第27話「地域銀行と青嶺中央銀行、一つの支援――そして重慶へつながる未来」
第27話です。
今回は、いよいよ「地域銀行合同プロジェクト」という名前の本当の意味が見えてきます。
瑞央銀行には、長年にわたって地域企業と築いてきた関係があります。
一方、青嶺中央銀行には、
大型資金。
複数銀行との調整。
海外金融。
中国・東南アジア支援。
外国為替。
専門部署。
といった大手銀行ならではの強みがあります。
どちらかが上なのではなく、それぞれが得意な部分を担当して企業を支える。
創は実際の大型案件を通じ、その「対等な連携」を初めて実感します。
一方、東京では璟瑶が重役たちへ、エレベーターで偶然聞いた現場行員の声について報告。
さらに仕事を終えた後には、中国・重慶で暮らす両親へ久しぶりの電話をかけます。
「時間ができたら、一度帰ろうかな」
そう伝える璟瑶ですが、その言葉の奥には、まだ両親へ話していない“ある人”の存在がありました。
仕事と家族、二つのつながりが動き始める第27話をお楽しみください。
地域銀行合同プロジェクト五日目。
午後一時十分。
瑞央銀行本店。
午前中、宮嶋創は朝倉醸造の季節運転資金相談を通じて、一つのことを学んだ。
青嶺中央銀行の方法が、すべての企業にとって正しいとは限らない。
瑞央銀行の方法だけが、正解でもない。
企業、地域、案件の性質に応じて、銀行側が最適な方法を選ぶ。
それが、創が五日間で得た答えだった。
「宮嶋君。最後に、合同プロジェクトらしい案件を見てもらう」
小野寺修平・三十四歳が、分厚いファイルを創の前へ置いた。
表紙には、こう書かれていた。
『東峰産業株式会社・新工場建設計画』
『瑞央銀行・青嶺中央銀行共同支援検討』
「共同支援……」
創の隣には、藤堂蓮・二十三歳と白石結衣・二十八歳が座った。現地責任者の宮坂隆司・四十四歳も加わり、案件の説明が始まる。
東峰産業は創業六十二年、従業員四百三十八名、年商約四百二十億円の製造会社だった。
産業用モーター、精密駆動部品、自動車部品、半導体製造装置向け部品を手がけ、中国、タイ、ベトナムの企業とも取引している。
瑞央銀行との取引歴は五十八年。ほぼ創業時から関係を築いてきた、地域を代表する企業だった。
新工場の総事業費は約百八十億円。
自己資金約四十億円に対し、外部からの調達予定額は約百四十億円。
「百八十億円!?」
「声が大きい」
藤堂が笑う。
「昨日は一億六千六百万円だったんですよ。桁が違いすぎます!」
「だから合同なんだよ」
瑞央銀行一行で融資できないと決めつけるのではない。ただ、銀行全体の与信集中リスクを考えれば、一行だけで抱える合理性は薄い。
企業側にとっても、一つの銀行だけへ依存する必要はなかった。
「シンジケートローンも検討しています」
「青嶺中央銀行が主導するんですか?」
創の質問に、宮坂は逆に尋ねた。
「瑞央銀行が長年のメイン行でも、規模の大きい青嶺中央銀行へ全部任せるべきだと思いますか?」
「いいえ」
創は迷わず答えた。
「東峰産業を長く見てきたのは瑞央銀行です。経営者、工場、従業員、地元での役割も、青嶺中央銀行より詳しいはずです」
「では、青嶺中央銀行の役割は?」
「大型資金の供給、複数金融機関との調整、海外金融、外国為替、専門的なリスク管理。それに中国や東南アジアの拠点です」
「その通りです」
宮坂が頷いた。
「地域銀行だけですべてを担わない。青嶺中央銀行だけですべてを担おうともしない。二行の強みを組み合わせる。それが合同プロジェクトです」
◇◇◇
午後一時四十分。
瑞央銀行と青嶺中央銀行を結ぶオンライン会議が始まった。
瑞央銀行側からは宮坂、小野寺、白石、藤堂、そして派遣行員の創。
青嶺中央銀行側からは、全国地域銀行連携本部の瀬戸口陽介・三十九歳、地方創生金融部の三枝佳奈・三十五歳、法人営業第二部の神谷悠斗・二十八歳が参加した。
さらに、国際金融部の柊木雄平・三十六歳、外国為替部の瀬名美咲・三十三歳、海外法人営業部の高杉圭吾・四十歳も加わっていた。
柊木は海外融資とクロスボーダー資金調達を得意とする慎重な実務家で、趣味は水泳と外国の硬貨収集。
瀬名は為替リスクの分析に強く、複雑な取引を簡潔に説明できる女性行員。趣味はジャズ鑑賞と料理。
高杉はアジア圏の製造業支援を長く経験し、交渉力と現地事情への理解に優れる。趣味は海外の市場巡りとランニングだった。
画面の向こうに映るのは、普段創が働いている東京本店だった。
「宮嶋君。そっち側にいると、別人みたいだな」
瀬戸口が笑う。
「俺は青嶺中央銀行の行員ですよ!」
「あと一日あったら、瑞央銀行員にします」
小野寺が続ける。
「もう名刺を作る?」
「藤堂さんまで乗らないでください!」
短い笑いのあと、会議は本題へ入った。
東峰産業の新工場建設には、複数の目的がある。
生産能力の増強。
老朽化した既存工場からの機能移転。
生産工程の自動化。
半導体関連部品の増産。
海外取引の拡大。
人手不足への対応。
そして、環境負荷の低減。
「企業との関係については、瑞央銀行が中心となって対応します」
宮坂が説明する。
「経営陣との面談、現地工場、地域雇用、自治体との調整、地元取引先との関係は、当行が主体となります」
「異論ありません」
瀬戸口も即答した。
青嶺中央銀行が、規模を理由に主導権を奪うことはない。
一方、約百四十億円の外部調達については、青嶺中央銀行が複数金融機関との調整や融資枠組みの検討を支援する。
海外取引では、上海拠点や中国事業部を活用する。人民元決済や為替予約については、外国為替部が支援する。
そこは瑞央銀行だけでは対応が難しい、青嶺中央銀行の強みだった。
しかし、青嶺側にも分からないことがある。
「新工場周辺の雇用環境を教えてください」
三枝が尋ねた。
「この三年で人手不足が強まっています」
小野寺が答える。
「地域内就職率も低下しています。新工場では五年間で八十名ほど採用する計画ですが、計画通りの確保は簡単ではありません」
「だから自動化への投資比率が大きい?」
「その通りです」
人口流出。
地域の高校生の就職先。
通勤手段。
道路や住宅。
地元企業同士の関係。
青嶺中央銀行の膨大なデータだけでは把握しきれない情報を、瑞央銀行が補っていく。
地域情報は瑞央銀行。
大型資金調達と海外支援は青嶺中央銀行。
信用リスクや法人営業は両行。
上下ではない。
それぞれの強みを、必要な場所で使う。
創の目の前で、合同プロジェクトが初めて具体的な形になっていた。
「宮嶋君」
瀬戸口から突然呼ばれる。
「はい!」
「五日間、瑞央銀行で現場を見た立場として、何か意見はある?」
「俺ですか?」
「そのための若手派遣でしょう?」
創は少し考え、慎重に言葉を選んだ。
「派遣前の俺がこの資料を見たら、百八十億円の新工場と、百四十億円の資金調達、それから中国取引に目が向いたと思います」
「今は?」
「それだけでは足りないと思います」
新工場が地域で何人を雇うのか。
必要な人材を本当に集められるのか。
地元のどの企業と取引するのか。
道路や物流に問題はないのか。
建設した工場が、この地域で長く操業を続けられるのか。
「そこを最もよく知っているのは、瑞央銀行だと思います」
宮坂と小野寺は、何も言わずに聞いていた。
「一方で、百四十億円を安全に調達し、複数銀行を調整して、海外取引や為替まで支援することは、青嶺中央銀行の強みです」
「はい」
「だから、どちらか一方ではなく、二行で一緒に支援する方がいいと思います」
一瞬の沈黙。
瀬戸口が、ゆっくり頷いた。
「それを学んでもらうための派遣だよ」
「……はい」
三枝も微笑む。
「五日前より、かなり地域銀行側の視点を持てるようになりましたね」
「俺、青嶺に帰って大丈夫ですか?」
「瑞央銀行へ置いていこうか?」
「転職しません!」
会議室に笑いが広がった。
◇◇◇
会議の結果、役割分担が整理された。
企業との窓口や経営者との継続面談は、瑞央銀行が担当する。
大型資金調達は、瑞央銀行と青嶺中央銀行が共同で検討する。
複数金融機関との調整、海外展開、外国為替は青嶺中央銀行が支援する。
地域雇用、自治体、地元企業との関係は瑞央銀行が担う。
情報は両行で共有するが、審査判断は各金融機関が独立して行う。
青嶺中央銀行の指示に瑞央銀行が従う形ではない。
それぞれが自分の責任を持つ、対等な連携だった。
午後三時。
オンライン会議終了。
「疲れた?」
藤堂が尋ねる。
「緊張した」
「青嶺の人を相手に?」
「本店へ意見を言う方が緊張する時もあるんだよ」
「変なの」
小野寺は笑いながらも、創の発言を評価した。
「五日前なら、青嶺中央銀行なら全部できます、って考えていたかもしれないな」
「そこまでは言いません!」
「口には出さなくても、少しは考えたでしょう?」
白石に言われ、創は否定できなかった。
「……可能性はあります」
宮坂が真剣な表情で告げる。
「この合同プロジェクトで最も避けたかったのは、地域銀行が青嶺中央銀行の支店のようになることです」
「はい」
「瑞央銀行には、瑞央銀行のお客様、歴史、判断があります。青嶺中央銀行にも、青嶺中央銀行だから果たせる役割がある」
「だから対等」
「そうです。銀行の大きさが、立場の上下を決めるのではありません」
必要な力が違う。
その力を組み合わせ、企業を支える。
創はようやく、青嶺中央銀行本店で聞いた言葉の意味を理解した。
『四十七都道府県すべてに仲間がいる』
支店でも、部下でもない。
同じ企業を一緒に支える仲間だった。
◇◇◇
同じ頃。
東京・青嶺中央銀行本店四十階。
頭取の欧陽璟瑶・四十五歳は、重役会議を終えようとしていた。
副頭取の久世宗一郎・五十七歳。
専務取締役兼人事担当の御子柴泰成・五十五歳。
常務取締役法人営業統括の黒崎忠彦・五十六歳。
常務取締役市場部門統括の早乙女慶一・五十四歳。
取締役の榊原征司・五十二歳。
人事担当役員の長谷部章一・五十四歳。
経営企画担当の秋元康成・五十歳。
リスク統括の水谷征吾・五十三歳。
国際担当の陳高明・四十九歳。
グループ経営管理担当の武藤英明・五十一歳。
主要議題が終わったところで、璟瑶は久世、御子柴、黒崎、榊原、秋元の五人を引き留めた。
「最近、一般行員用のエレベーターに乗りました」
「頭取がですか?」
御子柴が驚く。
「はい。二日続けて、私がいることに気づいていない行員の会話を聞きました」
社員食堂が混んでいる。
法人決済システムの承認画面が使いにくい。
会議が多い。
地域銀行派遣へ参加してみたい。
青嶺方式を、すべて地域銀行へ持ち込むべきではない。
「どれも正式な報告書には上がりにくい声です」
璟瑶は、発言した行員を調べたり、評価へ影響させたりする意思がないことを明確にした。
そのうえで、役員たちにも現場へ足を運ぶよう求めた。
「視察という大げさな形にする必要はありません。担当部署を歩く。若手へ挨拶する。社員食堂へ行く。可能なら一般エレベーターも使う。それだけです」
「私もですか?」
久世が尋ねる。
「副頭取もです」
「五十七歳を行員の群れへ放り込むおつもりですか」
「皆さん優しいので大丈夫です」
「頭取も十分目立つでしょう」
「それでも乗りました」
「返す言葉がありませんな」
場に小さな笑いが生まれた。
「これは雑談を監視するためではありません」
璟瑶は続ける。
「行員の本音を無理に聞き出す必要もない。ただ、役員室へ上がってくる報告だけでは、銀行のすべては見えません」
顔を覚える。
挨拶をする。
話しかけられる役員になる。
その積み重ねが、現場との距離を縮める。
大げさな制度や回数のノルマは設けない。制度化しすぎれば、また現場の仕事や会議が増えてしまうからだった。
◇◇◇
午後四時十五分。
頭取室へ戻った璟瑶のもとに、瑞央銀行との共同支援案件に関する中間報告が届いた。
参加者欄には、宮嶋創の名前もある。
それでも、璟瑶は創だけの働きを尋ねなかった。
「地域銀行側が主担当ですか?」
「はい」
「そのまま進めてください。青嶺中央銀行が前へ出すぎないように」
「承知しました」
「企業との長年の関係は、地域銀行が築いてきた大切な資産です。それを奪うような連携にしてはいけません」
「はい」
創のことが気にならないわけではない。
だが、今は仕事中。
頭取と行員。
その境界は崩さなかった。
◇◇◇
午後四時二十分。
瑞央銀行本店。
「そろそろ正式な振り返りに入ります」
宮坂が告げると、小野寺はコーヒーを創の前へ置いた。
「五日間、お疲れ」
「まだ終わってませんよ」
「最後まで固いなあ」
「仕事ですから」
「宮嶋らしい」
藤堂が笑う。
「確認魔だから」
「誰が確認魔だ!」
「それは否定できませんね」
白石まで加わり、創は抗議する。
しかし笑いながらも、胸の中には寂しさがあった。
明日から、この人たちと毎日顔を合わせるわけではない。
たった五日。
それでも、初日に瑞央銀行へ来た時とは、見えるものがまったく違っていた。
「宮坂さん。俺、ここへ来てよかったです」
「まだ成果報告前ですよ」
「それでも、来る前より銀行が分からなくなりました」
宮坂は一瞬驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「最高ですね」
「え?」
「五日間で銀行が分かったと言われたら、私たちが何十年も働いてきた意味がなくなります」
「確かに」
「分からないことは増えた。でも、見る場所も増えた」
「……はい」
「それで十分です」
◇◇◇
午後七時五分。
仕事を終えた璟瑶は、頭取室から中国・重慶に住む両親へ電話をかけた。
父は欧陽崇岳、七十二歳。
海外金融、中国事業、国際金融、経営企画を経験し、かつて青嶺中央銀行頭取を務めた元銀行家である。厳格で洞察力が鋭く、現在は経営の第一線から退いている。趣味は中国書画と囲碁。
母は欧陽美智子、六十八歳。
旧姓は桜井。日本人で、若い頃に仕事で中国を訪れ、崇岳と出会って結婚した。明るく世話好きで、娘の小さな声の変化も見逃さない。趣味は中国茶、家庭料理、庭園巡りだった。
『璟瑶、ちゃんと食べてる?』
「最初にそれ?」
『母親ですから。寝てる?』
「寝てる」
『何時間?』
「それは聞かなくていい」
『寝てないじゃない』
父も会話へ加わる。
『頭取とは、そういう仕事だ』
『あなたが言うの? 昔、全然寝なかったでしょう』
『……』
「お父さん、負けた?」
『私は戦っていない』
三人に笑いが広がる。
近況を尋ねられた璟瑶は、忙しいと答えた。
『仕事以外に、何か楽しいことはある?』
「……あるわよ」
『今、声が変わった』
「変わってない」
『璟瑶がそう言う時は、何か隠している』
「お父さんまで」
『四十五年前から見ている』
「生まれた時から!?」
母に促されても、璟瑶は創の存在を話さなかった。
ただ、一つだけ伝えた。
「時間ができたら、重慶へ帰ろうと思ってる」
『本当!?』
母の声が明るくなる。
『一人で帰ってくるの?』
「……まだ決めてない」
『仕事の人間も一緒か?』
「仕事じゃない」
答えた直後、璟瑶は失言に気づいた。
電話の向こうが数秒間、静かになる。
『仕事じゃないなら、誰?』
「まだ何も決まってないから」
『男性? 何歳? 中国人? 日本人? 銀行の人?』
「言わない!」
『今、銀行の人で止まったわね』
「お母さん!」
母は楽しそうに笑った。
『分かった。帰ってくれば分かるんでしょう?』
「……」
『一人じゃなかったとしても、泊まる部屋はあるから』
「お母さん!」
父が笑いながらも、最後に頭取経験者として言った。
『璟瑶。部下は頭取に何でも「順調です」と言う。だから、自分の足で下へ降りろ』
「今日、それに近いことをしていた」
『そうか』
「一般エレベーターで、私に気づいていない行員から、会議が多いって言われた」
『ははは! 私も頭取時代に言われた』
「お父さんも?」
『現場は見ろ。ただし、そこで聞いた本音を処罰に使うな』
「使わない」
『ならいい』
同じ銀行の頭取を務めた父と娘。
時代も、経営環境も違う。
それでも、現場と人を見ることの大切さは変わらなかった。
「今度帰ったら、久しぶりにゆっくり話そう」
『それだけか?』
「それだけ」
『分かった。待っている』
電話を終えた璟瑶は、一人で東京の夜景を見つめた。
「創を重慶へ……」
まだ先の話だ。
まずは創の両親へ、自分を紹介する。
その後、いつか自分の両親にも創を紹介する。
二十四歳年下。
二十一歳の日本人銀行員。
しかも、自分が頭取を務める青嶺中央銀行の行員。
「……絶対に大変ね」
想像するだけで頭が痛い。
それでも、少し楽しみでもあった。
◇◇◇
午後六時五分。
瑞央銀行本店。
創は最終日の業務を終えようとしていた。
手元のメモには、合同支援の意味が簡潔にまとめられている。
『地域銀行が企業との関係を担う』
『青嶺中央銀行が必要な専門性を提供する』
『主従ではなく対等』
『企業に必要な支援の形を一緒に作る』
「今日、やっと合同プロジェクトという名前の意味が分かった気がする」
「遅い」
藤堂が即答する。
「五日しかいないんだから仕方ないだろ」
「俺は最初から分かってた」
「本当?」
「……たぶん」
「今、間があったぞ」
「地域銀行では間も大切です」
「絶対に嘘だ!」
「二人とも、最後まで仕事をしてください」
小野寺に注意され、二人は同時に返事をした。
「はい!」
白石が笑う。
「本当に同期みたいですね」
宮坂は最後に創へ告げた。
「東京へ戻っても、今日学んだことを忘れないでください」
「忘れません」
「青嶺中央銀行にできることも、瑞央銀行にできることもあります」
「はい」
「そして、どちらにもできないこともあります」
「……はい」
「その時は、また一緒に考えればいい」
地域銀行合同プロジェクトは、五日で終わるものではない。
この五日間は、二つの銀行が今後も協力していくための始まりだった。
「俺、また瑞央銀行へ来たいです」
「じゃあ転職する?」
藤堂が尋ねる。
「しない!」
「彼女に怒られるから?」
「そこを掘るな!」
最後まで、笑い声が絶えなかった。
瑞央銀行は地域を知っている。
青嶺中央銀行は全国と世界へつなぐことができる。
片方だけでは届かない場所へ、二つの銀行なら届くかもしれない。
青嶺中央銀行が上ではない。
瑞央銀行が下でもない。
二つの銀行。
二つの強み。
そして、支えるべき一つの企業と地域。
宮嶋創、二十一歳。
初めての地域銀行派遣。
その最終日に創は、四十七都道府県へ広がるネットワークが、単なる銀行数や規模を表すものではないと理解した。
それは、異なる強みを持つ銀行同士が、同じ企業のために力を合わせるつながりだった。
一方、東京では欧陽璟瑶が頭取として行員の声へ耳を傾け、役員たちへ現場を見るよう求めていた。
仕事を終えれば、一人の娘として重慶の両親へ電話をかける。
まだ言えない。
二十一歳の恋人がいることも。
その恋人を、いつか中国へ連れて帰りたいと思っていることも。
創の地方出張。
そして、いつか訪れるかもしれない二人での重慶。
仕事でも、恋でも。
新しいつながりが、少しずつ広がり始めていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、瑞央銀行と青嶺中央銀行が実際に力を合わせる合同プロジェクトを描きました。
企業との長年の関係。
地域雇用。
地元企業とのつながり。
自治体や地域事情。
そこは瑞央銀行の強み。
一方で、
百億円を超える大型資金。
複数金融機関との調整。
中国や東南アジアへの海外支援。
外国為替。
などは、青嶺中央銀行の強みです。
大きい銀行が小さい銀行を従わせるのではなく、それぞれが持っているものを持ち寄る。
創はようやく、
「四十七都道府県全部に仲間がいる」
という言葉の意味を、実務の中で理解し始めました。
そして東京では、璟瑶が重役たちへ「もっと現場へ降りてほしい」と依頼。
役員室へ上がってくる報告だけではなく、自分の足で部署を歩き、行員の声を聞くことも大切だと伝えました。
さらに夜には、重慶に暮らす両親へ電話。
元青嶺中央銀行頭取の父・欧陽崇岳と、日本人の母・欧陽美智子。
璟瑶はまだ創の名前こそ出しませんでしたが、
「時間ができたら、一度帰ろうかな」
と少し意味深な言葉を残しました。
創の家族へ紹介する約束。
そして、いつかは璟瑶の家族へ。
二人の秘密の恋も、少しずつ家族という次の段階へ進み始めています。
次回はいよいよ瑞央銀行での派遣最終日。
創が五日間で学んだことを振り返り、現地の人たちへ最後の挨拶をすることになります。




