第102話「悠真と美玲――二人で決めていた、息子と娘の名前」
第102話です。
今回は少し時間を遡り、悠真と美玲の名前が決まった日の物語。
双子が生まれてから何日も悩んだ創と璟瑶が、日本と中国、二つのルーツを大切にしながら二人へ最初の贈り物を届けます。
前回。
結婚式を終えた数日後の月曜日。
成城の新居で、双子は初めて名前を呼ばれた。
兄――宮嶋悠真。
読みは、ゆうま。
妹――宮嶋美玲。
読みは、メイリン。
けれど、その日に初めて名前が決まったわけではない。
時間は少し遡る。
まだ璟瑶が高峰レディースクリニックへ入院していた頃。
双子が生まれて間もない病室で、創と璟瑶は何日も悩み、話し合い、二人の名前を決めていた。
これは、父と母が息子と娘へ最初の贈り物を渡した日の物語である。
◇◇◇
双子の誕生から数日後。
午前十時十八分。
高峰レディースクリニックの個室には、窓から柔らかな日差しが入っていた。
ベッドにいる欧陽璟瑶、四十五歳は、まだ帝王切開後の回復途中だった。
傷の状態、血圧、出血、採血。
すべて慎重な経過観察が続き、無理は当然禁止されている。
その近くには、二人の赤ちゃんが眠っていた。
先に生まれた男の子。
そのあとに生まれた女の子。
病室では「お兄ちゃん」「妹ちゃん」と呼ばれ、創と璟瑶の間では、まだ「息子」「娘」と呼ばれている。
しかし、いつまでもそのままではいられない。
出生届は、原則として出生の日を含めて十四日以内に提出する必要がある。
二人は、そろそろ名前を決めなければならなかった。
◇◇◇
午前十時二十六分。
病室の扉がノックされる。
「どうぞ」
入ってきたのは宮嶋創、二十一歳だった。
『おはよう』
「おはよう」
『体調は?』
「昨日より少し楽」
『傷は?』
「高峰先生に診てもらった。問題ないって」
『なら、よかった』
創は手を洗って消毒してから、妻のそばへ向かった。
続いて、眠っている双子を確認する。
『二人とも寝てる』
「いまだけね」
『……その言い方』
「昨日を覚えてるでしょう?」
『二人同時に泣いた』
「そう」
『あれは、すごかった』
「お父さん、固まってた」
『初めてだったから』
「これから何度もあるよ」
『頑張ります』
「私も」
創は椅子へ座り、鞄から一冊のノートを取り出した。
「持ってきた?」
『うん』
二人が、名前の候補を書き留めてきた共有ノートだった。
開いたページには、二つの見出しがある。
――息子候補。
――娘候補。
その下には、これまで二人で考えてきた名前がいくつも書かれていた。
けれど、まだ正式な名前は決まっていない。
◇◇◇
「創」
『うん』
「そろそろ、本当に決めないとね」
『うん』
「ずっと息子と娘では、かわいそうだから」
『俺も昨日、同じことを思った』
「どうして?」
『抱っこしながら息子って呼んだ時、この子には、この子だけの名前が必要なんだって思った』
璟瑶は、眠っている男の子を見る。
「そうだね」
『焦って決めたくはないけど』
「期限はある」
『うん』
「だから今日は、できるだけ絞りましょう」
『できれば決める?』
「決める」
『分かった』
創はペンを持った。
『まずは男の子から?』
「うん」
『日本で自然に呼ばれる名前にしたいって話してたよね』
「そう」
『理由を、もう一度確認していい?』
「創らしい」
『大事だから』
璟瑶は息子を見ながら答える。
「この子は、日本で育つ可能性が高いでしょう?」
『うん』
「宮嶋という日本の名字を持つ。だから、初めて名前を見た人にも、自然に呼んでもらえる名前がいいと思ったの」
『俺もそう思う』
「でも、中国の家族にも呼びにくすぎない方がいい」
『お義父さんたちも呼ぶからね』
「うん」
二人は、これまで挙げた候補を一つずつ見直した。
意味と読み方。
名字との組み合わせに日本で呼んだ時の響き。
中国の家族が口にした時の響き。
その中で、創の指が一つの名前に止まる。
『悠真』
璟瑶の視線も、同じ名前で止まった。
「それ、私も好き」
『ゆうま』
「悠真」
『悠には、穏やかとか、遠くまで続くような印象がある』
「真は?」
『誠実に、真っすぐ育ってほしい』
「銀行員みたい」
『まだ銀行員にはしないで』
「創が説明したんでしょう?」
『そうだけど』
璟瑶が笑う。
そして、眠っている息子へ顔を向けた。
「悠真」
初めて、その名前が声になった。
赤ちゃんは眠ったまま動かない。
創も少し近づく。
『悠真』
二度目に呼ばれた時、小さな手がわずかに動いた。
『……動いた』
「名前、聞こえたのかな」
『そうだったら嬉しい』
「悠真。宮嶋悠真」
璟瑶は、ゆっくり繰り返した。
「いい名前だと思う」
『俺も』
創はノートの息子候補欄に、大きな字で書いた。
――悠真。
その名前を丸で囲む。
◇◇◇
次は娘だった。
こちらは、息子以上に長く悩んでいた。
息子に日本で自然に読める名前を贈るなら、娘には母である璟瑶の中国のルーツを感じられる名前を贈りたい。
最初にそう提案したのは、創だった。
『女の子は、中国語で呼べる名前にしたい』
「本当に?」
『うん』
「創がそう言ってくれた時、嬉しかった」
『二人とも、俺と璟瑶の子どもだから』
「うん」
『日本だけじゃない。中国にも家族がいる。それを名前に残してもいいと思う』
璟瑶は娘を見る。
「でも、日本でも呼びやすい名前にしたい」
『そうだね』
「学校でも、病院でも、友達にも自然に呼んでもらえるような響き」
『毎回、ものすごく難しい説明をしなくても覚えてもらえる名前』
「中国語としても自然で」
『日本人にも聞き取りやすい』
「難しい注文ね」
『だから何日も決まらなかった』
「そうだった」
ノートには、中国語で使われる名前がいくつも並んでいた。
璟瑶の指が、その中の一つで止まる。
「創」
『うん』
「やっぱり、これがいい」
『美玲?』
「うん」
――美玲。
中国語では、Měilíng。
日本語の音にすれば、メイリン。
創は何度か、その響きを確かめる。
『メイリン』
「美玲」
『メイリン』
「うん」
『日本でも覚えてもらいやすいと思う』
「そう?」
『一度聞いたら、忘れにくい。それに、美も玲も日本で使われる漢字だから』
「玲瑶の玲も入っている」
『あ』
「気づいてなかった?」
『いま気づいた』
「玲瑶、喜ぶかも」
『そしたら雪瑶さんが、私の字は入ってないって言わない?』
「言うかもしれない」
『どうする?』
「偶然です」
『強い』
「名前は、私たちが決めるものだから」
『そうだね』
少しの沈黙。
璟瑶は娘へ顔を寄せ、小さく呼んだ。
「美玲」
続いて、中国語の響きでも呼ぶ。
「メイリン」
娘の口が、かすかに動いた。
璟瑶の目が柔らかく細められる。
「創」
『うん』
「私、この名前がいい」
創はすぐには答えなかった。
娘を見て、息子を見て、妻を見る。
最後に、ノートに書かれた名前をもう一度確認した。
『俺も、美玲がいい』
「決まり?」
『決めよう』
「本当に?」
『うん』
「あとから、やっぱり別の名前にするって言わない?」
『言わない』
「確認した?」
『何日も確認した』
璟瑶が笑う。
「じゃあ、決まり」
創は娘候補欄に、大きく書いた。
――美玲。
そして、その名前を丸で囲んだ。
◇◇◇
創は「息子候補」と「娘候補」という見出しに二本線を引き、新しいページを開いた。
――息子。
宮嶋悠真。
――娘。
宮嶋美玲。
二つの名前が並ぶ。
『……決まった』
「決まったね」
『俺たち、この二人に名前をつけたんだ』
「親だから」
『責任、すごいな』
「今さら?」
『だって、一生使うんだよ』
「そうだよ」
『急に緊張してきた』
「創。もう決めたの」
『はい』
「候補には戻さない」
『はい』
璟瑶は双子を見ながら、もう一度呼ぶ。
「悠真。美玲」
創も続いた。
『悠真。美玲』
その瞬間。
これまで「男の子」と「女の子」だった二人は、それぞれの名前を持った。
◇◇◇
午後。
高峰澪奈が診察のため病室を訪れた。
「欧陽さん。今日も傷の状態を確認しますね」
「お願いします」
診察の結果、回復は順調だった。
ただし、無理をしてよいわけではない。
澪奈は診察を終えると、二人の赤ちゃんを見る。
「そういえば、お名前は決まりましたか?」
創と璟瑶が顔を見合わせた。
「決まりました」
「ついに決まったんですね」
『男の子が悠真です』
「悠真くん」
『はい』
「女の子は、美玲。メイリンです」
「美玲ちゃん。いい名前ですね」
「中国語の読み方にしました」
「お母さんのルーツも入っているんですね」
「はい」
澪奈は、眠っている双子へ優しく目を向ける。
「これからは、お兄ちゃん、妹ちゃんではなく、悠真くんと美玲ちゃんですね」
『はい』
自分たち以外の人から初めて呼ばれた二人の名前。
その響きを聞いた創は、嬉しそうに笑った。
◇◇◇
その後、創と璟瑶は出生届を確認した。
父――宮嶋創。
母――欧陽璟瑶。
子――宮嶋悠真。
子――宮嶋美玲。
創が必要事項を書き終え、最初から見直す。
「何回目?」
『何が?』
「確認」
『まだ提出前だから』
「間違ってない?」
『悠真、美玲、生年月日、住所、父母の氏名。全部確認した』
「もう一回、私も見る」
『うん』
二人は並んで、文字を一つずつ確かめた。
『大丈夫』
「うん」
『じゃあ、出してくる』
「お願い」
『受理されたら連絡する』
「待ってる」
『行ってきます』
「行ってらっしゃい」
◇◇◇
出生届は、無事に受理された。
役所を出た創は、すぐに璟瑶へ連絡する。
『受理された』
間もなく既読がついた。
「本当に?」
『本当に』
「間違いは?」
『なかった』
「よかった」
『悠真と美玲。正式に二人の名前になった』
「うん。ありがとう」
『どうして璟瑶がありがとうなの?』
「出しに行ってくれたから」
『二人の子どもだから』
「そうだね」
『これから病院へ戻る』
「待ってる」
◇◇◇
その日の夕方。
二人は、それぞれの家族へ名前を報告することにした。
創が最初に電話をかけたのは、父の宮嶋和久だった。
「もしもし」
『父さん、いま大丈夫?』
「大丈夫だぞ」
『名前が決まった』
電話の向こうが一瞬静かになる。
「お、決めたか」
『うん』
「何ていう名前だ?」
『男の子は悠真。宮嶋悠真』
「悠真か。いいじゃないか」
『女の子は美玲』
「みれい?」
『メイリン。中国語の読み方』
「なるほど」
『璟瑶の中国のルーツも、名前に入れたくて』
和久は少し間を置いてから答えた。
「いい名前だ」
『本当?』
「お前たち二人が考えて決めたんだ。それが一番だろう」
『ありがとう』
「悠真と美玲か。覚えた」
『間違えないでよ』
「確認ばかりしているお前に言われたくない」
『それとこれは別だよ』
和久が笑う。
「恵美子にも代わるぞ」
『お願い』
受話器の向こうの音が変わる。
「創?」
『母さん』
「名前、決まったの?」
『父さん、もう言った?』
「聞こえてた」
『じゃあ、もう一回。男の子が悠真、女の子が美玲』
「メイリンちゃん」
『うん』
「かわいい名前。悠真も、すごくいい」
『ありがとう』
「これで二人とも、ちゃんと名前で呼べるね」
『うん』
「璟瑶さんにも、おめでとうと伝えて」
『伝える』
「それから、璟瑶さんに無理をさせないでね」
『分かってる』
「創も無理をしないこと」
『はい』
◇◇◇
病室では、璟瑶が上海の両親へ電話をかけていた。
「喂?」
「爸爸、私」
「璟瑶。身体は大丈夫か?」
「大丈夫。今日は名前を報告したくて」
「決まったの?」
母の美智子の声も聞こえる。
「うん。男の子は悠真。ゆうま」
「悠真」
父の崇岳が、ゆっくり発音する。
「日本の名前だね」
「うん。創と二人で決めた」
「いい名前だ」
「女の子は?」
「美玲。メイリン」
電話の向こうが一瞬静かになった。
やがて崇岳が、中国語の自然な発音で呼ぶ。
「美玲。Měilíng」
「うん」
「とてもいい名前だ」
「日本でも呼びやすそうね」
美智子も嬉しそうだった。
「それも二人で考えた。息子は日本の読み方、娘は中国の読み方にしたの」
「二人のルーツを、それぞれの名前に込めたのね」
「うん」
「素敵だと思う」
「ありがとう」
「早く悠真と美玲を名前で呼びたいな」
「退院して、落ち着いてからね」
「もちろん。無理はさせない」
美智子が尋ねる。
「創君は?」
「出生届を出して、いま病院へ戻ってきてる」
「そう。創君にもありがとうと伝えて」
「お母さんまで、どうしてありがとうなの?」
「娘と孫二人を大切にしてくれているから」
「……うん。伝える」
◇◇◇
次女の雪瑶と三女の玲瑶は、この時それぞれ中国で仕事をしていた。
璟瑶は家族のメッセージグループへ報告を送る。
《名前が決まりました》
《男の子は宮嶋悠真。読みは、ゆうま》
《女の子は宮嶋美玲。読みは、メイリン。中国語ではMěilíng》
《創と二人で決めました》
《出生届も、本日正式に受理されました》
打ち合わせを終えた雪瑶が、すぐにメッセージを見る。
「悠真。美玲……」
二つの名前を口にし、笑顔になる。
《姐姐,恭喜。お姉ちゃん、おめでとう》
《悠真も美玲も、とてもいい名前》
《会ったら、たくさん名前を呼ぶね》
《でも、まずは身体を休めて。仕事はしないで》
最後の一文は、完全に妹としての言葉だった。
別の場所で移動中だった玲瑶も、車内で報告を開いた。
「美玲?」
自分の名前にも使われている「玲」の字。
玲瑶は目を大きくし、すぐに返信する。
《美玲!?》
《玲が私と同じ!》
《偶然? それとも私から一文字取ったの?》
数秒後、璟瑶から返事が届いた。
《偶然です》
「返事が早い!」
玲瑶は思わず声を上げる。
それでも、嬉しそうに追加のメッセージを送った。
《でも嬉しい》
《メイリン、すごくかわいい名前》
《悠真もいい名前だと思う》
《帰国したら二人に会わせて》
《それから姐姐、ちゃんと休んで》
届いたメッセージを見て、璟瑶は呟く。
「……みんな同じことを言う」
◇◇◇
母・美智子の妹である由美子と奈緒子にも、家族で共有を許された範囲だけ報告が届いた。
《双子の名前が決まりました》
《兄・宮嶋悠真。読みは、ゆうま》
《妹・宮嶋美玲。読みは、メイリン》
《母子ともに、引き続き経過は順調です》
自宅のリビングで報告を読んだ由美子は、二つの名前を声にする。
「悠真くん。美玲ちゃん」
そして返信した。
《素敵な名前ね》
《二人とも、おめでとう》
《退院までは、とにかく身体を第一にしてください》
奈緒子も、自宅の食卓で通知を開いた。
「決まったんだ」
画面を見ながら微笑む。
《悠真くん、美玲ちゃん》
《これで、やっと名前で呼べるね》
《創君と璟瑶らしい、日本と中国の両方を大切にした名前だと思います》
《会える日を楽しみにしています》
少し後、もう一通届く。
《でも退院を急がないこと。高峰先生の言うことを聞いてください》
◇◇◇
病室へ戻った創に、璟瑶は家族から届いたメッセージを見せた。
「創」
『うん?』
「由美子叔母さんも奈緒子叔母さんも、最後に休んでって」
『正しい』
「雪瑶も玲瑶も」
『正しい』
「お母さんも」
『正しい』
「創も?」
『もちろん』
「……味方がいない」
『いるよ』
「また、それ?」
『俺は璟瑶の味方』
「でも休ませる」
『それが味方だから』
「はいはい」
そう答える璟瑶は、少し嬉しそうだった。
◇◇◇
夕方。
創は椅子に座り、息子を腕に抱いていた。
『悠真』
名前を呼びながら、小さな顔を見つめる。
『悠真。父ちゃんだぞ』
璟瑶も娘を抱く。
「美玲。妈妈ですよ」
創が顔を上げる。
『いま、中国語?』
「うん」
『何て言ったの?』
「お母さん」
『そっか』
「創も、中国語でお父さんを覚える?」
『覚える』
「爸爸」
『……バーバ?』
「少し違う」
『難しい』
「銀行の数字より?」
『それは比べられない』
「練習ね」
『はい』
創は腕の中の悠真と、璟瑶が抱く美玲を見る。
『悠真は、ゆうま』
『美玲は、メイリン』
『二人とも、俺たちの子ども』
「当たり前でしょう?」
『言いたかっただけ』
「なら、何回でも言っていいよ」
◇◇◇
物語の中で、双子の名前がこれまで明かされていなかったのには理由があった。
生まれた直後、二人の名前はまだ決まっていなかった。
共有ノートの「息子候補」と「娘候補」の欄には、いくつもの名前が並んでいた。
けれど創と璟瑶は、期限の中で何日も悩み、二人の未来を考えて名前を決めた。
出生届も提出し、家族や必要な人々へ報告していた。
名前がなかったわけではない。
父と母が二人だけで大切に呼び始めた名前を、物語の中ではまだ明かしていなかっただけだった。
そして第101話。
結婚式を終え、四人の新しい日常が始まった月曜日。
創と璟瑶は、初めて読者の前で二人の名前を呼んだ。
◇◇◇
夜。
病院の消灯時刻が近づく。
帰宅する前に、創は眠っている双子を見る。
『悠真。美玲。また明日』
「明日も来る?」
『来るよ』
「仕事は?」
『仕事をしてから』
「無理しない?」
『璟瑶に言われたくない』
「何それ」
『お互いに無理しない』
「うん」
創は妻を見る。
『璟瑶』
「何?」
『名前を一緒に決められてよかった』
「私も」
『悠真と美玲』
「うん」
『いい名前だよね』
「何回確認するの?」
『今日の最後』
「本当に?」
『明日になったら、また聞くかも』
「創らしい」
二人は顔を見合わせて笑った。
創が病室を出たあとも、ベッドの近くでは二人の赤ちゃんが静かに眠っている。
兄――宮嶋悠真。
日本で自然に呼ばれ、穏やかに、誠実に、自分の人生を真っすぐ歩いてほしい。
そんな願いを込めた名前。
妹――宮嶋美玲。
読みは、メイリン。
中国語では、Měilíng。
母の中国のルーツを受け継ぎながら、日本で暮らす人々にも親しみを持って呼んでもらえるようにと選んだ名前。
一人を日本、一人を中国へ分けたわけではない。
二人とも、日本人の父と中国人の母の間に生まれた、大切な子どもだった。
悠真と美玲。
二つの名前は、これから何十年、それぞれの人生とともに歩いていく。
その最初の一文字から最後の一文字までを選んだのは、父の創と、母の璟瑶だった。
数週間後。
結婚式を終え、四人で暮らす成城の家。
仕事から帰った創は、息子へ言う。
『悠真。父ちゃん、帰ってきたぞ』
璟瑶も娘へ伝える。
「美玲。お父さん、帰ってきたよ」
あの日に決めた二つの名前は、二人が親として贈った、最初の贈り物だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
兄は「悠真」、妹は「美玲」。
二人で悩み、出生届を提出し、両家の家族にも報告していた名前が今回正式に明かされました。
これからは「息子と娘」ではなく、悠真と美玲として、四人家族の日々を描いていきます。




