第百十五節 織田信長
前回のあらすじ
敵を前に足が竦んでしまっていた。
もう歯向かいたくない。そう思って全てを投げ出そうとしたのだが、
どうやら、俺を信じてくれているのは人だけじゃないようだ。
ド、ストストストストストストスト、ドスン‼
「者ども敵襲じゃあぁああ‼ 出会え出会え‼」
「いったぁあ~い‼ なんなのよぉもう!」
「何者じゃぁ。空から落ちてきよったのか? いやしかしパッと現れてきた、妖術でも使ったのか?」
「ふぇえええええええ‼」
「ちょっと、重い、おもいよ~けんしんさま~ぁ!」
「ご、ごめん」
ちょっと状況が理解できないが、どうやら俺達は何処かに飛ばされたらしい。
ただの鎺だと思っていたのに、あいつは俺達に勝てる可能性を示してくれたんだ。
ありがとう、こんな俺に。
「ああ、この重量、久しぶりに丈様に触れられて嬉しく思います」
「真智さん~。重い~バタンキューぅううう」
俺達は団子のように一つに重なり合っている。姉貴が一番下だったらしく、苦しそうだ。
というか、一番上が俺だった。ごめん。
これが姉弟サンド、って。そんなことを言っている場合じゃないな。
「こいつ、女を沢山連れて、遊び人か? どうも腹がたってしょうがないな‼」
うぁえわぁあ。どうやら行軍の邪魔をしてしまったらしい。あいつには感謝しているが、世界には短気な人が多いんだ。見てみろよ。今も無防備な俺達に足軽のようなやつが、足軽が、刀ぁ??
こわ! 肝が冷えるような殺気が俺達に、向けられているんだけど?
それにしても、足軽って、どこの戦国時代だよ。海外のコスプレ会場にでも来てしまったんだろうか。
しかし、
「待て、服装は怪しいが、武器を持っていない。ただの百姓だろう」
この声、は。俺はゾクっと、さっきまで直に感じていた恐れが俺を襲う。
目を、合わせたくない。死ぬ。そう、目を合わせる前から、俺はこの人に負けてしまっているんだ。
会話の主導権なんて、手に入れる真似すら、しなかった。
「ですが、この道、本能寺まで通る道を知っている輩ですぞ。ここでけじめはつけてもらいましょう!」
その集団の、血気盛んな一人が姉貴を、切りつけてきた!
咄嗟に行動できない、俺。だったが、
火縄銃がその集団を囲み、切りつけてきた一人の足元に発砲する。
「な、火縄銃が浮いている!」
「よ、妖術だ」
「敵は誰ぞ。まさか西の⁉」
「姉様に、刃を向けるなんて。どうやら死にたいらしいわねぇ。いいわ。拳銃を操ったつもりでいるんだけど、保存武器がない今は武器だったら何でもいい!」
なんで、世良は円武器じゃない火縄銃を操っていられるのか。いや違う、そういうことか。
丸の部分を持った拳銃を操っているつもり。でも、この時代には存在しない。
だから、世良の『円定理』はこの時代に合わせたものに無理矢理変わったんだ。
目の前にいる、本能寺に行こうとしていた、この時代の中心人物。
「貴様ら、奇妙な術を使いよって。ここにおわす、織田信長様がいると知っての狼藉かぁ‼‼」
あの鎺が飛ばした場所に見当がついてしまった。
ここは戦国時代の真っただ中。誰もが簡単に死んでいく可能性のある過去の、日本だった。
ということは。目の前の馬に乗っているこの存在感の塊である人物こそ戦国武将、天下に一番近かったとされる本物の、織田信長。
さっき会ったばかりにもかかわらず、その目は俺の心を最後まで削り取っていこうとする。
死にたくない。死にたくない。
「ふん、お前達。奇妙な技を使う。言え、誰に雇われた、クノイチ共」
「【宝剣召喚】‼」
「あまり近づかないでくれよ? 簡単に君を、生まれなかったことに出来るんだからね?」
戦おうとしてくれる女性陣達。それなのに俺は、どうしてこうも意気地がないのだろう。
経験していたはずだった、彼女達にも認められていることを俺は、やってきているはずだった。
前を見ろ! 安定は安定しないんだ‼ 一歩だけでいい、動いて――。
「ふん、女ども、遊び人を守るか。それほどの男には見えないがな。成長する未来が全く見えない」
俺は、ピクンと、反応した。感情が高ぶっていくのが分かった。
そうかよ、あの時刀を投げて渡したのも。これしか頼る物がないといっていたのかよ‼
「うる、せえよ‼‼ 俺は、俺達は未来から来た‼ こっちからしたら、お前なんて赤子を捻るように簡単にたおせるんだよぉお‼」
低く唸るように、吠えていた。は、ダサいな。ほとんど負け犬遠吠えに、相手には見えてしまったと思った。
少しも恐怖を感じない威圧になったから。
「貴様ぁああ‼ 殺す! 迎え撃つぞお前達‼」
『おおおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおお‼‼』
「まて」
なん、だ? 織田信長が戦闘意識が高まった彼らを止めている。
というか、俺は火に油を注いでしまったんじゃないだろうか……、バカだった。
いつもは、話し合いで解決するはずなのに。
「なるほど、これが未来の力と。であるなら、貴様はその力のいったい何なのだ?」
言ってしまっていいのか。いや、ここで言った方がいい気がした。
ここで言わないと誰も救うことが出来ないと思った。
「開発者だ。この力は俺が作った。未来で自分は、歴史に名を遺すほどの人間になっている」
「え、えええ? 方後くん⁉」
「へえええええ、え? ふぇえええええ‼‼‼‼」
「嘘よ、ね?」
あ、敵を揺さぶる前に、味方が揺さぶられてしまった。
「そうであるか。ならば一つだけ、質問だ。お前は敵か?」
「違う」
「なら、我の列に加われ。少し面白そうだ」
「な、信長様‼ このような狼藉者達になんて恩赦を!」
「黙れ、今決めた。それよりも先を急げ」
「は、ははははぁ‼」
どうにか、なったらしい。ははは、は?
このとき、よくわからない俺は、始めて自分の言葉で自分の全てを誰かに伝えられたようだった。




