挿話25 評価基準
あの武闘大会から数日後、まだ若干体は痛いものの、通常では考えれない速さで怪我が治っているオレは、何故かテレル様に捕まっていた。
体の治癒はオリス様とかシュトックハウゼン家の令嬢から頂いた飴玉の効果の気がすっけど、そこは深く突っ込むのはやめとく。寮生にも治り早いと指摘はされたけど、「あー意外と、軽傷だった」とごまかした。
ゼーグとダックス、あとスキンヘッド先輩には怪訝そうな顔されたがな。前者二人はともかく、後者の先輩、あんたにそんな顔されんのは驚くわ。
で、オレの怪我の治りの早さも問題だが、今はそれよりテレル様がフェイスちゃんの話を振ってきたっつー問題に向き合わねぇと。
「ジングフォーゲルに話すと誤解されそうでな」
「よく分かっていらっしゃいますね……」
あのシスコンのことだ面倒なことになるのは確実だ。
というかそもそも、フェイスちゃんとテレル様って知り合いだったっけ? フェイスちゃんが同じ緑系統でも公爵子息のアルフレッド様によく構われてんのは知ってっけど。
そういや、オレが色々武闘大会でガチへこみしてた時に、フェイスちゃんがアルフレッド様のことでテレル様に話しかけられてたな……これはオレの監督責任が問われるか? いやでもあの時、オレに話しかけにきたエルも気づいてねぇからチャラか?
「あと今から話すのは、シュミットからの又聞きの話でな」
「ブープのやつですか?」
また意外な友人の名前が出て、更に困惑が強まりそうになるが、ブープのやつは、そういや、フェイスちゃんとテレル様どっちとも知り合いだったな。
テレル様は、美形恐怖症のあいつに合わせて、姿と素性を明かさず『角くん』として、武器についての話をよくしてるらしいし。
フェイスちゃんも、オレが怪我して観覧席に戻れない間にブープが武器の話をたくさんしてくれたおかげで、アルフレッド様のとこにしばらく戻らず済んだと感謝してたな。
エルに知られたら、悪い虫じゃないかって探られそうってひやひやしたけど、ブープなら武器バカなだけで平気だろうと思ったな、うん。
「珍しく武器以外の話をしていたから珍しくてな。人に対する評価基準について話してた」
「ブープがですか?」
「ああ、シュミットは顔が端正な人間に対して自信がなくて恐れるだろ。
その件について、エヴァンズが見解を述べたそうでそれが興味深くてな」
ブープ、プライバシーってもん忘れてんのか。顔も知らない対象にフェイスちゃんとの会話を筒抜けにすんな。
まあ、テレル様なら、危ない目にとかは遭わせたりはしねぇだろうけど。にしたって、女の子との会話を人に漏らすんじゃねぇ。
そもそも会話内容は変だけどな。人に対する評価基準って、初対面の同年代の少年少女はしねぇだろ。頭いい子と馬鹿が組み合わさった結果訳分かんねぇことになってやがんの。
だが、それがテレル様には刺さったらしく、しみじみとした声が出てる。
「元からアルフレッド様からお話は聞いているし、世話になっていて、関心は持っていたんだがな」
わぁ、音読させられた恋愛小説で見た『面白い女』そのまんまじゃんフェイスちゃん。まあ絶対そういう意味での興味ではないだろうけど。でも、本人このテレル様の言葉聞いたら、内心ブチ切れそう。
「で、ここからが問題だ。エヴァンズに話しかけようにも、避けられてる気がする。勿論、分析や対策等すれば、捕まえられるが、女性を追いかけ回すのは不味い。シュミットのように原因があるのか聞きたい」
あー、悲惨なことになってらぁ。
オレにとってはフェイスちゃんも、テレル様もどっちも別方向で良い人ではあるし、どっちとも仲良くしてぇなと思うけど、この二人が仲良くなれそうかって言われたら違う。だって、フェイスちゃん貴族嫌いだしな。あまり、年下の少女が苦労してんのも可哀そうだ。
でも流石にそれを直球では言えないので、
「えっと、彼女、貴族には恐縮するそうで……」
「武闘大会の試合を見てそんな風には感じなかったが……?」
テレル様が空色の瞳をぱちくりさせた後、あごに手をあてて考え込むのを見て、オレは目線を下げる。
ぐうの音も出ねぇよ。
迷子と一緒に見た試合のペアがどちらも動けなくなっている時に立ち向かったのといい、後から話を聞いたが決勝戦のアルフレッド様への啖呵といい、
貴族に恐縮何それ? かかってこいやぁっ! がフェイスちゃんだから。
「いやでも、そういうことか難しいな」
ああでも、納得してくれたんなら良かった。
***
数時間後にフェイスちゃんにも出くわした。
フェイスちゃんは大会直後のオレの様子を見ていたから、出歩いて大丈夫ですかと心配してくれた。エルから事前に聞いてオレが出歩いてるのは知ってたらしいが、それでも疑ってたみたいだ。
緑色の瞳でオレを上から下まで眺めてんのが分かる。
フェイスちゃん……オレはあの強がりな兄貴分と違って本当に無理な時は、寝込んでるから安心してくれ。
「フェイスちゃん、この前ブープと、価値観?の話してたみたいだな」
無駄に心配されるのも居心地悪ぃやと、大丈夫だぞーと示すように伸びをしながら世間話を始める。
「ああ、あれですか。ブープさんが美形にビビるようになった原因聞いた時に『初恋相手が悪すぎて、トラウマ持ってる』って思ったので、世の中、そんな酷い女の子ばかりじゃないからと言いたくて……つい自論を」
ブープのやつ、なんで初対面の女の子にそんなトラウマ話してんだよ。ゼーグと違って会話下手なタイプじゃねぇのに……いやでもあいつに常識求めちゃいけねぇか。まあ、下ネタ思いっきり話すタイプなんかよりは全然いいしな。そこらへんは信用してる。
それにフェイスちゃん自身がそんな気に留めてないのを見ると、又聞きの又聞きのオレがとやかく言う必要はねぇか。
「自論って?」
「人間が人間を評価する時は、評価する側の人間の価値観に大きく左右されるって話ですよ」
「そんな難しい話をしてブープに通じたか?」
間抜け面の友人を思い出しながら、そう真剣に問う。正直、オレもぼんやりとしかのみこめてない。
「もう少し柔らかく『例えば人への評価を100点満点のテストだとすると、出題者によって出る問題も、配点も違いますよね。ブープさんの初恋相手の出題はブープさんが解きにくいものだっただけで、他の出題者は違いますよ』って言いましたね」
「それでブープに通じたか?」
今の例えでオレは結構内容飲み込めたけど、ブープは武器バカだしなあ。
「通じたと思いますよ。『だったらオレもオレでその子の顔だけ見てたから、オレの問題の出し方も、見かたも良くなかったんだね。あの子にも失礼だったや』って言ってたんで」
「あいつ頭打った?」
急に百点満点の回答をしたブープに意外性を感じて、目を丸くしてしまう。
「ブープさんに対して、それは失礼ですよ。あの人、優しいですよ。カイさんの応援だって大声でしてましたし」
「良い奴なのは異論はねぇが、あいつはアホだし、早々にオレが負けると賭けた奴でもあんだよなあ」
「えぇ……?」
「つか、その理論なら、貴族だってフェイスちゃんのことを悪くするような連中じゃないってならねぇか?」
「私の方の採点の仕方で、貴族ってだけでマイナス500点なんで」
「あれぇ……?」
隙の無い笑顔で、とんでもないことを言い放つフェイスちゃんに間抜けな声が出てします。
「そういうカイさんはどういう採点基準してんですか?」
「え、うーん」
が、フェイスちゃんに小首をかしげながら質問を返されて、今度はオレが答える番になってしまった。
オレの人に対する評価基準かぁ、改めて聞かれると答えに困んなぁ。そういうのって無意識下でやってるもんだしな。まああんま悪い印象も持つことはねぇかな。
「よく分からねぇけど……オレに敵意とか悪意を明確に持って、直接向けてこなきゃそんな悪くは思わねぇな。向けられても被害が甚大じゃなきゃ流せるし。ああでも誰かを傷つけることを誇るような奴は嫌かもなあ」
この前の大会でのリンチまがいの件や、ノア先輩の事件を少し振り返りながらそう答える。
「なんというか分かりやすいですね」
「基本、人は好きだからな。じゃなきゃ、商人の息子やってらんねぇよ」
「なるほど……でもカイさんのタイプって詐欺られません?」
眉間にしわを寄せて考え込むフェイスちゃんに心配の色が見える。オレ、何で年下の女の子にこんな心配されてんの? そんな頼りねぇかな。エルにも前にも似たような心配された記憶あっけど。
「詐欺られねぇよ。ズーハオにお金関係は叩き込まれてんでね。ああでも……母ちゃんはそのタイプかもな。おまけに超大雑把」
「ああ遺伝……」
フェイスちゃんは納得したように言葉を漏らすし、なんなら商隊の連中も、カイは性格は母親よりだよなぁと言われるけど、オレはそうは思ってねぇけどな。
オレと母ちゃん、結構違うからな。あの人、たまにオレでもびっくりすることやるし、過去話でもザクザクおかしな話出てくるから。
「父ちゃんがしっかりっつーか、母ちゃん以外には厳しいんだよ。その父ちゃんもはぐれ者だったのを『人生面白くしてあげるよ』って母ちゃんが拾ったらしいし」
「お母さん、聖人かなんかですか」
「あ、そんなんじゃねぇよ」
フェイスちゃんの感心するような声に、オレは全力で手を横に振って否定する。オレも初めて父ちゃんと母ちゃんの出会いを聞いた時は、似たような反応したけどな。
「オレがこの話父ちゃんから聞いた時に、拾った筈の母ちゃんがそのこと忘れて『そうだっけ?』とか言ってズーハオ大爆笑してたから」
「ズーハオさん鬼ですか」
「母ちゃん、ズーハオ拾った時のことも忘れてるって判明した後だから」
一部始終聞いてた、オレとハノはドン引きよ。
人の人生の転換点になっておきながら、まったく本人自覚ねぇ上、大事件をすっぽり忘れ去ってる。
父ちゃんは『だろうな、君はそういう奴だ』とだけ言って、顔色変えずに普通に酒飲んでたけど。
両親のやり取りがもう信じられなくて『なんで、あの二人結婚したんだ』とあとでズーハオに嘆いたら、『お前らの父ちゃんも引っかき回されんのが好きなタイプなんだろ』って返された。
いや、引っ掻き回されたい云々とかじゃなくて、大事な思い出を忘れられてんの悲しいだろ。忘れ去られ2号と今でも思ってる。
「一気に可哀そうです。流石に人を拾ったときは覚えていましょうよ。というか、人ってそんな落ちてますか」
よかった、普通はそんなことがあったら忘れねぇが、全く関係ねぇ第三者のフェイスちゃんも感じる意見だ。うちの両親とズーハオがおかしいわ。
「あとそんなんだと……カイさんも誰か拾ったときのこと忘れそうですね」
「オレは忘れねぇよ。サドマ拾った時のことよく覚えてるし、なんなら数年ぶりに行く村の同世代のことも覚えて名前呼べたわ」
フェイスちゃん、その発言結構失礼だかんな。オレ、母ちゃんとはそこは違うつもりだかんな。
というか母ちゃんがおかしいだけだからな。
その日、不安になってオレが生まれた時の記憶とかあるって聞いたら、『痛かった! あと多分雨の日だった』って言われてほっとしていたら、父ちゃんに『晴天だった』って即訂正されてた。
いじけるオレに対して『まあとにかくあんた生まれて、今こんなに大きくなってんだからいいでしょ!』と雑に肩叩かれて流されたの、いまだに信じられねぇって思ってる。
ハノのやつ? あいつには『あにき、あのあとあれ質問すんのバカだろ。父ちゃんからのプロポーズとかもおぼえてないだろうなと思うレベルじゃん』とか追い打ち食らわされた。
うちの母ちゃんの人への評価基準って…………それこそ、どうなってんだろ。想像出来ねぇや。
母ちゃんは基本的には、困っている人は助けるし、商隊のみんなのことを大事にするし、オレの誕生日とかに好物作ったりはしてくれる良い人だけど、どっかねじが外れてんだよな。どこでも誰とでも生きてそうだけど、どこにも誰にも拘りないだろって思う。そんで、じいちゃん、父ちゃん、商隊連中、それ放置。
オレ……よくこんなまともな感性に育ったな。




