第七十八節 くそ野郎
前回のあらすじ
俺のスイートルームは女性達に奪われた。
世良は、猫そのものに変わっていて。お前らホテルで暴れるのは学生の特権だと、しても。
ああ鎺、お前は違うぞ?
「これなに?」
「鎺というものだ」
「鎺、って?」
「簡単言うと刀につかうものだな」
鎺、刀身と鍔の接する部分にはめる道具で口のような形をしている。これは金で作られた。
動くようなものではもちろんない。でも、俺のバックで動くようなものはこいつしかないだろう。
「丈、アンタそんな趣味の悪いもので嘘をつかなくてもいいんじゃ」
「うるせえこのアマ! 俺様を誰だと思ってんだ!」
『きゃぁあ!』
カタカタと、鎺が空中に飛びあがって口のように動き出した。それは一種の恐怖体験だったようで女性陣は俺に抱き着いてくる。
「け、剣神様。お化けを使役したのですか?」
お化け自体は別段珍しくない。うちの学校にもお化けを従えている人はいる。
しかし。鎺に憑依させている人間は後にも先にも俺だけだろう。
いや、別に俺が憑依させたわけじゃないんだがな。
「おい、くそ野郎だまれ。それ以上喋ると明白刀で跡形もなく消し去ってやるぞ?」
「へ! 出来るものならやってみろってんだ! 俺様は家来を何人も従える伝説の武士の持ち物だった。俺様の力を封じるので精いっぱいだったくせに」
カタカタ、ガチャガチャと鎺自身を上下に動かして唾を飛ばして喋っている感じだ。
「みんな、このくそ野郎はなぜか門白チョウで消えなかった、キーラを女性にした呪いの本体が具現化したものだ。処理に困って連れてきた」
「ギャハハ! 俺様は『俺様』だ! 名前はむかあし過ぎて忘れたぁ!」
そういってちょんちょん飛んで女性陣近づく。
彼女達は足で立ちあがれないようだ。後ろに腰を引きづりながらコイツから離れようとする。
「丈、止めてぇ。この得体の知れないものを私に近づけないでぇ!」
「け、剣神様の言う通りならこれに触ったら男になってしまう!」
「え、それはダメ、委員長私の後ろに! あ。私が男になればこれで合法になるんじゃ? まって。この世界は男はいないからもともと合法。そもそも、男という存在になって私は幸せなんでしょうか?」
「ひぇへへへ! 女と喋るなんて久しぶりだぁ。もっと、もっと近くに」
「やめろ」
ガチン、といざという時に準備していた実休光忠で叩く。鈍い音と共に壁に叩きつけた。
ガチャン、っと、一瞬静かになる。次に怒鳴り声が鎺の口から飛び出した。
「クソガキ! てめえ俺様を壁に叩きつけるたぁ、いい度胸してんなぁ‼」
「お前の持ち主も大変だ。こんなくそ野郎の面倒を見ていたのだからな」
「へ! お前と似たり寄ったりだったさ。だから俺様の呪いをクソガキのてめえがどうにかできたんだろ」
「け、剣神様。それ、どうするのですか?」
女性陣は怯えている。よくわからないものに慣れているはずなのに。
コイツは生理的に受け付けないらしい。
仕方ない、な。まあ、コイツを見せてどうにかしたいわけじゃないんだけど。
「今は預かっているが、キーラに聞いたら本体は奉納したらしい。コイツを本体に、返そうと思っているよ」
ブルブルと鎺の『俺様』さんは体を震わせた。このぎゃちゃがちゃという音、外に漏れていたら苦情ものだったな。
キーラの母親に良い部屋借りることができてよかった。まじで。
「むぬ、フム。この感じ、懐かしい雰囲気が。気づくのがちと遅かったなぁ。クソガキ。おめえを中心として、古い刀の力が漏れ出しているぜ?」
「だからなんだ? ああ。お前と同じくらい、意地が悪い刀の力だよ」
ギャハハ、とくそ野郎が笑う。うぜえ、今ここで金閣寺の修理部品に使うため溶かしてやろうか。
いや、そうしたら今度は金閣寺が危険だ。別に手段にしよう。
「おんなから男に媚びる感情がなくなっている。つまんな。おい、クソガキ」
「なんだ、くそ野郎? ついに錆止めが欲しくなったか?」
そのまま錆臭くなっていくことに耐えられないなら対価が必要だぞ。
「つまんないから、その呪い、少し解いてやろうかぁ?」
え、錆止めの高いやつをご所望ですか?
「お前、俺に情でも湧いたのか?」
「馬鹿言え! これは、昔の借りと、俺は女が恥ずかしがる姿が見てえ! だから体を触させろぉ!」
「丈! もうそのキモいの捨ててきて! いやぁ!」
その捨て猫みたいに言うの、悲しいね、くそ野郎さん。
「彼女達の身に何かあったら、速攻金版にするぞ」
「へ! フトコロが狭いやつ! 信用できない奴は嫌われるぜぇ?」
その夜、一時頃。部屋は断末魔が響いた。
くそ野郎のせいか、はたまた男という存在を忘れていた自分の不甲斐なさか。
今日は、寝られないな。
俺は廊下に出され、突っ伏していた。




