第六十三節 明白刀
前回のあらすじ
なりふり構ってはいられなくなった。
俺達に対抗するため、生まれ持ったモノを捨てる決意をしたキリル。
立ち向かっていく行動自体が愚かしいほどの、絶対的な破壊力を行使し始めた!
五秒間、俺はホテルの外に投げ出されて宙を舞っていた。
その五秒のうち、三秒は走馬灯のようにキリルとの出会いを振り返っていた。
もう、諦めよう。最初から政府にすべて任せればよかったんだ。
それを、俺が出しゃばって、ぐちゃぐちゃにかき回して、
(俺は、何やっているのだろう?)
男は男の苦しみがあるように、女には女の苦しみがある。
俺は、女になったことはないからどちらにもなったことがあるキリルの気持ちはわからない。
悪い所だけはっきりと自身に帰ってくる、きっと自分を必要としてくれるならどの性別でもいいと思っているのだろう。
そんなわけあるか‼
ハッキリ断言できる、でも言葉にすることのできないあやふやなもの。
目新しいものに心を躍らせる顔、ちょっと恥ずかしそうにする顔。
俺はまだまだ、もっとたくさん表情を見てみたい。
彼女自身の生まれたままの姿で。
あ、伝えたいことが見つかった。
変われない! と言っていた彼女に。
「気持ちはわかる。でもさ、俺達と出会えたことは、大きい変化だっただろう?」
謎刀を腰に差すように持つ、この行動に一秒。
『丈様。私を使って。私のなりたい私に、変えてください。一緒に誰かを守れるように』
近くにいて抱きしめてくれる、濃姫の姿が見えた気がした。
ああ、そうするよ。
信頼で人を傷つけたりしない。
「心切り!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
五秒たった――。
謎刀から数十本、光の筋が飛び出す。それは四方八方に広がり始め信号やコンクリート、ビルの壁に当たると折れ曲がって方向を変えてまた進み始める。
何回も折れ曲がった光は、最終的に謎刀に集まり始め、
刀をぐるりと包み込んだ。
繭から生まれた、一本の大太刀は、
鞘に収まり、そのあふれる力を腰近くに括り付けるのを許した。
名を『明白刀』。真実を映し出す刀。
そして、俺は態勢を整える、我武者羅に足で空を蹴った。
「あ、はははは。やってしまった。うんんん!」
一仕事を終えたとでもいうようだ、キリルは伸びをしてホテルの外を覗き込んでいる。
「あはは! はは?」
あまりに現実的ではない光景だったのだろう、それを目にしてしまい一歩二歩後ずさる。
俺は片目を閉じて、投げ出された空中からホテルの中へと着地した。
「キリル、決着だ」
「噓、でしょ?」
ズサッズドオオオオオン!!!!!
居合切りで宝剣人間を構築していた剣が折れてバラバラになる。
エクスカリバーはホテルの壁に刺さっていた。ひびがはいっているから、もう使えないだろう。
俺はそのまま刀を鞘に戻さず、ホテルの床に刀を突きさした。
「開閉しろ! 門白チョウ‼」
明白を司る門、正しい形に返す、裏表のない入口。
俺の後ろに空間をこじ開けて現れ、扉が開く。
あやふやなものを所かまわず吸い込み始めた、まるで生き物のように完全にこだわっている。
「や、やめろぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」
キリルとその多くの剣はもう抗えなかった。
ただ、くぐらされるだけ。
剣はその門をくぐった瞬間、ボロボロになって崩れていった。
「たすけ、」
手を伸ばしてきた彼の手を俺は、掴まない。
俺は彼に今更、何もしてあげることはできない。もうだめだ。
彼は、通り抜けて、死んだ。
見ろよ、くぐった後の彼女の表情、涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
門が閉ざされる。それを消して歩み寄った。
「ボ、クは?」
「呪いがなければ、お前は無理に男になる必要はない。父親なんて、気にするな。俺に任せてくれよ」
混乱していた。命を懸けて戦ったとわかっていても、そんなものだ。
でもこれでいい。だから俺達は歩み寄れる。
「ボク、無理だよ。今更!」
「お前は、女だ。カッコよくて優しい俺の、クラスメイトだよ」
彼に掛かっていた呪いはきれいさっぱりなくなった。
それが実感に変わったようで、今までのぐるぐるした思いも氷解したようだ。
うん、やっぱ俺は彼女である方が好きだな。
そんな感じ、笑って彼女をみたら、泣かれたよ。
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