという立派なあごひげを蓄えた男だった。

 見上げるほどの大きな体からは威圧感が漂うものの、体の割につぶらな目がなんとも優しげだ。


「そういうことなら、もちろん俺も力になるよ。シオンにもランソルにも、俺いつも助けてもらってたからな。俺が知ってることと言ったら……」


 ランソルが亡くなる数日前、ゴーランは何人かの仲間たちと防具の手入れに勤しんでいた。その最中、クロイツが控えているはずのテントの方からシオンとクロイツが激しく言い争うのを聞いた。


「シオンが『これは国への裏切り行為だ!』とか『部下の命と引き換えに得たはした金に、何の意味がある』とかなんとか言ってクロイツの胸倉をつかんでさ、ひどい剣幕だったんだ。あんなおっかない顔をしたシオンを見るのははじめてだったよ」


 だが当のクロイツは証拠もない癖に何をくだらないことを、と一笑に付したのだという。シオンはそれに何も言い返せないまま歯噛みしていた。


「シオンは何かクロイツの悪事を証明するようなものを持っていた、とか言っていなかったか? 何かを見たとか手に入れたとか」


 モンバルトの問いに、ゴーランは首を横に振った。


「さぁな。シオンはそういうの、俺たちには言わなかったよ。多分俺たちまであの男ににらまれたら大変なことになるって、心配してくれてたんじゃないかな。実際あいつににらまれた兵士がわざと危険な任務につかされて死んだ、なんて噂もあったしさ」

「やはりそうか……」


 確かにシオンなら、仲間を守るために皆には黙っていたとも考えられる。でもモンバルトは、シオンは何の証拠も持っていなかったと考えているらしい。


 アグリアも同意見だった。もしも知っていたら、ランソルや仲間のためにきっと時間はかかっても立ち上がったと思うから。けれどそうはしなかったと考えれば、きっとシオンは証拠を手にはしていなかったのだ。

 でもクロイツは、そうは考えていなかった。


 もしかすると当時、クロイツがシオンに決定的な現場か何かを見られたと思い込むような場面があったのかもしれない。けれどシオンはその意味には気づかなかった。


(もしもそれが、横領じゃなく機密情報を流している現場だったとしたら……。きっとクロイツはまずいと焦ったはずだわ。そのせいでもしかしたらシオンとランソルは……)


 アグリアはこくり、と息をのんだ。


「あぁ。でもランソルは何かこそこそやってたみたいだよ」

「何かって⁉」


 何かを思い出したように告げたゴーランの言葉に、アグリアは食いついた。

 ゴーランは自信なさげに答えた。


「いやぁ、よく覚えてないんだけどさ。確かシオンのために俺がなんとかしてやるとか何とか言ってさ」

「シオンのため? 仲間の、じゃなくて?」


 ゴーランがしばし考え込み、こっくりとうなずいた。その記憶は確かであるらしい。


「クロイツのあとをちょこちょこつけたりして、色々調べ回ってたみたいだ。シオンには知られないようにさ。だからシオンは何も知らなかったんじゃねぇかな」


 アグリアはモンバルトと顔を見合わせた。


 それは一体どういうことだろうか。シオンとは別に、ランソルも何か嗅ぎ回っていたのか。そのことでクロイツに目をつけられていたとも考えられる。


(もしかして狙われたのは、シオンだけじゃなかった? ランソルって人もクロイツに消されるような動きをしてたってことかしら……)


 そんなことを考え込んでいると、ゴーランがぽんと何かを思い出したように手を打ち合わせた。


「そうだ! 確か事故の少し前に、ランソルのやつ王都にいる恋人に手紙を出してたよ。いつものように冷やかしたら、なんか妙に顔が険しくてさ。様子が変だったのを覚えてる」

「険しい?」


 何やらランソルは、書き終えた手紙とともに何かを慌てて封筒に入れるところだったらしい。


「……?」


 ゴーランによれば、ランソルの恋人は王都の花屋で働いていたらしい。


「花屋の売り子をしてるって言ってたよ。もっともどこの花屋かは聞いてないけど。かわいそうになぁ……。恋人があんなことになっちまって。本当に戦争なんてろくでもねぇよ……」


 しみじみとそうつぶやいたゴーランの肩は、小さく震えていた。


 その手紙に何か意味があるのかはわからない。けれどもしかしたら、恋人への手紙に何か書いたか同封したかした可能性はゼロじゃない。


 ランソルの恋人についてゴーランが知っていることは、王都の花屋で売り子をしていたということだけ。それ以外は名前も年も、どんな女性なのかも知らなかった。

 知っていたとしても、もうとっくに王都にはいないかもしれない。永遠に帰らない恋人をずっと王都で待っているはずもない。


「俺が知ってるのはそれくらいだ。……役に立てなくてすまん。でも俺も、他の仲間たちに当時のことを聞いてみるよ。それくらいしかランソルとシオンのためにできることはないからな」


 ゴーランの目にも、トーマスと同じく強い意志の力が揺らめいていた。


「ありがとうございます。ゴーランさん」


 これまでのところ、これという収穫はない。もしかしたらランソルが何かを知っていたかもしれない。ただそれだけだ。それだって本人の口から聞くことはできない。ランソルはもう冷たい土の下に眠っているのだから。

 それが残念でならなかった。けれど――。


 アグリアはゴーランと固い握手を交わした。


「私……きっとシオンを助け出して見せます。悲しい過去からも、クロイツからも……!」


 真っすぐに力強くゴーランにうなずいてみせれば、ゴーランのつぶらな目にじわりと涙がにじんだ。


 トーマスやゴーラン、そして自分たち。皆シオンのことをこんなにも思っている。そんな思いに触れたからかもしれない。目には見えない強くあたたかい力に、そっと背中を押されているような気がした。

 

 ゴーランに別れを告げたあと、アグリアはモンバルトに告げた。


「私、ランソルさんの恋人を探してみる。時間がかかるかもしれないし、望み薄かもしれないけど」


 トーマスもモンバルトもランソルにいい仲の恋人がいたことは知っていた。けれどその名前も居場所も知らない。わかっていることといえば、王都にある花屋で売り子をしていたことだけ。


 実のところ王都には、驚くほどに花屋が乱立していた。

 その理由は、王妃様が大の花好きで毎日身の回りを色とりどりの花で埋め尽くしているから。それに倣い貴族の夫人たちも競い合うように花を買い回るおかげで、王都には自然と花屋がたくさんできたらしい。


 ちらと見て回った記憶だけで、大小合わせて十軒以上の花屋があった気がする。それを一軒一軒たずねて回ったところで、ランソルの恋人を見つけるのは至難の業だ。


 何しろランソルが亡くなってから、もう長い年月が過ぎているのだ。とっくに王都を離れているかもしれないし、他の人と幸せになっている可能性だって。けれどランソルが事故で亡くなる直前、恋人に手紙を送っているとすれば何かを書き伝えている可能性はゼロじゃない。ならば探してみる意味はある。


 モンバルトがこくりとうなずいた。


「なら俺は、例の助っ人と会ってくる。そろそろ返事を聞ける頃合いだろうしな」


 第二王子に匹敵する助っ人とは何者なのか、という疑問をまたしてものみ込んだ。

 シオンを一刻も早く救うために、今はわずかな時間も惜しい。そのためには互いにできることを手分けしてするしかない。


 こくりとうなずいて、次の仲間のもとへと歩き出した。


 

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