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本物  作者: イビサ
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俺は人間ではない。

不安定な精神では、真っ直ぐ道を歩くことすら難しい。

もしかしたら誰かにぶつかって大怪我をさせてしまうかもしれないし、そうなったら、俺のせいで誰かが真っ直ぐ歩けなくなるかもしれない。

だから俺は決めた。

努力をしようと。俺は今まで「真っ直ぐ歩く」という努力を避けてきた。できるだけ。トリッキーでも、運任せでも、とにかく前に進めさえすれば、それでいいと思ってきていた。

だが、流石にこのままでは状況は好転しない。何より、俺自身が面白くない。

真っ直ぐ歩く努力をするためには、まず体を支える柱を探すことが必要だった。

人間では無い俺を、上手いこと支える柱なんてそうそう見つかるわけがないので、何本か仮の柱を自力で建てることにした。

しかし、どうしてかな。まだ真っ直ぐ歩くことすら出来ないこの俺が、柱のような何かをいくつも建てて行くうちに、家が建ってしまった。

柱と言えるものは何一つない欠陥住宅だったが、それでも家は家だった。そして、人間では無い俺にとって、この家は、非常に住み心地がよく、癒された。

そうして1ヶ月、俺は毎日真っ直ぐ歩く特訓をした。

特訓が終わると、まるで全身がチーズになってしまったのではないかというくらい、体に力が入らない。両腕は、放っておけば地面に届きそうなくらい脱力していて、歩行の邪魔に感じた。なんだか本末転倒だなと感じながら、家のベットに寝転がる。そうなると、今度は「腕を切り離そう」だとか、いっそ自分のことすら「ロボットだと思ってみよう」とか、突拍子もない発想で、おかしな目標を立て始めるようになる。そういう時は、とにかく深く考えず寝ることにした。

真っ直ぐ歩くことすらまだできていないのに、空を飛びたいとか言い出しているような状況で、俺は日々の努力をしながらも、心のそこではちっとも人間になれる気がしていなかった。

それから、前に進むための技術を知らないので、そしてそれを理解し身につけたかったので、歩き方の本から何から様々な本を読むようになった。

中には、空を飛ぶ方法が書いてある本もあった。最初は眉唾物だと思っていたが、多少理屈や筋が通っていたり、なんとなく共感できるような話が載っていたので、目を逸らす気にはなれなかった。そういう方法もあるのか、と思うと少し気が楽になった。

また、人間では無いからこそ理解できるものがあることを深く痛感した。つまり、闇である。人間は闇への恐怖心から抵抗や拒否反応を起こす。しかし俺は人間ではないのでそういったものを真正面から見ることが出来る。そして、それが一体どういうものであるか、なんとなく「わかる」のだ。

闇を感じた時、俺はすぐさまシャッターを切るようにしている。見つめることで、もしかしたら、俺の「何が人間では無いのか」が、理解できるのではないか? と思っている。ただ、決して飲み込まれることがないように、闇を見たあとは必ず欠陥住宅に帰るようにした。欠陥住宅に帰れば、自分を支える仮の柱たちが、俺をどういう存在で何をしたかったのか思い出させてくれた。

真っ直ぐ歩く特訓ばかりしていると、今度は自分のことや、家の手入れを忘れてしまうことが多くなった。夜通し歩き続けた時なんかは、指先がとても冷たくなって、自分は実は人間だったのかな、とも思ったりした。

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