第百十九節 無名刀
前回のあらすじ
人が、死んだ。助けられるはず、だった。
未来を気にして、俺は誰も助けられないのか……。
違う、だろ‼
「信長‼」
俺の顔を見て、信長は驚いたような顔をしていた。
寺には火が放たれている、だけど、まだ間に合う。世良達には辺りの敵を一掃して貰っている。
歴史を変える、とは。歴史が信用できなくなるということだ。
援軍の可能性もあるかもしれない、早く信長を逃がさないと。敵も信長がいなくなれば、この争いは終わる!
「お前か。ここまでよく来たな」
「逃げるぞ、今逃げればこの争いは――」
「いや、我はここに残る」
ぐらっと、俺の頭の中を、機能停止に陥るほどの物質が充満していく。
静かに信長は切腹の構えで、どうしてだよ‼ 助かるんだぞ!
「なにカッコつけているんだよ‼ お前が死んだら、ここで必死に戦っている奴らはなんなんだよ‼」
「黙れ‼‼‼‼‼」
「くっ……」
その迫力に俺は押されそうになる、でも、気持ちで負けることは、俺もこいつと一緒の人間になっちまう。
「やり残したことはないのかよ、仮にも、天下を取れると思っていたんだろ?」
ギン、と睨まれる。真っすぐに睨み返してやった。
睨み返すと、ふうっと息を吐いて言葉を静かにこぼし始めた。
「そうだな、不肖の弟子に最後の仕事をしてもらうか」
「な、なんだよ?」
「我を斬れ。それが、お前の最後の仕事だ」
は、ふざ、けるな!
「正気かよ! 俺はお前を助けるために、みんなに助けられてここまで来たのに、そんなやつが助けるはずだった人間を殺すって」
「これはお前だから言える、光栄に――」
俺は、小姓衆の男から預けられた刀を信長の首に押しつけた。
「いつでも殺してやる‼ だから、死んだと思って俺に助けられろ!」
横からチラリと見えた信長の目は今から死ぬと思っている目じゃない。まだ、こいつは生きることを諦めていないはずだ!
「……いい刀だ。そうであるか。刀に、気持ちが宿っておる、名もなき刀のように見えるが。お前の刃になり、腑抜けたら最後お前を殺すほどの、覚悟の象徴になっているようだ。名は、何という?」
「名前なんて付けていない! これはお前に命を賭けてくれた人の形見だ。その人の代わりにこの刀でお前を助ける!」
「そうであるか、しかし、ここで我が助けられると困るのだろう、いいのか?」
「いいわけ、あるか! 助けたからにはこの国のために働いてもらう! それを俺達は支えてやる!」
「く、はははははははは‼」
いきなり、笑っている? 本当に大丈夫かコイツ⁉
「本音で話さないと分からないようだ。いいだろう、言ってやる。我はな、お前の力を見てその未来に賭けて見たくなったのよ。その有り余る可能性、いくほどの想いを踏みにじることになっても、いいと思えるほどの未来を!」
「それは、なんで」
「我を助けたとして、きっとその優しさがお前を食い散らかすだろう。もともとこの世界の人間ではないのだ。さっさと目的のものを手に入れて立ち去るがいい」
信長は、まるで俺がこいつ達のような奴らに対抗できる力を手に入れようとしているのを、知っているようだった。
「さて、名は何とつけよう? その優しさを力に変える名前がいい。では、
信刀、というのはどうだ? いい名であろう?」
え、それは実休光忠の――、
それは直ぐに起きた。
キュインキュインキョウインキュインキュインキュインキュインキュイン‼
「俺の、体が!」
浮き始める、こんな中途半端で、この世界とオサラバするのかよ!
「どうやら、時間のようだな」
信長は、最後まで人としての一生を自分で考え、納得したらしい。これ以上、顔からは生きることを望んでいないようだった。
「我に会ったら言ってやれ! 未来を汚すことは、我自身が許さん、手をかけるなら、その刀に一生縛り付けられているんだな、とな‼」
「信長‼ 俺は!」
「遊び人よ、最後に問おうぞ‼ お前の、未来を変えた文化人の名前は何という‼」
大きな声で、体の芯まで震えてくる声を聞いても、狼狽えなかった。
最後まで自分を貫いた信長に、自分の名前を、はっきりと残したくなった。
「方後、丈‼ お前が守った未来でお前が守った世界に生きる、天才理論学者だ‼」
「いい名だ。お前なら、いや、お前達なら、きっとどんな未来でも任せられる」
捨て台詞を言っていた。最後まで信長は俺に別れの言葉は使わなかった。
まるで、これで終わりじゃないと言っているように。
空をどんどん上に上がっていく、周りには、世良達六人もいた。
「ちょっと~‼ 丈、どうなっているのこれ!」
「いえぇ~い。ぷかぷか~‼ 空のじゅうたん~」
「ちょっと不謹慎ですが、メイドの格好でこれ以上辱めを受けたくないです。元の世界にかえしてぇええふええええええ‼」
「ふふふ、海外旅行に行ったみたいだったね、丈様?」
「じょーくんの覚悟、うん、やっぱり私と結婚しよ?」
「なんか、刀を使えって言われたんだけど、『宝剣召喚』でいけるかな?」
俺は、もう自分の気持ちを恐れない。
手にしたのは、覚悟。不要なものは絶対的。
さぁ、勝負だ。徳川家康‼




