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迷宮討伐

 翌朝にはクーラタル迷宮の二十六階層も突破する。

 クーラタル二十七階層の魔物はシザーリザードだった。

 二十六階層のケープカープも含め、ともにハルバーの迷宮で経験済みだから問題ない。


 ケープカープの弱点の火魔法にシザーリザードが耐性を持っていたりするが、クーラタルの迷宮には長時間いるわけではないからいいだろう。

 いずれにしてもハルバーの二十七階層より条件が厳しいということはないし。

 クーラタルの二十七階層は数回戦っただけで、すぐハルバーに移動する。


 クーラタルの二十七階層と同様、ハルバーの二十七階層で多く使うのは雷魔法だ。

 モロクタウルスとケープカープが三匹と二匹くらいの組み合わせなら、サンダーストームが一番効率がいい。

 相手が五匹もいれば、最初の二発で一匹くらいは麻痺する。


 牛人二匹と鯉三匹の団体にサンダーストーム、サンダーストーム、ファイヤーストームの三連打を浴びせると、今回は運良く三匹も麻痺した。

 魔法使いの魔法には火属性を選択している。

 モロクタウルスが火属性に耐性を持っているが、単純に数の多いものから順に倒していくのがいいような気が、経験上している。

 もっと効率のいい作戦があるかもしれないし、麻痺や石化の進み具合によってはパターンを変えることもあるが。


「やった、です」


 残った二匹のうち一匹を続くサンダーストームで麻痺させると、最後の一匹もミリアが石化させた。

 事実上これで戦闘は終了だ。

 麻痺は自然に解除される場合もあるが、今回はとどめを刺すまで一匹も復帰しなかった。


「次もこのまままっすぐですね。数は少ないかもしれませんが」


 ロクサーヌの先導で探索を続ける。

 ロクサーヌには、できれば魔物の数の多いところに案内するように頼んでいた。

 探索が優先なのでそうそう都合よくはいかない。


 次に現れたのはモロクタウルスが二匹だ。

 アクアストーム、サンダーストーム、ウォーターストームの三連打を放つが、今回は一匹も麻痺しない。

 これなんだよな。

 魔物の数が少ないとなんか厄介な気がする。


 実際には、数が少ない方が難易度が上ということはない。

 効率の問題だ。

 労力というかコストパフォーマンスというか得られるリターンとのつりあいが、魔物の数の多い方がいい。

 多くの魔物が動かなくなれば気分もいいし。


 極端なことをいえば、五匹相手に最初の三連打で三匹が麻痺するなら、最初から二匹を相手にして三連打で一匹も麻痺しなかった場合とほとんど違いはない。

 麻痺からは復帰することもあるし、魔道士の魔法をアクアストームにした方が早く倒せるし、まったく同じというわけではないが。


「やった、です」


 今回相手にした二匹のうちの一匹はミリアが石化させた。

 残った一匹を麻痺にできればいいが、難しい。

 五匹いる中のどれか一匹なら簡単だが、一匹しかいないとなると大変だ。


「来ます」


 麻痺させられないうちにロクサーヌが警告を発する。

 牛人の足元には別に魔法陣も浮かんでいない。

 モロクタウルスがいきなり突進した。

 体当たりだ。


 これの警告だったのか。

 よく分かるもんだよな。

 ロクサーヌが半歩引いて牛人の突撃をかわす。

 頼もしい。


 体当たりが空振りに終わった間抜けな白黒のブチに、全員の攻撃が集中した。

 俺も槍を突き入れる。


「やった、です」


 またもやミリアの攻撃によって石化したようだ。

 魔物の数が少ないことにもメリットはある。

 五匹が相手だとさすがにミリアが全部石化させることは難しい。

 二、三匹ならミリアが石化させて終わる。


 全部の魔物が石化したら、デュランダルの出番だ。

 セブンスジョブまで拡張して料理人もつけた。

 石化したモロクタウルスをデュランダルで始末する。

 魔物が煙となって消えた。


 お。三角バラだ。

 煙が消えると、最後に片づけたモロクタウルスが三角バラを残した。

 ようやく出たか。

 ここまでモロクタウルスを狩って初めて残った。


「はい、です」


 一匹めのモロクタウルスが残したバラをミリアが持ってくる。


「どうぞ」


 三角バラはベスタが拾った。

 これが三角バラか。

 見た目は通常のバラとほとんど違いがない。

 ただの肉塊だ。


 肉屋がトラブルを避けるために買い取らないというのも分かる気がする。

 俺には鑑定があるから分かるが。

 ただ、ここで三角バラだと言ってしまうと、なんで分かるのかということになる。

 どうすべか。


「ひょっとして、三角バラですか?」


 ちょっとだけ戸惑っていると、セリーが尋ねてきた。

 セリーには三角バラの見分けがつくのだろうか。


「分かるのか?」

「いえ。ええっと。三角バラだとバラの入ったアイテムボックスには入らないはずです」


 なるほど。

 それで見分けるのか。

 アイテムボックスには同じアイテムを複数入れられるが、違うアイテムなら入らない。

 バラと三角バラはあくまで別アイテム扱いなんだろう。


 実際、入れてみると三角バラはバラの入った列には入らなかった。

 まだアイテムの入っていない新しい列になら入る。


「おお。そういうことか」


 しまった。

 最初から三角バラだと言っておけばよかった。

 頭がいいとアピールできたのに。


 いや。頭がいいところをアピールできたのに。

 別に頭がいいと偽装するわけじゃない。

 偽装しなくても頭はいい。

 多分。


 セリーは、俺が戸惑っていたのをアイテムボックスに入らなくてまごついていると見たのだろう。

 セリーの目には、三角バラに気づかないアホな俺と思えたわけだ。

 こころなしか目も若干冷たいような。

 気のせいだと思いたい。


 くっそ。

 悔しい。でも。


 アイテムボックスで分かるなら肉屋でも扱えばいいのに。

 客が全員アイテムボックス持っているわけじゃないから駄目か。

 探索者や冒険者など限定でものを売るわけにもいかないだろう。

 アイテムボックスがあってもすでにバラを持っていないと駄目だし。



 結局、本日の三角バラの収穫は一個だった。

 何回か料理人をつけてモロクタウルスを倒したのだが、あれ以降は一度も出ない。

 三角バラはレア食材の中でもさらに出にくいようだ。

 プレミアム食材といってもいいかもしれない。


 三角バラは翌日の夕食に塩コショウで普通に焼いて食べる。

 カルビのたれの作り方は知らないし、知っていたとしても材料がないだろう。

 塩とコショウを振って焼いただけだが、三角バラは確かに旨かった。

 これがプレミアム食材か。


「こんなに美味しいものをありがとうございます」

「確かに、普通のバラとは比べ物になりませんね」


 ロクサーヌやセリーにも好評だ。


「おいしい、です」

「三角バラだな」

「三角バラ、です」


 階層突破記念の昨夜の尾頭付きと同じくらい気に入ってくれただろうか。

 魚ではないから忘れるだろうが。


「こんな贅沢をさせていただいていいのでしょうか」

「まああまり残らないみたいだから今日だけだしな」


 ベスタにも好評だが、プレミアム食材は本当に残らなかった。

 その後も何日かハルバーの二十七階層で戦ったが、三角バラは一日一個も残らない。

 石化したモロクタウルスをデュランダルで倒すときだけ料理人をつけて、数日に一個というところか。


 料理人を常時つけておけば違うのかもしれないが、それも難しい。

 他にボーナスポイントを振りたいスキルもある。

 仮に常時料理人をつけて一日一個になったとしても、一日一個ではしょうがないだろう。

 今は毎日食べられるとしても。


 違う階層へ行けば食べられなくなってしまう。

 贅沢は敵だ。


「三角バラ、です」


 ミリアが三角バラを拾い上げて持ってきた。

 これでようやく通算三個めだ。

 三角バラは本当に残らない。


「よく三角バラだと分かるな」

「色が違う、です」

「そんなもんか」


 三角バラを受け取ってアイテムボックスに入れる。

 ミリアには、バラと三角バラの違いが分かるらしい。

 俺には全然違いが分からない。

 本当なら、鑑定で区別のつく俺が三角バラを見抜いて違いの分かる男を演出したかったのだが。


 覚えないだろうと思っていたのにミリアは三角バラの名前を覚えてしまったし、しょうがない。

 それだけ三角バラが気に入ったのだろう。

 トロとどっちを食べるか究極の選択を突きつけてやりたい。


「三角バラは本当に残らないと聞いていたので、もっと少ないかと思っていました。これだけ残るのはたいしたものです」


 セリーが白い目を向けてこないだけでよしとしよう。

 そういえば、三角バラが残ったのはすべて料理人をつけてデュランダルで倒したケースだ。

 料理人がないともっと残らないのかもしれない。


「これくらいはご主人様なら当然のことです。さすがご主人様です」


 ロクサーヌの信頼が重い。


「そうなのですか。すごいと思います」


 そしてベスタの信頼は軽い。


「じゃ、じゃあ次行くか」

「えっと。すみません」


 さっさとスルーして探索を続行しようとすると、ロクサーヌが謝ってきた。


「なんだ?」

「魔物が分からなくなりました」

「分からなくなった?」

「はい。位置や数が」


 ロクサーヌも戸惑っている。

 そんなことがあるのだろうか。

 分からないなんて言い出したのは初めてだ。

 何か強大な魔物が登場する前触れとか。


「あ。迷宮が退治されたのかもしれません」


 セリーが教えてくれた。


「退治か。そういえば、迷宮が討伐されるとどうなるのだろう」

「迷宮の最後のボスが倒されると、魔物は新しく湧かなくなります。戦闘中でない魔物もいなくなるようです。迷宮そのものは、魔物がいなくなった状態で何日か残るそうです。その間、迷宮の中に入ることはできず、中から外に出ることだけができます。ダンジョンウォークを使うと、どこに行こうとしても入り口につながってしまうそうです」


 迷宮が倒されていきなりなくなってしまう、ということはないようだ。

 なくなったら中にいる人はどうなるのかということだよな。

 迷宮は何日か残るが魔物は出てこないと。

 だからロクサーヌも探知できなくなったと。


「そうなのか。じゃあ一番最後に見た小部屋までダンジョンウォークで戻ってみるか」

「はい」


 今は普段つけていない探索者をつけて、ダンジョンウォークと念じる。

 かなり時間がたってから、ダンジョンウォークの黒い壁が現れた。

 なんか動作がバグっているみたいな感じだ。

 大丈夫なんだろうか。


「確かにダンジョンウォークの挙動がおかしいな」

「全部のパーティーのダンジョンウォークが一箇所の出口につながるので、時間がかかるのだと思います」

「それもそうか」


 セリーの説明は納得できるものだ。

 問題はなさそうか。

 どっちにしろ行かないという選択肢はない。

 いずれは迷宮から外に出なければならない。


 時間がたてば、ダンジョンウォークの動きが落ち着く可能性はあるとしても。

 それがいつになるか分からないし、さらに酷くなる可能性だってある。

 俺から見れば移動魔法そのものが挙動不審だしな。


 ワープを使うのもやめた方がいいだろう。

 迷宮が倒されていた場合、一度外に出たら中に戻ってこれなくなる。


 思い切って黒い壁に突入した。

 一瞬の間隙を抜けると、外の森に出る。

 ハルバー迷宮のある森の片隅だ。


 どうやらセリーの言うとおりだったらしい。

 迷宮の入り口はちゃんと残っているようだ。

 俺に続いて四人も出てきた。

 迷宮の入り口付近には何人かの人がいる。


「ミチオ殿」


 ゴスラーもいて、声をかけてきた。


「ひょっとして、最後のボスはゴスラー殿が?」

「まだ若い迷宮で五十階層でしたし、このくらいで引けを取るわけにはいきません」


 ゴスラーが迷宮を倒したようだ。

 さすがはハルツ公騎士団の最精鋭パーティーというところだろう。


「それはそれは。おめでとう」

「いえいえ。ミチオ殿の協力のおかげでもあります」


 迷宮を倒したときちょうど中にいることができてよかった。

 いつまでたっても出てこなかったら、あいつはどこで何をやっているのかということになる。

 ワープもしなくて正解だ。


「この迷宮はハルツ公騎士団の手によって無事退治されました。皆様のご協力に感謝します」


 ゴスラーのパーティーメンバーだろう。

 誰かが俺たちの後から出てきた人に声をかけていた。


「まだ領内には二つ迷宮が残っていますし、気を緩めることはできません」

「あー。まあ」


 二つのうちのどっちかへ行っていたことにする手もあるか。

 これからは俺も二つのうちのどっちかに入るのだろうか。

 どっちに行くべきか。


「残っている二つはミチオ殿にはあまりお勧めできません。二つですし、我が騎士団だけでなんとかなるでしょう」

「あら。そうなんだ」

「ここの迷宮は公爵も入られるために各階層魔物のいる部屋をきっちりとつぶしました。ターレにある迷宮にはところどころ残っています。ボーデにできた迷宮は、これからつぶす予定ですが探索も進んでいません」


 迷宮で恐ろしいことの一つは、魔物が大量にいる小部屋だ。

 公爵が入る迷宮であれば、そんな危険はさすがに騎士団が先回りして全部つぶすらしい。

 今まで、俺は知らず知らず安全な迷宮に入っていたようだ。

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