29 もう一つ、実は薬との相性が最悪です
薬・・・嫌い。
本当に胃を荒らします。
そのまま眠ってしまったけど、その晩は夢見が悪かった。ずっと悪夢を見ていた気がする。ハッとして目が覚めて、カーテンに仕切られた病室のベッドだと認識するまで、しばらくかかった。そして、またうつらうつらして、ハッと目を覚ます。その繰り返しだった。
2月1日の朝。看護師さんが来たことで、やっと私は目を覚ました。睡眠不足からか、頭が重くて起き上がる気力が湧かなかった。朝の体温は微妙な36.8度だった。普段よりは少し熱が高いけど、微熱というほどではないと思う。
夜の内に点滴は終わっていたようで、今は繋がっていなかった。
何もやる気がおきずに寝たまんまでいた。いつもの習慣でテレビをつけてイヤホンを左耳につけた。番組を聴きながら目を瞑って聞き流した。
気がついたら朝食が配られる時間になったようだ。ぜんぜん食欲がわかないけど、食べようと箸を持った。ご飯をひとくち口の中に入れたけど、咀嚼するのに疲れを感じるなんて末期かしら。味の薄い味噌汁をひとくち飲んで箸をおいた。
もう食べる気になれないから片づけようとベッドから降りて立ち上がったら、クラリと体が傾いた。椅子の背もたれに手を置いて体を支える。しゃがみこみたいのを堪えて何とかベッドに座った。
あー、もうー。なんでいうことを利かないかな、この体は。今日もお見舞いに誰かが来るだろうから、普通に見えるようにしたいのに。情けない。
そんなことを思いながら座っていたら看護師さんが来た。ほとんど手つかずの朝食を見て、「もう食べないの」と訊かれたから「食べられない」と返した。看護師さんがトレーを持ったので、自分で片付けると言ったけど、動けないことはバレバレだったようだった。それから、昨日のことがあるからトイレに付き添ってくれたのよ。
病室に戻って本を読む気力もなくて、ベッドに横になっていたら、またうつらうつらと眠りに落ちた。
飯尾先生が来た時には、完全に眠っていた。声を掛けられて目を覚ました。
「池上さん、気分はどうですか」
「う~ん、と、眠いだけです」
「昨夜は眠れなかったのですか?」
「あー、はい。・・・眠りが浅くて何度か目が覚めました」
「えーと、話しをしたいのですが、後の方がいいですか」
「あー、大丈夫です。起きますから待ってください」
私はそう言って、モソモソと起き上がった。看護師さんが上着を渡してくれた。・・・って、のりちゃんじゃん。
「それでは池上さん。家にいる時からご飯を食べられなかったのですよね。どうして話してくれなかったのですか」
飯尾先生の質問に・・・私は無言でいたの。
「池上さん、食べられないことは他に原因があるかもしれないので、胃カメラを飲みましょうか」
「それはヤダ!」
「ヤダではありませんよ。原因がわからなければ処置もできません」
「そうだぞ、池上」
白衣を着た孝一まで会話に入ってきた。・・・あれ、今日はここの当番じゃないはずなのに。
「昨日、池上が倒れたと連絡がきたんだ。池上、お前まだ何か隠しているだろう」
プイッとそっぽを向いた。
「池上が話す気がなければ他にも検査をいれるから」
その言葉に、孝一の方を向いて睨んでやる。
「宇津木の話だと、年明けからあまり食べれなくなったそうだな。あと血栓を溶かす薬が原因だとか言っていたけど本当か」
「珪のバカ。本当に孝一に連絡することないじゃん!」
珪が孝一にチクったと聞いて思わず大きな声をあげた。・・・けど、睡眠不足と(多分)栄養不足でクラリとした。顔を俯けて額に手を当てて呻き声をだした。
「ウ”~」
「池上、大丈夫か」
孝一が声を掛けてきたけど、返事をしたくない。
「池上さん、横になってください」
のりちゃんが私に手を添えて横になるのを手伝ってくれた。
「野村先生、先に点滴をした方がよくないですか」
「その方がいいみたいだな。今朝も食べれていないようだし」
「昼からはおかゆに変更しておきましたから」
孝一と飯尾先生がカルテ?を見ながら話している。点滴を持ってきたのりちゃんがセットしてくれる。それを見ながら孝一がもう一度訊いてきた。
「それで、隠していることはなんだ」
「ハア~」
と、大きく息を吐き出した。
チッ。言いたくないけど、言うしかないか。
「そうだよ。薬のせいで胃が荒れてんの」
ブスッとした声で言ってやった。
「薬?胃薬も処方されていただろう」
ああ、そうだよな。普通はそう思うよな。だがな孝一。私の体質を甘く見るなや!
「池上、口に出しているからな。それ」
寝ているので、孝一と飯尾先生を見上げる形になっている。もう一度息を吐き出してから、言葉を続けた。
「だからさ、私は今の薬とは相性が悪いの。胃薬を飲んでいても胃を荒らすぐらいなの。いつもは漢方薬でどうにかしていたの」
そう言ったら孝一と飯尾先生は顔を見合わせた。
「池上、親父もその話は知らなかったぞ。勘違いじゃないのか」
「勘違いじゃないよ。一応そのことは立証されているから」
ますます意味がわからないという顔をする先生方。
「立証って?」
「他の病院で」
「いつ」
「そうね、20年以上前かしらね」
そう答えたら、孝一の顔色が変わった。
「なんだよそれは。いや、それがわかっていたのなら何故先に言わなかったんだ」
「じゃあ、逆に訊くけど血栓を溶かす薬って、漢方薬に代替えになるようなものってあるの」
私の言葉に二人は黙りこんだのでした。




