第八十節 無数の
前回のあらすじ
昨日は散々だ。まさか、長谷川先生の部屋で
寝ることになるとは思わなんだ、がくり。
今までの同級生達への好感度がなくなったよ、そして――、
積み重ねてきたものにも、裏切られた。
「正確に言うと、君の理論は間違っているようで間違っていない。なんというかな~。間違いが正解に変わったと言えばいいかな~」
そういった長谷川先生は、何故か真面目モードに入ってはいない。それが、逆に心配になる。
嘘だと思っている、しかし、事実としてそこにあるみたいに。
「始まりは一人の、男子高校生だった――」
そこから、ポツポツと伝えられた物語を朗読するかのように彼女は話し始める。
一人の男子高校生がいた。
彼は修学旅行中にホテルを抜け出して、ある人物と裏路地で会うことになる。
その人物は、四次元能力者、通称、四次元世界の人間。
まだ三次元空間が、三次元空間のときだった。三次元が変わったのではない。三次元以外の高次元空間が変わったのだ。
彼は四次元空間を旅する、そこで知った驚愕の事実。
四次元は五次元にとってゲームの中、つまりただのフルダイブ空間と同じだった。
闊歩する、神のような五次元の人間。彼らは死なず、ただ資源と人を食い漁るのみだ。
三次元にいたっては四元界法というもので存在すら許されていなかった。だから彼女達四次元世界の人間が俺達三次元の世界を摘発するために乗り込んでいた。
三次元を捨てるのか、それとも高次元と戦うのか。
究極の選択の前に彼は自分の力を知った。
それは絶対にありえない、他の次元の成分がくっついた構成能力『時空』。
それが二つに分かれて『空間』と『時間』の半分、『空間』を所持していたのだ。
そして、半分を所持していた彼の妹は同じ『時間』を繰り返したことにより、因果律で構成成分の『空間』と『時間』を無数に増やしていた。男子高校生は無数の『時空』を持つ絶対者になった。
五次元超能力者に人質を取られた彼、だからその人の願いを叶えた。
五次元が欲しかったのは、九次元の神が争いを終わらせたものに対する報酬だった。
争いを失くすため、四次元以上を壊した。五次元に対しての報酬は何でもできる力。
高校生は彼を止めるため、彼を異次元に隔離した。絶対者の彼にはたやすいことだった。
そして、自分の力を削って四次元以上の人間を無数の乱立した三次元に振り分けた。
「――で、世界には難民が多く出たらしいよ~。これは事実だね、新聞で見た記憶があるから~。そして、今この世界は三次元でありながら壊れた高次元の影響を受けていると。四次元以上の世界がなくなったことでその力が溶けて混ざり合ってしまっているってさ~」
だから、『四次元能力』、創作物の超能力とは似ているようで似ていない力。
「……」
「ムカつくよね~。君が発表した理論は全否定だ~」
「いえ、そもそも努力していない俺なんかが超能力理論を完成させたことが、まずおかしかったんだよ」
「謙遜かい~。そんなことばっかり言っていると嫌われるよ~」
茶目っ気たっぷりでニコリとする長谷川博士。きっと一番俺に幻滅したのは彼女だよな。
「博士も、もう俺に気を使う必要がなくなったな」
「何をいっているんだい? 理論が間違っていたからって、君の理論は穢れはしないよ~。なぜなら、君の理論のキモは想定外の出来事を科学に寄り添わせているところにある」
寄り添わせている、か。確かにうまい具合に噛み合っているよ。踊らされたみたいだ。
「構成能力者という存在も嘘っぽいし~。君は知っていたのかい?」
「はい。実は急激に強くなろうとして、この世界の人間じゃなくなったときに構成能力者という人物に会いました」
「そう、か。また面倒くさいものが出て来たな~」
うんうんと長谷川先生は考え込んでいる。俺はもう、俺を積み上げたものがなくなったことに悲しんでいいのか、喜んでいいのか、分からず途方に暮れていて、
少しの引っかかりが俺を突き刺した。
四次元以上がないってことは、俺の体は四次元にあるはずはない。
でも、あの姿が良く見えない『起点』と言っていた彼女は、『今はまだこの力は早い』と言っていたような。
ガズ、ン‼
世界が暗転した。
俺は、またこの夢の中のような真っ白の世界に足を踏み入れていた。




