第六十四節 鉄槌を下す
前回のあらすじ
男と女の思いを≪心切り≫で抱えてやる。
少し、違った未来に向けて、
一緒に歩いてみないか?
「くそ、作戦は失敗だ! おい、何で準備していなかった!なに、時間がかかる? 使えない奴らが‼」
日本にある、外国の領事館で人がせわしなく動き回っている。
ことを起こしたのは全て成功すると確信していたから、そんな人間が何を準備しろというのだろうか。
普通ならとっくに自国に逃げているだろう。それを、全て俺に押し付けてゆうゆうと帰れる、だったら近くにいて武勇伝の話のタネにしようとためらいもしなかった。
「今さら慌てても遅いんじゃないか、なあ、ゴキルさんよ?」
「黙れ、どこのどいつだ! 私に逆らうとお前の親族ごと路頭に迷わせて、迷わせてぇ! ひぃ! お前は!」
俺は明白刀を腰に下げたまま、片方の目でキリルの父親を睨んでいた。
どうやら、この刀は両目を開けられないらしい。もっとも、好都合ではあるが。
だって、今腰を抜かして口をあんぐり開けている男の顔なんてまじまじと見たくはないしな。
「ど、どうやって入ってきた!? まだお前には容疑がかかっているはず、そんな自由に動けるはずかない!」
「つくづく、都合のいい言葉しか信じないやつ。わかったよ。教えてやる」
出てくる、出てくる、ゴキルというキリルの父親が関与していた罪の数々が。
最初はただの不信感だった。彼が動くと、彼にとって都合のいいことが起きる。
それをほじくり返しただけ、主に動いてくれたのは峰空の生徒達だ。
警察の偉い人である娘さん方に、感謝だな。
「今回のこともボロボロの作戦だったようだな。濃姫が侵入してきたのはお前達が無理矢理警備するといった場所らしい。監視カメラで確認済みだ」
しかも、いったん呑み込んで領事館に事態の収拾を依頼したら、どれだけ株を渡すかの交渉を始める始末。
「わ、私はまだ何もしていない。冤罪だ。証拠はない!」
その言葉自体、悪いことをしていると言っているようなものだけど。
「全て、捨て駒にしようとしたホテルの従業員が今回の国宝毀損事件を白状したよ。濃姫がさりげなく殺したふりをしたらしいからな」
勝倉が避難させた人質の中に変装していた、二度も助けられて心を打たれたと言っていたぜ。
「私の計画は完璧だ。いや、そうだ! あの女が罪を被る作戦を加えたから!」
って、それ濃姫が考えたのか? それを自分の手柄のようにしたと。
「さて、ここに来られたのも逃げられるのが面倒だったから、警察を置いてこられるほどの移動能力を使った。けどそれすら、変わらないけどな」
「ま、待て。方後君、取引をしよう。私の軍門に下るなら国に取り合って重要なポストに就かせてやろう。その代わり話を合わせて、罪を全て被ってくれ! 大丈夫、私の権力と君の地位、そして年齢が何もかも味方して」
「言いたいことは、それだけか?」
「ひぃいい‼」
首筋に刀を突きたてる。キリルの父親は目に涙を浮かべ両手を上げていた。
「これは、国際問題だ! わかっているのかぁ! 私の立場を」
「俺は、お前が思っているほど安い人間じゃない。国に尽くした行動にしてもな」
だから、背負ったものを多くこぼしてしまうんだよ。
「な、なにをぁああ!」
門白チョウ――、
ゴキルの後ろに透明なベールを取り払ったように出てきた左は黒、右は白の大仰な門が観音開きしていく。
「完璧は存在でき、中途半端は砂に帰る。さて、お前はどっちかな」
ズルズルと吸い込まれる、爪がはがれるほど力を入れて抗っていた。
「わ、わたしは、わたしはわたしアァアア‼」
ぐろわあぁあぁっぁああああ‼
出てきたか、彼の心に巣くう獣が。
きっと、惨めだったんだろう。自分には何もない、だったら大きなものに巻かれるしかない。
そこが自分を評価してくれる、自分自身が評価を認められる道だった。
子供のころ必死に自分のあるべき姿を探していた、あの勇気は、もう、
「俺はもう少し、子供のままでいるよ。大人の俺が失くさないように、道を示す標識を持つために」
「あぁあああああああああああああああ‼」
彼は、通り抜けた。そして、ペッと吐き出されるように通り抜けた入口から外に投げ出された。
彼の心に巣くっていた、獣は門の後ろで灰になって消えていく。
「不必要な殺傷能力を奪え、そうか。濃姫、俺はお前を優しくさせる。これから先、いつまでも」
刀は俺を試し切りしてくる。それはこれからも変わらないだろう
もっとも、刃こぼれするつもりはさらさらないけどな。




