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第6話「合格通知――『宮嶋創さん、正式に内定です』そして頭取ではない彼女との夜」


今回は、最終面接を終えた創へ、ついに待ち続けていた結果が届きます。


書類選考、適性検査、筆記試験、一次面接、二次面接、そして最終面接。


高校卒業後、十八歳から東都共栄銀行で積み重ねてきた約四年間の経験を武器に、二十一歳の創はすべての選考を自分自身の力で突破してきました。


そんな創のもとへ、青嶺中央銀行人事部キャリア採用課長・白河芙美香から一本の電話が入ります。


「慎重に選考いたしました結果――宮嶋様を正式に採用内定とさせていただくことになりました」


全国四十七都道府県へ巨大な金融ネットワークを持つ青嶺フィナンシャルグループ。


その中核銀行である青嶺中央銀行への正式内定。


しかし、今回は銀行員としての大きな転機だけではありません。


夜。


創の一人暮らしの部屋を初めて訪れる、四十五歳の恋人・欧陽璟瑶。


最終面接まで隠されていた「青嶺中央銀行頭取」という正体について、創も黙ってはいられません。


「金融関係って言ったよね?」


「嘘ではないでしょう?」


「頭取は『金融関係』で済ませちゃ駄目でしょ!」


少しだけ喧嘩をしながらも、璟瑶が創へ伝えるのは、彼が誰の力でもなく自分自身の実力で内定を勝ち取ったということ。


そして最後には、頭取と行員候補ではなく――二十四歳差の恋人同士として、二人の距離がこれまで以上に近づきます。


創にとって忘れられない「合格の日」を、ぜひお楽しみください。



 最終面接から三日後。


 宮嶋創は、いつもどおり東都共栄銀行・城東支店へ出勤した。


「今日、結果が来るんですか?」


 後輩の松岡海斗に尋ねられ、創は苦笑した。


「分からない。でも、仕事中に気にしてミスするわけにはいかないだろ」


「受かったら、本当に辞めるんですよね」


「まだ結果は出てないよ」


 そこへ三谷主任がやってくる。


「松岡、宮嶋を緊張させるな。宮嶋も結果ばかり気にして、仕事を疎かにするなよ」


「はい」


 営業が始まると、創は振込処理や諸届、法人融資資料の確認に集中した。


 三谷主任から設備資金融資について質問され、見積額や導入目的、借入状況、返済原資、財務内容などを答える。


「青嶺中央銀行へ行っても、融資の基本は変わらない」


「まだ決まっていませんよ」


「分かってる。ただ、銀行の規模が大きくなれば、案件も複雑になる。だから基本を忘れるな」


「はい」


 創は、その教えを胸に刻んだ。


◇◇◇


 午前十一時五十分。


 創のスマートフォンが震えた。


 勤務中のため確認できなかったが、昼休みに画面を見ると、知らない番号から着信が入っていた。


 市外局番は東京。


 創は深呼吸して折り返した。


『青嶺中央銀行、人事部キャリア採用課でございます』


「先ほどお電話をいただきました、宮嶋創と申します」


 しばらくして、女性職員へつながった。


『人事部キャリア採用課長の白河芙美香と申します。先日は最終面接へお越しいただき、ありがとうございました』


「こちらこそ、ありがとうございました」


『慎重に選考いたしました結果、宮嶋様を正式に採用内定とさせていただくことになりました』


「……」


『宮嶋様?』


「すみません。今、正式に内定と……?」


『はい。本当です。採用内定、おめでとうございます』


「ありがとうございます!」


 高校卒業後、十八歳から東都共栄銀行で働いてきた自分が、日本有数の大手銀行から内定を得た。


 創は信じられない気持ちでいっぱいだった。


 白河課長から、今後の手続きについて説明を受ける。


 創は若手金融人材コースでのキャリア採用となり、一般行員相当で入行する。入行後は三か月間の研修と、六か月間の試用期間が設けられる。


 研修では、青嶺中央銀行の理念やコンプライアンス、預金・為替、個人金融、法人融資、信用リスク、金融犯罪対策、情報管理、全国のグループ銀行や海外事業について学ぶ。


『配属先は、研修評価や適性、本人希望、人員配置を踏まえて決定します』


「営業店や本店部門、どちらの可能性もあるということですね」


『はい。法人営業、個人営業、融資審査補助、地域企業支援などが候補となります』


 給与や各種制度の詳細は、労働条件通知書に記載されるという。


『現職については、円満な退職手続きを優先してください。最終出勤日と退職日が決まりましたら、人事部へご連絡ください』


「承知しました」


『また、前職の顧客情報や営業資料などは、絶対に当行へ持ち込まないでください』


「もちろんです」


『銀行が変われば、守るべき情報も明確に分ける必要があります』


 競合銀行からの転職だからこそ、情報管理は特に厳格だった。


 今回、最終面接へ進んだ六名のうち、内定者は創を含む三名。ほかの二名とは入行式で顔を合わせることになる。


『本日、内定通知書と入行手続きに関する書類を発送します』


「ありがとうございます」


『改めまして、内定おめでとうございます。入行後にお会いできることを楽しみにしております』


 電話が切れる。


 創はスマートフォンを握りしめた。


「……受かった」


 もう一度、確かめるように呟く。


「青嶺中央銀行に、受かった……!」


◇◇◇


 午後の業務中、松岡が創の表情の変化に気づいた。


「宮嶋先輩、もしかして受かりました?」


「松岡、今は仕事中だぞ」


 三谷主任に注意され、松岡は慌てて謝った。


 三谷は創を見て、小さな声で尋ねる。


「結果が出たか?」


「はい」


「終業後に話せ」


「分かりました」


 神崎支店長たちへ正式に報告する前に、創には知らせたい人がいた。


 恋人であり、青嶺中央銀行頭取でもある欧陽璟瑶だった。


◇◇◇


 午後六時四十分。


 支店を出た創は、璟瑶へ電話をかけた。


『お疲れさま、創』


「受かったよ」


 電話の向こうが一瞬静かになった。


 璟瑶は頭取として、すでに三名の内定者を知っていた。しかし今は、初めて聞いた恋人として答える。


『正式に?』


「白河課長から電話が来た」


『そう。おめでとう、創』


「ありがとう」


『本当によく頑張ったわね。今夜、会える?』


「会えるよ」


『創の家へ行ってもいい?』


 これまで外で会うことはあっても、璟瑶が創の部屋を訪れたことはなかった。


「もちろん。場所を送るよ」


◇◇◇


 午後九時過ぎ。


 濃紺のスーツを着た璟瑶が、創の一LDKのマンションを訪れた。


「本当に普通の部屋ね」


「普通の銀行員だから」


「もうすぐ青嶺中央銀行の行員でしょう?」


「そうだよ。それより、聞きたいことがある」


 創は璟瑶を見つめた。


「金融関係って言ってたよね?」


「嘘ではないわ」


「頭取を『金融関係』だけで済ませたら駄目でしょ!」


 創は、最終面接室で恋人が中央に座っていたときの衝撃を訴えた。


「昨日まで『創』と呼んでいた人から、いきなり『宮嶋さん』って言われたんだよ?」


「面接だから仕方ないでしょう?」


「恋人になってからでも、正体を話せたはずだよ」


 璟瑶の表情が曇った。


「それは、ごめんなさい。言おうとは思っていたの」


「それなら、どうして?」


「あなたが東都共栄銀行の行員だと知って、余計に言えなくなった」


「競合銀行だから?」


「そう。私たちが何もしていなくても、交際が知られれば情報漏洩や利益相反、採用への介入を疑われる可能性がある」


 創は少し黙ったあと、最も気になっていたことを尋ねた。


「採用には、本当に何もしてない?」


「していないわ」


 璟瑶は即答した。


「人事部へ伝えたのは、私への事前報告をせず、ほかの候補者と同じ基準で選考するようにということだけ。落ちたなら、それまでだと思っていた」


「恋人なのに?」


「恋人だからよ」


 璟瑶は創の目を見つめた。


「私があなたを入行させたと思われれば、一番傷つくのは創でしょう?」


「……うん」


「書類選考も、筆記試験も、すべての面接も、あなた自身が通過したの。私はあなたを合格させていない」


 そして優しく微笑む。


「だから胸を張って、創」


「ありがとう」


「ただ、最終面接に私がいることは言えなかった」


「少しくらい心の準備をさせてほしかったよ」


「予想外への対応力も、面接では必要でしょう?」


「それも試験だったの?」


「今考えたわ」


「やっぱり!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


◇◇◇


 夕食を取っていなかった二人は、創の冷蔵庫にあった豚肉や野菜、卵を使って簡単な料理を作った。


「創、野菜の大きさを揃えて」


「料理でも厳しいんだね」


「火の通り方が変わるでしょう?」


「はい、頭取」


 次の瞬間、璟瑶に軽く腕を叩かれた。


「ここでは頭取じゃなくて、璟瑶」


「はいはい」


「はいは一回」


 外では周囲の視線や立場を気にしなければならない。


 しかし、この小さな部屋では、二人はただの恋人でいられた。


◇◇◇


 食事を終え、二人はソファへ並んで座った。


 創が電子版の内定通知書を見せる。


「何度読んでも、まだ信じられない」


「何回読んだの?」


「七回くらい」


「読みすぎよ」


 璟瑶は創の頬へ手を添えた。


「本当におめでとう。よく頑張ったね」


「四十五歳のお姉さんに褒められてるみたい」


「お姉さんではなく恋人よ」


 そう言った璟瑶は、創の唇へそっとキスをした。


 驚く創へ、今度は少し長く唇を重ねる。創も璟瑶の腰へ腕を回し、二人は内定の喜びを分かち合った。


「内定祝いで何度もキスする?」


「嫌だった?」


「嫌じゃないけど」


「ならいいでしょう?」


 璟瑶は楽しそうに笑ったあと、表情を引き締めた。


「創。これから私たちは同じ銀行で働くことになる」


「うん」


「銀行では私は頭取、あなたは一人の行員よ。配属、給与、評価、昇進、そのすべてに私は介入しない」


「分かってる」


「銀行内で『璟瑶』と呼ぶのも禁止」


「じゃあ、頭取?」


「当然でしょう?」


「変な感じだな」


「私もよ」


「でも、ここでは仕事じゃない」


 創の言葉に、璟瑶の表情が柔らかくなる。


「ここでは、私は璟瑶。あなたは創。それでいいわ」


 そして、二人はもう一度、短いキスを交わした。


◇◇◇


 日付が変わる前、璟瑶は帰る準備をした。


「明日、東都共栄銀行へ正式に話すの?」


「うん。退職の意思を伝える」


「寂しい?」


「少し。十八歳から働いてきた場所だから」


「あなたを銀行員に育ててくれた人たちへ、一人ずつ感謝を伝えてきて」


「分かってる」


 玄関で最後に唇を重ね、璟瑶は帰っていった。


 一人になった創は、青嶺中央銀行から届いた採用内定通知をもう一度見つめた。


 東都共栄銀行は、創を銀行員として育ててくれた最初の職場。


 そして次に進む場所は、恋人が頭取を務める青嶺中央銀行。


「すごい人生になったな……」


 翌日、創は正式な内定通知を手に城東支店へ向かう。


 神崎支店長、三谷主任、同僚や後輩たちへ、退職の意思とこれまでの感謝を伝えるために。


 東都共栄銀行で過ごす最後の日が、少しずつ近づいていた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ついに宮嶋創が、青嶺中央銀行から正式な内定を受け取りました。


二十一歳。


高卒。


銀行員として約四年間の実務経験。


今回の採用区分は、新卒ではなく「キャリア採用・若手金融人材コース」。


そして最終候補者六名の中から内定を勝ち取ったのは、創を含めてわずか三名でした。


入行後には三か月間の導入研修・実務適応期間が待っています。


預金・為替。


個人金融。


法人融資。


財務分析。


信用リスク管理。


金融犯罪対策。


情報セキュリティ。


そして、全国四十七都道府県に広がる青嶺FGの地域銀行ネットワークと海外事業。


東都共栄銀行で経験を積んできた創にとっても、新しく学ばなければならないことは山ほどあります。


一方、夜には璟瑶が初めて創の一人暮らしの部屋を訪れました。


そこでようやく創も、


「どうして頭取だって教えてくれなかったの?」


と真正面から問いかけることになります。


しかし璟瑶が採用へ一切介入していなかったことも明らかになりました。


恋人だからこそ特別扱いをしない。


創が書類選考から最終面接まで突破したのは、すべて創自身の力です。


そして、


「本当におめでとう」


という璟瑶からの言葉とともに交わされた、恋人になってから初めての何度ものキス。


頭取室では決して見せることのない璟瑶の姿。


創の一人暮らしの部屋だからこそ、そこにいたのは「欧陽頭取」ではなく、ただの「璟瑶」でした。


しかし、喜びの夜が終われば次に待っているのは別れです。


創が十八歳から働き、銀行員として一から育ててもらった東都共栄銀行・城東支店。


次回、第7話。


創は神崎支店長、牧野副支店長、三谷主任、倉持課長、岸本課長、先輩や同僚、そして後輩の松岡海斗へ、一人一人きちんと感謝を伝えます。


「今まで、本当にありがとうございました」


創にとって最初の銀行。


東都共栄銀行で迎える、最後の一日です。


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