第七十三節 源義経の刀
前回のあらすじ
リクが後輩の後輩になった。俺の相談役になったらしい。
武衛大にも動きがある。
もっとも、俺に丸投げは納得いかないけど。
「もっと、もっと強く返してきてください!」
「ふぇええ! 鍛えてくれって言っただけなのに、何で刀を持たされるんですか⁉」
「先輩が超能力は上手く使えないって言ったからですよ! 口を動かすまえに体を動かせ!」
「そんなぁ! ひへぇえ。実は私‼ 剣神様を背後から襲撃しようと近づいただけで別に強くなるつもりはぁ!」
「嘘でも襲撃って使うんじゃねぇ! じんましんが出る!」
今にも背後から武衛大の連中が来そうで怖いことこの上ないんだ。せめて峰空の校内にいる時ぐらい考えることを少なくしていたい俺の気持ちがわかるか!
二年生、その一般的な訓練場にいる俺と夜東先輩は刀を持って乱取りをしていた。
乱取りと言っても本物の刀、少しの手違いで相手の命を奪ってしまうのでお互い真面目にやらなければならない。
それに彼女が持っているものは武将が持っていた刀。その実力は、一級品である。
俺は、今回勝倉と違った刀の渡し方をしていた。それは、夜東先輩に刀を選ばせたことだ。
ランダムで一気に引っ張ってきたそれぞれ特徴のある刀、十二本。
それを見せて一つ選んでもらったんだ。
しかし勘だけど、刀は一つ選んだらその選んだ武将の刀で統一した方がいいかもしれない。
法則は分からないが濃姫と勝倉の関係を見ているとそう思えた。
ここで、勝倉が明智光秀の刀を使い始めたら彼、死にそうだし。
え? つまり俺も織田信長の刀しか使えないのか? いや、俺は例外だろう、たぶん。
そうだ。確かキーラとの戦いの時、勝倉が規則性がどうのと言っていたような?
もう山に濃姫と籠ってしまったようだけど、帰ってきたら詳しく聞くことにしよう。
「え~ん! 私にはこの刀は使いこなせませんよ~」
彼女が選んだ刀、それは源義経の刀である薄緑という刀である。
それは源頼朝との仲を取り持つため箱根神社に奉納された刀だと言われている。
俺はどういう使い方をすればいいか知っている。しかしチャンスを与えただけだから自分でモノにしない限り、『薬研藤四郎』のように秘めたる力を出してくれないし、相手を斬ることさえも出来ないだろう。
もっとも、俺は苦しんでほしいと思っているからこれくらいがちょうどいいけど。
その刀も俺と同じ。なにせ義経の願いに試練を与えるぐらいだからな。
薄緑、それに付与された力は、
「せめてヒントをください。ね、いいでしょう。先輩命令だからね!」
「先輩ならもっと自分で考えてください! こう見えて、手伝っているんですよ?」
勝倉が三日で刀の力を引き出した方法、つまり実戦経験を積ませているけど本当にこれで大丈夫だろうか。
いや、あのバカが出来たんだ。峰空の生徒は優秀だし彼女もそうなら、って、下っ端の下っ端のもううんざりするくらい下だった!
「わかった! 先生達には禁止されていたのだけど、上級生の超能力の応用を教えてあげる! ねえ、それで手を打たない? 私も人生かけるからいいでしょ⁉」
う、それは。喉から手が出るほど欲しいものだった。
なにせ今、研究は行き詰っていた。あの、俺のしなければいけない仕事だと思っていた時期の研ぎ澄まされた感覚があれば、すぐに頭から次々に疑問が出てきて、それを解決する力が備わることになる、はずだった。
しかしそれはもう戻らないのだろうと半分諦めてしまうほどに、俺は退化していた。
甘い、俺は簡単に自分を裏切ってしまう。
「しょうがない、か。分かりました。一回だけですよ?」
「え、いえ~い! やった‼」
貸してください、俺は刀を持ちながら嬉しさを全身で表現していた夜東先輩から薄緑を受け取る。
名刀と言われる、それを何度か振る。重さは鬼丸国綱と同じくらいだろうか、素晴らしい刀だった。
「よし、じゃあお手本を」
ピシ、ピシピシピシピシピシピシピシギャリン‼
「はぁ?」「な、何しているんですか!」
薄緑、その刃が、セミの抜け殻のような脆さで、粉々に砕け散った⁉
「剣神様! 刀が壊れた、だから私に貸してくれることをなかったことに、したいの?」
「そ、そうじゃない。俺はなにもして」
は、まさか!
俺は急いで訓練場から出た。何かが、変わっているはずだ。なにせ、この刀は。
「は、はは、嘘だろう?」
五分くらい校内を回っていた。そして校門にいる門番を見て、確信してしまった。
「嘘だぁあああああああああああああ‼」
嘘であってほしい。刀は俺の潜在的な願いである『リゾートで男友達が欲しい』を叶えるため、現実を改変させるために空間に溶け込んだ。力を解放して試練を与えてきた、ようだ。
悪化させる、濃姫以上に厄介な反抗、だった。
門番さん、それも入れたとしたら峰空の敷地に入っている男性はもう彼しかいない。
それが、
刀の力で女性になっていました。




