第八話 思惑
リゼットが十七歳になった頃、ディートリヒとベアトリスは結婚後の生活について、具体的な話を進め始めていた。公爵邸の東翼には次期公爵夫妻のための部屋が用意されていたが、ベアトリスはリゼットに屋敷の管理権を渡すつもりはなかった。女主人としての仕事は引き続き自分が取り仕切り、リゼットにはその補佐をさせるつもりだったのである。
「あなたはまだ若いのですから、結婚してすぐに公爵家の仕事を任せるわけにはいきませんわ。しばらくはわたくしのもとで学んでいただきます。もちろん、あなたにも少しずつ仕事を覚えていただくつもりですけれど、最初から自分の判断で何かをなさろうとは思わないでちょうだいね」
「承知いたしました」
「それから、ご実家への帰省についても、今のうちにお話ししておきましょう。嫁いだ娘が頻繁に実家へ帰るようでは、夫婦仲に問題があるのではないかと、余計な噂を立てられてしまいますもの。あなたのご両親には寂しい思いをさせるかもしれませんけれど、公爵家の嫁になる以上、何を優先すべきかはおわかりでしょう?」
「はい、承知しております。」
リゼットが返事をすると、ベアトリスは満足げに頷いた。
「よろしいわ。あなたも随分と物分かりがよくなりましたね。最初の頃はどうなることかと思いましたけれど、わたくしが根気よく教えて差し上げた甲斐があったというものです」
ディートリヒも、母親の考えに賛成していた。
彼は結婚後、リゼットが自分の許可なく外出したり、ほかの男性と親しく話したりすることを認めるつもりはなかった。学院では教師や同級生の目があり、彼女を常に自分のそばへ置いておくことはできなかったが、公爵家に嫁いでしまえば、そのような制約もなくなる。
「君は少し人を信じやすいところがあるからね。結婚したら、僕が交友関係もきちんと見てあげるよ。世の中には、君のような素直な女性を利用しようとする人間もいるんだ。僕が守ってあげなければ、君はすぐに騙されてしまうだろうから」
「ありがとうございます」
「そうやって素直に感謝できるところは、君の長所だね。昔は少し注意するだけで泣きそうになっていたけれど、最近は随分落ち着いてきたようだし、僕も嬉しいよ」
ディートリヒは微笑みながら、リゼットの頬に触れた。彼女がわずかに身を強張らせると、彼はその反応を見逃さず、照れていると勘違いしたのか、よりいっそう優しい声で続けた。
「どうしたんだい。そんなに緊張しなくてもいいだろう? 僕たちはもうすぐ夫婦になるんだよ。君は昔から恥ずかしがり屋だから、僕が少し親しくすると、すぐにそんな顔をするね」
リゼットは否定しなかった。
彼が自分の反応をどう解釈するかは、すでにわかっていた。嫌がれば恥ずかしがっていると言われ、黙っていれば従順だと褒められる。彼女が何を考えているかなど、ディートリヒにとっては最初から重要ではなかった。
ベアトリスも、息子とリゼットのやり取りを満足げに眺めていた。夫から顧みられず、広い公爵邸で一人過ごすことの多かった彼女にとって、リゼットが嫁いでくる日は楽しみでならなかった。若い娘が自分の指示に従い、どれほど厳しく叱っても、礼儀正しく頭を下げる。息子もまた、自分の教育方針に賛同し、嫁を甘やかしすぎないよう気を配ってくれるだろう。
結婚後の生活について話し合うたび、母子はますます上機嫌になった。
「母上、リゼットもようやく公爵家の嫁としての自覚が出てきたようですね」
「ええ。最初はどうなることかと思いましたけれど、根気よく教えれば、あの子も少しは使えるようになるものね。やはり、若いうちから教育することが大切なのだわ」
リゼットは二人の前で静かに頭を下げた。
彼女が以前より反論しなくなったことを、ディートリヒもベアトリスも、自分たちの教育が実を結んだ証拠だと考えていた。だが、リゼットが口数を減らしたのは、何を言っても彼らの考えが変わらないことを知っていたからであり、今さら無駄な口論をして、自分の計画を知られる危険を冒すつもりがなかったからだった。
彼女はすでに、王宮侍女の試験に必要な知識をほぼ修め、過去の試験問題にも取り組んでいた。婚約契約についても、父から送られてきた記録を整理し、法務院へ申し立てるための準備を進めている。卒業までの時間は限られていたが、以前のように、ただ結婚の日を恐れて待つだけではなかった。
その日も、公爵邸から子爵家へ戻ったリゼットは、疲れた身体を休める間もなく机に向かった。
ベアトリスから何度も茶を淹れ直させられ、ディートリヒには結婚後の心得について長々と説教されたため、帰りの馬車では眠ってしまいそうだったが、翌週にはフロリアンから借りた参考書を返さなければならない。
机の上には、隣国の王宮侍女選抜試験に関する資料と、リーヴェルト家の古い契約書が並んでいた。
リゼットはまず、婚約契約の条項をもう一度確認し、それから外交法の参考書を開いた。公爵家の母子は、彼女が自分たちのために努力していると信じて疑わない。学院での成績がよいことも、最近は以前ほど泣かなくなったことも、すべて自分たちの指導のおかげだと考えている。
彼らにとって、リゼットはいつまでも、七歳の春に公爵邸の茶会で泣くのをこらえていた少女のままだった。
彼女がその後の十年間で何を学び、何を考え、どれほどの覚悟を持つようになったのか、知ろうとしたことさえなかったのである。
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