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田舎の農家のおっさん、Jリーグの名将になる  作者: やしゅまる


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第6話「走る監督、手伝う選手たち」

 初勝利から数日


 福岡ユナイテッドのクラブハウスには、まだ勝利の余韻が残っていた。


 練習を終えた選手たちが次々とロッカールームへ戻っていく。


 古賀誠一は一人、ベンチに座ってスマートフォンを眺めていた。


「先生、何見てるんですか?」


 神崎が覗き込む。


「田主丸の農家さんから連絡が来とる」


「農家?」


「うん。収穫が間に合わんらしい」


 古賀は画面を見ながら考える。


「明日みんな暇?」


「……練習以外で?」


「そうたい」


 古賀は当たり前のように言った。


「農家さんの手伝いに行こう」


「…………」


 選手たちが固まった。


 相川が恐る恐る尋ねる。


「監督……地域貢献ですか?」


「そうたい」


 古賀は笑う。


「困っとる人がおったら、助けるんやろ?」


 その言葉に、選手たちは顔を見合わせた。


 ――困った人がおったら、近くの人が助ける。


 それは、古賀が毎日のように言っている言葉だった。


「……行きます」


 神崎が答えた。


 白石も手を挙げる。


「俺も」


「俺も行きます」


 城戸も続く。


 カルロスも頷いた。


「センセイ、ワタシも!」


 岩永まで立ち上がる。


「俺も付き合いますよ」


 相川はため息をついた。


「……私も行った方がいいんでしょうね」


 古賀が笑う。


「もちろんたい」


「やっぱり……」


     ⸻


 休日。


 福岡ユナイテッドの選手たちは、田主丸へやって来た。


 畑の前には、一人の農家の男性が立っていた。


「本当に選手さんたちが来てくれたと?」


「そうばい!」


 古賀が笑う。


「今日はこいつら、体力だけはあるけん。いっぱい使ってください」


「監督!」


 白石が抗議する。


「俺たち、プロですよ?」


「知っとるよ」


「なら、もうちょっと丁寧に……」


「じゃあ、働こうか」


「……はい」


 古賀から渡されたのは、収穫用のコンテナだった。


「まずは野菜を収穫して、あっちまで運ぶ」


「これだけですか?」


「うん」


 白石が軽々とコンテナを持ち上げる。


「これなら余裕ですね」


 古賀はニヤッと笑った。


「じゃあ、何往復できるかやってみよう」


「え?」


     ⸻


 最初は順調だった。


 野菜を収穫する。


 コンテナに入れる。


 運ぶ。


 また戻る。


 そして、運ぶ。


 白石の足が少しずつ重くなっていく。


「……監督」


「ん?」


「これ……何往復目ですか?」


「知らんたい」


「知らないんですか!」


 岩永も汗を拭う。


「これ、普通にフィジカルトレーニングよりキツいぞ……」


 城戸は黙々と作業している。


 カルロスは二つ目のコンテナを持って走っていた。


「カルロス、走らんでいい!」


 古賀が叫ぶ。


「ハヤイホウガ、イイ!」


「野菜が揺れて傷がつくたい!」


「……アッ」


 カルロスが急停止する。


 コンテナの中の野菜が揺れた。


 全員が笑った。


「センセイ……農業、難しい」


「サッカーと一緒たい」


「?」


「なんでも速ければいいわけじゃなかろ」


 カルロスが頷く。


「ナルホド」


     ⸻


 しばらくすると、カルロスが重そうなコンテナを一人で運んでいた。


 神崎が気づく。


「カルロス、二人で持とう」


「ダイジョウブ」


「いや、みんなで持った方が早い」


 白石もやって来る。


「俺も持つ!」


 三人でコンテナを持ち上げる。


「せーの!」


 軽々と運んでいく。


 その様子を見ていた古賀が笑った。


「そうそう」


 相川が古賀を見る。


「監督」


「ん?」


「これも……サッカーなんですか?」


「うん」


「やっぱり」


 古賀は畑を見ながら答える。


「一人で頑張るより、助けあいながらやった方がよかろ?」


 相川は黙った。


「……サポート」


「難しい言葉は使わんでよか」


 古賀は笑った。


「困っとる人がおったら、近くの人が助ける。それだけたい」


     ⸻


 昼前。


 農家の男性が選手たちに話しかけてきた。


「昔はもっと人がおったとばってんね」


 選手たちは作業の手を止める。


「今は一人でやることも多くなって……」


 白石が尋ねる。


「大変じゃないですか?」


「大変たい」


 男性は笑った。


「でも、作るのが好きやけん」


 古賀が頷く。


「じゃあ、好きなことを続けられるように、今日は俺たちが手伝うたい」


「……ありがとう」


 男性は深く頭を下げた。


 その姿を見て、白石は少し照れたように笑った。


「なんか……いいですね」


 城戸も頷く。


「サッカー以外で人に喜ばれるのって、ちょっと不思議です」


 古賀は二人を見る。


「サッカーも同じたい」


「え?」


「誰かを助けたら、その人が嬉しいやろ」


「はい」


「それが仲間でも、お客さんでも、地域の人でも一緒たい」


     ⸻


 作業が終わった。


 収穫した野菜を並べていると、農家の男性が困った顔をした。


「……でも、これだけ残っとるとよ」


 大量の野菜。


 白石が驚く。


「こんなに?」


「全部売れるか分からんとよ」


 しばらく沈黙。


 すると白石が言った。


「じゃあ、俺たちが売ればいいじゃないですか」


 古賀が振り返る。


「……それ、いいね」


 相川が驚く。


「売るんですか?」


「せっかく作った野菜やけん」


 古賀は野菜を手に取った。


「誰かに食べてもらおう」


     ⸻


 翌日。


 小柳がクラブ公式SNSで告知した。


『田主丸の農家さんを応援!

 福岡ユナイテッド野菜販売会を開催します!』


 場所はクラブハウス前。


 販売開始と同時に、サポーターが集まってきた。


「田主丸の野菜です!」


 白石が声を張る。


「新鮮ですよ!」


 城戸も呼び込む。


 カルロスは野菜を持って、


「オイシイヨ!」


 と笑顔でアピールする。


「カルロス、それだけ?」


「オイシイヨ!」


「それだけか!」


 みんなが笑う。


 するとサポーターの一人が声を上げた。


「あっ、そろばん踊りの監督!」


「本物だ!」


 古賀が照れながら頭を下げる。


「どうも、古賀です」


「野菜買います!」


 そこから次々と人が並び始めた。


 トマト。


 きゅうり。


 季節の野菜。


 用意した野菜は、どんどん売れていった。


     ⸻


 販売終了。


 農家の男性が売上を確認する。


「……こんなに売れるとは」


 驚いた顔だった。


 古賀は笑う。


「みんなでやったけんたい」


「本当に助かった」


 男性が古賀に頭を下げる。


「いやいや」


 古賀は慌てて手を振った。


「こっちこそ楽しかったです」


 白石が隣から口を挟む。


「監督、俺、明日筋肉痛ですよ」


「そりゃよかった」


「なんでですか!」


 古賀は真顔で答えた。


「筋肉痛になるくらい、誰かの役に立ったってことたい!」


「……それ、筋肉痛の新しい使い方ですよ」


 選手たちが笑う。


 その横で、小柳はカメラを回していた。


 ファインダーの中には、汗だくになって笑う選手たち。


 そして、何度も頭を下げる農家の男性。


 小柳は小さく呟いた。


「……これ、ただの地域貢献企画じゃないかも」


 相川もその光景を眺めていた。


「先生は、選手を強くするだけじゃないんだな」


「どういう意味ですか?」


 神崎が聞く。


 相川は少し笑った。


「チームそのものを、地域の中に置こうとしてる」


 古賀には、その言葉は聞こえていなかった。


 ただ、売り場を片付けながら選手たちに声をかける。


「みんな、ありがとう」


「また何かあったら手伝おうな」


 神崎が笑った。


「もちろんです」


 古賀は頷く。


「困っとる人がおったら――」


 選手たちが先に答えた。


「近くの人が助ける!」


 古賀は満足そうに笑った。


 福岡ユナイテッドの新しい戦いは、ピッチの外でも始まっていた。

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