挿話24 鍛冶屋の息子と角くん
「角くん、角くん」
「なんだ?」
でっかい大会から数日後、おれは校舎裏のいつもの角に話しかけていた。いない時もあるけど、今日はなんとなくいるだろうと思って話しかければ、返事が返ってきた。
ぶっきらぼうだけど、角くんはおれの武器話にもつきあってくれる貴重な友達なんだ。カイとかダックスとかゼーグとかも友達だし、他の寮生のみんなも友達だけどさ、おれが長々と武器の話をすると返事が雑になっていくんだ。
だけど角くんはおれの話に技術面で質問とかしてくれるんだ。
「角くんはさ、この前の武闘大会見た?」
「まあ、見もしたな」
「そっか、あの大会にさ、おれの友達も出てたんだ! カイっていうんだけど」
「知ってる」
角くんはおれに正体を明かさないけれど、やっぱりカイのことも知ってるらしい。だとは思ったけどね。
「あ、あと知り合いになったフェイスちゃんも出てたし優勝した」
「エヴァンズとも知り合いなのか?」
「うん。フェイスちゃんは、ジングフォーゲルの妹みたいな感じで、それでカイが知り合いで、それでおれも知り合いになったんだ!」
「そうか、ジングフォーゲルとは知り合いじゃないのか?」
「顔見知りかなぁ? いやおれ、ジングフォーゲルの顔ちゃんと見たことないや」
「ああそういえば、顔の造形整っている人間がお前は怖いんだったな」
やっぱ、角君はおれのことよく知ったうえで話しかけたんだな。『ボクの顔見たらお前は逃げ出す』って言われた時は、おれと同じ自信が無いから、そうなるって思ったけど、おれのこと思いやった結果だったんだな。
流石のおれでもね、いつもおれと話してくれる友達の声は覚えてんだよな。だからこそ、フェイスちゃんに声かけてた緑の貴族、テレル様が角くんなんだって気づいて、パニックになっちゃったや。
美形と遭遇した時のいつものビビりが出ちゃってさ、すんごい声出しちゃって、テレル様がそれ聞いて顔しかめんの見ちゃったんだよな。悪いことしちゃったな。でも、それでも顔見んの無理だし、あと角くんの正体をおれ知っちゃうと、おれとこんなふうに話せなくなっちゃう。敬語、おれニガテ。
「うん。まあそんなのは、どうでもいいんだよ角くん!」
「どうでもいいんだな。それで、どうしたんだシュミット」
「あの大会さ、カイも、フェイスちゃんも、ついでにジングフォーゲルもさ、良く授業で使う模擬刀使ってんの!」
「そういえばそうだな。多分、エヴァンズはもう少し短くしたものの方が良いだろうな」
「だよねー! おれもそう思った!」
おれが無理やり話しをすすめても角くんはのってくれるし、それどころかおれが欲しい反応を返してくれた。
流石、角くん。フェイスちゃんのやつ気づいてたんだ! 軍学校の模擬刀って男の子基準で作られてるから、筋力や身長的に考えるとフェイスちゃんにあう訳ないんだよね。フェイスちゃんのことを弱いとか思ってるんじゃなくて、最適な武器選んでないなーって思ったんだ。
他にもあの大会の武器選びみんな雑だったんだよなー。
「カイはなんならナイフとかでもいいかも! 避けるの結構普段は上手いから、ふところ入り込んでやればいいと思う」
「いや、駄目だろ。そこを活かしたいのは分かるが、もっと早い奴は多い。あと、あいつは入りこんだあとに失敗して肉弾戦にされると弱い。非力だ」
わー、角くんきびしい。でも、言う通りだなぁ。だって、カイ非力だもん。腕相撲したらおれいつも圧勝するもん。ダックスも余裕な顔でカイには勝っちゃう。多分平民寮で腕相撲大会したら下から数えた方が早いもん。
「なるほど! じゃあカイはどうすべきなの」
「根性は今回の大会でよくなったから、肉体を鍛える」
カイのやつどんまいだ! 根性は今回カイが色々大変な目に遭ったけど頑張ったから見直されてるけど、筋肉とかに対してはもうまるっきり否定されてるや!
というか角くんは結構自分にも他人にも厳しいよね。あの状態のカイみても、戦えるって言って兄貴の介入止める程だし、悪い人じゃないんだけど、他人の可能性を限界まで信じるタイプな気がする。
「そっか。ジングフォーゲルはさ、多分もっと重いのが良いと思うんだ」
あんま話してるとカイがとばっちりあいそうだし、次の人の話しよう。
「そうなのか?」
「うん。癖なのかな? 軽いのか剣すじぶれてるのが何回かあったから」
「よく分かったな」
「へへん。他にもカイ虐めてた赤い貴族いたじゃん」
「ああデアーグ卿のことか」
「あいつも、多分模擬刀じゃ軽かった」
「マイスター家なら真剣を普段使いしてる可能性があるからな」
なるほど、あのカイを虐めた貴族真剣に慣れてるからかぁ。金属と木製のものじゃ重さが全然違うもんなぁ。俄然、納得いった。ジングフォーゲルに同じ癖が出てんのはもう訳がわかんないけど、
「そうなんだ! おれ、あの二人見た時さ、おれが武器好きになったきっかけの刀を思い出したんだ。めっちゃ上手く使いこなせそうって」
「ほう、どんなものだ?」
「昔、親父のところに磨きの依頼できた、三振りの刀。ちょっと刀身が赤っぽいの。おれ、いつかあれを超えるものを生み出したいなって思ったのが、武器職人になりたいって思ったきっかけなんだ」
その刀を見たのはお昼だったのに、日が落ちるまでそこで固まってた。父ちゃんに聞いても、どこの職人が作ったのかは教えてもらえなかったんだけどさ、おれは勿論、親父が生まれるか、生まれないかくらいの時に、作られたんだって。
物は、武器は、時代や作り手を超えて影響を与える。そのことを、実感させられたんだ。
そんな風に思い出にひたっていると、角くんから大きなため息が聞こえた。
「お前……軍学校に入って軍人ではなく武器職人になりたいと言うとはな」
「だって色んな武器とか、武器関係の図録見られるじゃん。なによりさ、事件は現場で起こってるってやつだよ」
「言葉選びが最悪だな。武器で事件は現場で起こっているだと、凶器になってるじゃないか……言いたいことはなんとなくわかるが」
思ったことをまんま言えば、角くんなりに納得してくれたっぽい。やっぱ武器作りたいって思ってるから、使っている人たちのこと見ておかないといけないもの。
「紫の貴族の人とか遠目で見ることあるけどさ、みんな見本みたいな綺麗な型でさ、すごい参考になる。戦略的に投げたりもするけどね」
「ほう、お前の視点で語られるのは興味深いな」
「反対に黄色のとこは、なんかみんな妙にアレンジ入ってんの。あとたまにどうすればそんな動きになるのって何回見ても分かんない時があるよ」
「ああ、あそこはたまに目に追えない動きをするな。分析しようにも難しい」
「赤はこの学校にあんまいないけど、なんというか、振り下ろしにためらいがなくてさ。ああ武器に関しては、もう実際に使うことが多いんだなって思う」
「軍学校に入る赤はそうだろうな。特に赤のデアーグはマイスター侯爵家の出だ。実技は勿論、知識としても人の体の仕組みを熟知している」
わー、角くんが補足してくれる! 楽しーい! これなんだよなぁ、カイとかゼーグとか絶対こういう返ししてくれないもん。別にいいんだけどさ。
「ちなみに緑はどうだ?」
「緑の人たち、すぐ武器なしで戦いはじめる……なげるし。だから暗器みたいなのが向いてるかと一見思うけど、おおざっぱじゃん。ぜったい味方にあたるよ」
「ああ……」
やっぱ、身内が気になるんだな角くん。
「だから、防具類の強化が良いかな! シンプルで重めのやつ。下手に手甲にトゲトゲとかつけてもあの人達扱い雑だから折れる未来しか見えなくて、防具が可哀そう」
「基本的に彼らは、お前にこれを言うのはなんだが、生身だけで戦う方が強いな。物の類は気を抜くと壊す」
有名なオリス様とか、アルフレッド様とか、確かに、殴るとか蹴るとかがメインだもんなー。身近で見てる人の意見聞けてラッキーだ!
「でも、角くんの一試合目とかはともかく、兄貴との試合の時は、シュリーマン様の武器をわけてもらって、左手で扱っていたよね」
なんかペアの子、鎖で繋がった二刀流みたいな面白い形の武器使ってんな~って思ってたら、オリス様との戦いの途中でそれ分離してテレル様に渡してたから、そういう作戦なんだろうな。左手も一回目の試合で怪我したように見せてたけど、左手で武器扱ってたの見ると、油断させる為だったのかな。
あ、というか、おれから王都で信頼が出来て、特注の武器を作るのが得意な工房聞いてたからオーダーメイドしたのかな? 今度お願いして見せてもらおーう!
ん? というか角くん急に静かになったな? どうしたんだろう? もしかしておれの考えまちがってたかな?
「角くん? 違った? あれ作戦じゃないの? 鎖外せる仕様だよね?」
「そうだが、シュミット……お前、ボクの正体に気づいてるのか」
しまった! おれ、角くんがテレル様だって知らないフリをするんだって言うの忘れてた! 武器のこと話すとつい気が抜けちゃうけど、めっちゃヤバいじゃん!
「あ……えっと、知らないよ!」
「流石に無理があるな」
慌てて違うよーってやってみるけど、角くんの反応的にもうムリかな? え、でもそれだとおれめっちゃ困るんだけど。貴族相手に喋るとかやるのめっちゃ苦手だし、武器以外のことムリ! でもせっかく武器について話せる友達出来たのにな……。
「まあ……聞かなかったことにしよう。ボクは角くんだ」
「ありがとー!」
なんか知らないけど、角くんもおれと話せなくなるの嫌みたいだ!
このままでいいって言ってくれる! ラッキー! 厳しい角くんなのに、めっちゃ優しい対応だ!
でもさ、いつかおれ、苦手を克服してさ、顔を合わせてちゃんと話せるよう頑張るよ!
だって、仲良しな友達とは、面と向かって話せた方がいいからね!




