↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/102

第32話「彼女は四十五歳です――母さんと五歳しか違わないと伝えた瞬間」


第32話です。


宮嶋家で始まった、四人での昼食。


創の母・恵美子が用意した洋食を囲みながら、ついに璟瑶自身のことを少しずつ明かしていきます。


中国人であること。

重慶出身であること。

そして――四十五歳であること。


創とは二十四歳差。


母・恵美子とはわずか五歳差。

父・和久とも七歳差。


当然、宮嶋夫妻は驚きます。


それでも創は、


「全部知った上で付き合ってる」


と自分の意思をはっきり伝えます。


そして璟瑶もまた、創との交際が遊びではないことを自分の言葉で語ります。


二人が家族に本気の気持ちを伝える、第32話です。 



 日曜日。


 午前十一時五十分。


 宮嶋家のリビング。


「この人が、俺の彼女。欧陽璟瑶さんです」


 宮嶋創・二十一歳がそう紹介してから、数分が経過していた。


 向かいに座るのは、父・宮嶋和久、五十二歳と、母・宮嶋恵美子、五十歳。


 そして創の隣には、欧陽璟瑶・四十五歳。


 四人が同じテーブルを囲んでいたが、誰も次の言葉を見つけられない。


 創は気まずさをごまかすように、並べられた料理を見た。


 煮込みハンバーグ。


 海老とブロッコリーのグラタン。


 ポテトサラダ。


 コンソメスープ。


 彩り野菜と小さなパン。


 食後には、手作りプリンまで用意されている。


「母さん。これ、本当に普通?」


「普通よ」


「料理は多くしなくていいって言ったよね?」


「多くないでしょう」


「どう見ても多いよ」


「初めて恋人を連れてきた息子に言われたくありません」


「……」


「ふふっ」


 璟瑶が思わず笑う。


 三人の視線が集まり、彼女は慌てて口元を押さえた。


「申し訳ありません」


「どうして謝るんですか?」


 恵美子が優しく微笑む。


「笑ってくださった方が、私も安心します。玄関にいらした時から、とても緊張されているようでしたから」


「……はい」


「当たり」


 創が言う。


「昨日から服を三着くらい並べて――」


「創」


「はい」


 和久はそんな二人を見て、小さく笑った。


「創。お前、普通に怒られてるな」


「そこ?」


「少し安心した」


「何で!?」


「私も安心したわ」


「母さんまで!」


 璟瑶も、また小さく笑った。


 張り詰めていた空気が、少しずつ柔らかくなっていく。


◇◇◇


「冷めないうちに食べましょう」


 恵美子の言葉で、四人は食事を始めた。


 璟瑶は煮込みハンバーグを一口食べる。


「……とても美味しいです」


「本当ですか?」


「はい。ソースも優しい味で」


「よかった。グラタンも食べてください」


「ありがとうございます」


「俺が褒めても、そんなに嬉しそうにしないのに」


「創は帰ってくれば、いつでも食べられるでしょう?」


「今は一人暮らしなんだけど」


「なら、たまには帰ってきなさい」


 璟瑶が創を見る。


「羨ましい」


「何が?」


「こんな美味しい料理を食べて育ったのね」


「まあね」


「欧陽さん、たくさん食べてください」


「ありがとうございます」


「母さん、餌付けしようとしてない?」


「創、黙って食べなさい」


「はい」


 和久が笑う。


「創は昔からこうでしたか?」


「昔からです」


「母さん!」


「子どもの頃の話、たくさんありますよ」


「聞きたいです」


「璟瑶まで!」


 普通の家族と恋人による昼食。


 少なくとも、その形には少しずつ近づいていた。


 しかし宮嶋夫妻は、目の前の女性についてほとんど知らない。


 国籍。


 出身地。


 年齢。


 創との年齢差。


 職業。


 二人の出会い。


 聞くべきことは、まだ数多く残されていた。


◇◇◇


「欧陽さん。少しお聞きしてもよろしいですか?」


 和久が口を開く。


「もちろんです」


「創から、外国の方だとは聞いています。ただ、それ以外はほとんど聞いていなくて」


「ごめん」


「本人がいるところで聞いた方がいいと思っていた。差し支えなければ、どちらのご出身ですか?」


 璟瑶は一度だけ創を見る。


 創は小さく頷いた。


「私は中国人です。出身は重慶です」


「やっぱり中国の方だったんですね」


 恵美子が言う。


「お名前を聞いて、そうではないかと思いました」


「欧陽は中国の複姓で、二文字で一つの名字なんです」


「そうなんですね。ご両親も重慶に?」


「はい。今も二人で暮らしています。父は中国人ですが、母は日本人です」


「お母様は日本の方なんですか?」


「はい。旧姓は桜井美智子と申します」


 父は欧陽崇岳。


 母は桜井美智子。


 二人は現在、中国・重慶市で暮らしている。


「日本語がお上手なのは、お母様の影響ですか?」


「それもあります。仕事でも長く日本語を使ってきました」


「日本には以前から?」


「はい。仕事の関係でも長く関わっています。日本も、私にとって大切な場所です」


 そう答えた璟瑶の隣で、創が少し微笑む。


 恵美子は、その表情を静かに見ていた。


 まだ職業までは話していない。


 青嶺中央銀行頭取。


 今日最も大きな衝撃になるであろう事実は、まだ残されていた。


◇◇◇


「それから、もう一つ」


 和久が慎重に続ける。


「聞いてよいのか分かりませんが、年齢を伺っても?」


「……はい」


 創は箸を置いた。


 璟瑶も背筋を伸ばす。


 何度も創と話し、覚悟してきた質問だった。


 それでも、恋人の両親を前にして自分の口から答えるのは緊張する。


「私は、四十五歳です」


「……」


 リビングが完全に静まり返った。


「四十五歳?」


 恵美子が確認する。


「はい。今年、四十五歳です」


「創は二十一よね?」


「うん」


 恵美子は頭の中で計算し、驚いた表情になる。


「二十四歳差?」


「そう」


「私が五十歳だから……欧陽さんとは五歳しか違わないの?」


「はい」


 和久も腕を組む。


「俺は五十二だから、七歳差か」


「うん」


 創が前日に冗談交じりで並べた数字。


 二十一、四十五、五十、五十二。


 実際に本人たちが向かい合って口にすると、その年齢差はあまりにも大きかった。


「創。年齢は最初から知っていたの?」


「もちろん」


「二十四歳差だと分かったうえで?」


「付き合う前から知ってた」


「それでも交際したの?」


「うん」


 創は両親を真っすぐ見た。


「俺は、璟瑶の年齢を後から知ったわけじゃない。四十五歳で、中国人で、俺より二十四歳上だって全部知ったうえで、付き合いたいと思った」


「でも創。二十四歳よ?」


「分かってる」


「あなたが三十歳になれば、欧陽さんは五十四歳。あなたが四十歳なら、六十四歳なのよ?」


「それも考えた」


「……」


「今だけを見てるわけじゃない」


 将来。


 周囲からどう見られるか。


 年齢を重ねれば、二人の生活に何が起きるのか。


「全部考えた。それでも、俺は璟瑶と一緒にいたい」


 和久は黙って息子を見つめた。


 銀行へ就職した時。


 一人暮らしを始めた時。


 東都共栄銀行を辞め、青嶺中央銀行へ転職すると決めた時。


 今の創は、その時と同じ本気の顔をしていた。


◇◇◇


「欧陽さん」


「はい」


 今度は、和久が璟瑶へ向き直る。


「失礼な質問かもしれません」


「大丈夫です」


「創は二十一歳です。あなたから見れば、かなり年下でしょう」


「はい」


「なぜ、創なんですか?」


 創が動こうとする。


 しかし璟瑶は、テーブルの下でその手に触れた。


 自分で答える。


 そう伝えるように。


「当然の質問だと思います」


 璟瑶は和久と恵美子を正面から見た。


「私自身も、最初は二十四歳という年齢差を考えました。世間から見れば不自然でしょうし、親子に見られることもあると思います」


「……」


「私も、簡単に考えているわけではありません」


「では、どうして?」


 恵美子が尋ねる。


 璟瑶は、少しだけ微笑んだ。


「創さんだからです」


 その言葉に、創が顔を上げる。


 告白された夜にも聞いた言葉だった。


「若いから好きになったのではありません。二十一歳だからでも、日本人だからでもない。創さんという一人の人を、好きになりました」


「どのように出会ったんですか?」


「出会った時、創さんは私が何者なのか知りませんでした」


 璟瑶は自分の職業や立場を詳しく話さず、創も何も知らないまま普通に接していた。


「創さんは、私の肩書きではなく、一人の人間として見てくれました」


 さらに、創が銀行員の仕事について話した時の言葉が、今も残っている。


『銀行は、お金だけを扱っているように見えて、その向こうには人の生活があります』


「私はその言葉を聞いて、創さんは年齢や肩書きではなく、きちんと人を見ようとする人だと思いました」


 和久と恵美子が、今度は息子を見る。


「何度か会って話すうちに、私が好きになりました。そして、私から交際を申し込みました」


「欧陽さんから?」


 恵美子が驚く。


「はい。私からです」


「創が告白したんじゃないの?」


「違う。璟瑶から」


「それは意外だな」


 和久まで言う。


「父さんまで!」


 わずかに空気が和らいだ。


 だが璟瑶は、すぐに真剣な表情へ戻った。


◇◇◇


「今日、お二人に一つお伝えしたいことがあります」


「はい」


「私は、創さんと遊びでお付き合いしているわけではありません」


 若いから。


 一緒にいると一時的に楽しいから。


 そのような気持ちではない。


「二十四歳差があることも、将来、私の方が先に年齢を重ねていくことも理解しています」


 それでも、創と一緒にいたい。


「今日ここへ来たのも、創さんに言われたから仕方なく来たのではありません。私自身が、創さんの大切なご家族へ、きちんとご挨拶したいと思ったからです」


 璟瑶は深く頭を下げた。


「すぐに受け入れていただけるとは思っていません。驚かれることも、心配されることも当然だと思っています」


 そして、はっきりと言った。


「ただ、私が創さんを大切に思っていることだけは、信じていただきたいです」


「璟瑶……」


「大丈夫」


 璟瑶は顔を上げた。


 恵美子は、目の前にいる五歳年下の女性を見つめる。


 友人でも不思議ではない年齢。


 その女性が、二十一歳の息子の恋人として、自分たちへ頭を下げている。


 簡単に受け止められる話ではない。


 それでも、軽い気持ちで来たわけではないことは十分に伝わった。


◇◇◇


「欧陽さん。一つ聞いてもいいですか?」


「もちろんです」


「創の、どこが好きですか?」


「母さん!?」


「大事でしょう?」


「今聞くの!?」


「俺も少し聞きたい」


「父さんまで!」


 璟瑶が思わず笑う。


「たくさんあります」


「例えば?」


「真面目なところ。慎重なところ。人の話をきちんと聞くところ。年齢や肩書きだけで、人を決めつけないところ」


 璟瑶は創を見る。


「それから、意外と優しいところ」


「意外と、はいらないだろ!」


「それは分かります」


 恵美子が笑う。


「母さんまで!」


「あと、髪を乾かすのが上手です」


「ちょっと待って!」


「髪?」


「昨日、創さんが乾かしてくれました」


「あら」


「母さん、その顔やめて!」


「仲がいいのね」


 和久が咳払いする。


「まあ、そこは大人同士だから」


「父さん!」


「お前が一番騒ぐな」


 再び笑いが起きた。


 まだ、二人の交際を認めるかどうかは決まっていない。


 それでも四人は、互いに言葉を交わせるようになっていた。


◇◇◇


「創」


 食事が進んだところで、和久が静かに言った。


「俺は、まだすべてを聞いていない。だから、年齢だけで今ここで賛成とも反対とも言わない」


「うん」


「ただ、お前が何も考えずに付き合っているわけではないことは分かった」


「……ありがとう」


「私も驚いてるわ。ものすごく」


 恵美子が続ける。


「だって、欧陽さんと私は五歳しか違わないのよ?」


「うん」


「何度考えても驚くわ」


「ごめん」


「謝ることではないでしょうけど」


「申し訳ありません」


 璟瑶も頭を下げかける。


「欧陽さんも謝らないでください」


 恵美子は少しだけ笑った。


「受け止める時間はください。でも、今日ここへ来てくださってよかったです」


「……ありがとうございます」


 その言葉は、璟瑶にとって、銀行で得るどんな評価よりも嬉しいものだった。


 しかし。


 まだ、最も大きな事実が残されている。


「ところで、欧陽さん」


 和久が尋ねた。


「はい」


「日本では、どのようなお仕事をされているんですか?」


 璟瑶の呼吸が一瞬止まった。


 創も隣で固まる。


(……来た)


 中国人。


 重慶出身。


 四十五歳。


 創より二十四歳年上。


 恵美子とは五歳差。


 和久とは七歳差。


 そこまででも、宮嶋夫妻には十分すぎる衝撃だった。


 だが次に明かされる事実は、さらに大きい。


 欧陽璟瑶は、創が現在勤務する青嶺中央銀行の頭取。


 宮嶋家に、この日二度目。


 そして、おそらく最大の衝撃が訪れようとしていた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、ついに璟瑶の年齢が宮嶋夫妻へ明かされました。


創二十一歳。

璟瑶四十五歳。


二十四歳差。


さらに母・恵美子とは五歳差、父・和久とも七歳差という事実に、二人が驚くのも当然でした。


それでも創は、年齢を知らずに付き合ったわけではなく、


「全部知った上で付き合ってる」


とはっきり伝えました。


そして璟瑶も、


「創さんだから好きになった」


「遊びでお付き合いしているわけではありません」


と、自分の気持ちを正面から語ります。


宮嶋夫妻も、すぐに賛成・反対を決めるのではなく、まず二人の本気を受け止め始めました。


しかし――。


まだ最大の事実が残っています。


「日本では、どんなお仕事をされているんですか?」


次回。


ついに、璟瑶が青嶺中央銀行頭取であることが明かされます。


第33話へ続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。